チュートリアル

2 まるで実家のような安心感。

――。

 ゆっくりまぶたを開けると……光で目がやられてなんも見えねえ。


 視力が回復してくると――見慣れた天井が視界に映った。

 そして、畳の爽やかな香りと、体をやさしく包む敷布団の感覚。

 まるで実家のような安心感。


「……ん?」


 むくりと体を起こしてあたりを見回すと、そこは――実家の和室8畳間だった。


「実家じゃねえか!」


 そりゃ安心感も覚えるわ!

 おかしい。俺、ゲームやってたはずだよな……? 夢でも見てんのか。


 きっとすごい冒険が待っていると思ったら、いつのまにか実家にいた。何を言っているのかわからねえと思うが俺もわからん。


 確かめるように自分の体を触る。

 紺色のジャージに黒色のスニーカー。フルダイブ空間の初期服だった。

 ひとまず靴を脱ぎ――靴下はシンプルな黒色のものだった――布団の上であぐらをかいた。


 オーケー。こういうときは落ち着いて状況把握に努めるのがセオリーだ。むかし、飼い猫のポチがそう言っていたから間違いない。猫がしゃべるわけねえだろ。


 ――部屋を観察する。

 壁際に置かれた傷だらけの文机ふみづくえと、すぐ近くに紫紺しこんの座布団。

 本棚には漫画やゲームの攻略本などがぎっしりと詰まっていて。

 木のゴミ箱が部屋の隅にある。


 どこからどう見ても、小学生の頃にすごした実家の部屋だった。


 今は夕方なのか。

 ふすまの外から夕日がさしこんでいる。西日の赤と、影の黒とで、部屋がコントラストあざやかにライトアップされていた。



 そのとき、

 グギュルル――腹の虫が鳴いた。


 腹、減ったな……。とりあえず何か食べっか。

 今の実家には誰も住んでいないから、飯を食べたければ自分で何か買ってきて作らないといけない。


 そんなわけで、靴を持って立ち上がり、広縁ひろえん――広い縁側えんがわというか、廊下みたいなところ――へつながるふすまに向かい、歩く。


 料理めんどくせえ。八百屋やおやのおっちゃん元気かな。てか外あかすぎね? ゲームやってたはずなのになんで実家にんだ?


 そんなことを考えながらふすまを開けると――


 広縁に取り付けられたまどの外、かつて祖父が手入れしていた庭があるはずのそこは。

 草も木も、山もなく、起伏きふくすらもない、見渡す限りの平らな砂地で。

 夕日だと思った空は。

 深紅しんくに染まった分厚い雲と、真っ赤に燃える太陽で。


 ――世界の終わりが、地平線まで続いていた。



 …………これゲームの中だわ!

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