第2話

――。

 あれから私は生きながらえることができた。


 においが鼻にツンと刺さる場所で、同じにおいをさせる大きな生きものにんげんにふしぎなエモノをわけてもらい。

 おかげですっかり体の調子は良くなった……と思う。せまい場所に閉じこめられているから、ちょっとわからない。

 同族たちの泣き声が聞こえ続けることに目をつぶれば、なかなか悪くない場所だ。


 そう思っていると――あの者がやってきて、また別のせまい場所に押しこまれた。

 そして、目まぐるしくかわる音とにおい。




――。

「ヨーシ、キョウカラココガオマエサンノイエダ! スグニヒッコスコトニナルケドナ! …………ドコニペットキャリーヲオコウカナ。カベギワデイイカ」


 ようやく落ち着いたと思ったら、目の前がぱっと明るくなり、外に出られるようになった。

 しかし油断はしない。少なくともここにいれば1方向を警戒するだけですむのだから、安全を確認できるまではじっと忍耐だ。


「アレ、ペットキャリーカラデテコナイナ。ウーン……トリアエズ、エサダシトクカ。ドンクライガイインダロ? マア、イッパイダシトキャイイカ」


 せまい場所から少しはなれたところに、ふしぎなエモノが山盛りに置かれた。エモノのにおいが鼻を通りハラを鳴かせる。に、忍耐……。


――。

 外が暗くなり、あの者の寝息が聞こえてきた。

 ……そろそろ大丈夫かな。出よう。


 音をたてないように、ゆっくりと。

 首をめぐらしながら、すばやく。


 そして――今だっ! エモノに食らいつく。

 口にした瞬間、ゆたかなかおりが鼻を抜け、『はやくよこせ』とハラがうなる。

 かみくだくのもそこそこに、飲みこむ。

 うんっ! おいしいっ!


 ねずみや虫とは違った食感で、変な感じだけど……うん、これのほうが良い。


 ――大きな生きものにんげんは謎につつまれている。


 こんなエモノをどこから、どうやって取ってきているのだろう。

 それに、せっかく苦労して取ったエモノをわけてくれるなんて。


 まったくもって、ふしぎだ。




――。

 た、食べすぎた……。


 さいわいにもここはあの者の寝息が響くだけで、驚異となりそうな音は遠い。少し休もう。


「…………ンー…………」


 あの者が身じろぎをした。

 び、びっくりさせないでほしい。


 すこしでも情報を得ようと、鼻をひくつかせると――あの者のにおいがハラいっぱいに広がった。それはなんだか体がふわふわして、落ち着かなくて。


 せまい場所安息の地にもどろう。


 ……うん、ここなら自分のにおいを強く感じられて、安心する。




――。

「…………イマナンジダ……クジ…………ア゛ァ゛、オキルカ……ヨッコラセ」


 あの者が動き出し、歩くに合わせて足音がする。

 そんなに音をたてて動いたらすぐに敵に見つかって死んでしまうだろうに。どうやって生き残っているのかと、疑問に思う。


「ッシャア! カーテンアケーノ! ソラガアオイーノ! マドアケーノ……ハ、ヤメトクカ。マドカラニゲラレタラコマルシナ」


 とたんに外が明るくなった。

 そして、あの者が近づいてきて、足が見えた。


「オッ、チャントタベタミタイダナ。エライ! ……ソウイヤ、オマエノナマエ、キメテナカッタナ」


 大きな生きものにんげんは謎につつまれている。


 日ごとに毛皮の色が変わる。

 毛皮を剥いだり身にまとったり……痛くないのだろうか。


「キョウハ、オマエヲカッテモダイジョウブナトコロニヒッコスカラナ。ダイイドウニナルケド、ガマンシテクレヨ」


 まったくもって、ふしぎだ。


「フクハ……ドウセジモトダシテキトーデイイカ」

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