Believe in Your Bravery [A] <ビリーブ・イン・ユア・ブレイブリー [エー]>

猫戸ヤマメ

オープニング

1 どうも、タイラ・ボンと申します。なんか違うな。

――主人公に、なりたいですか?


 自分が今、目を開けているのか閉じているのかすらわからないほどの闇の中で。


「なりてえなあ、主人公……なりてえけど」



――主人公やヒロイン、悪役、脇役など、物語には様々な役割を持った人物が登場しますが、……現実において、ほとんどの人は主人公はおろか脇役にもなれません。


 どこからか声が聞こえてきた。暖かで涼やかな、風鈴のような声だ。


「そこは嘘でも『私たちはみんなそれぞれ人生の主人公!』って言おうぜ!?」



――でもそれは、主人公になる方法を知らないから。


 声が手を握った気がした。温かくてほそやかで、少し小さな手だ。


「流れ変わったな」



――5つの世界を救った暁には、あなたは立派な主人公になっていることでしょう。


 そして


「そんなうまい話ある? ……でも、そうだといいなあ」



――ようこそ、未来の『主人公』。


 世界に、光が満ちた。




――。

 声がフェードアウトしていき、効果音とともにタイトルロゴが表示された。

 暗闇に慣れた目に明るい色が刺さり、思わず目を細める。

 現実との違いがわからないほど、クリアな視覚だ。


「すげえ……これがフルダイブか」


 初めてのフルダイブに感動して自分の体を触ると、いつの間にか紺色のジャージを着て、黒いスニーカーを履いていた。噂に聞いていたフルダイブ空間での初期服。


  ――|Believe in Your Bravery《ビリーブ・イン・ユア・ブレイブリー》

 無名のゲームメーカーがすごいもんを作ったぞ、とゲーマーの間で大きな話題を呼んでいる、フルダイブオフラインRPGゲーム。

 大手ゲームレビューサイトでは異例のスコア99を記録し、ただでさえ製造が追いついていない家庭用フルダイブVRデバイスの在庫薄ざいこうすに拍車をかけた。


「あー、キャラネームどうすっかな。どうせならなんかいい感じに主人公っぽいネームを……」


 草原を映した画面に切り替わった。

 視界の中央下に黒い横長の枠プログレスバーが現れ、左から右へ少しずつ白く染まっていく。


「主人公っぽいキャラネームってなんだ……?」


 平凡な俺にはわからんぞ。

 シュジン・コウとかかな。……しっくりこないな。

 いっそタイラボンで行くか。どうも、タイラ・ボンと申します。なんか違うな。

 やっぱり厨二病全開で、異能力系マンガに出てくる主人公っぽく…………


 横長い枠プログレスバーの黒と白が同じくらいの長さになった。


「主人公、か」


 ……俺なんかが主人公になれんのかな。


 そりゃ主人公になりたいと思うけどさ。

 立ちはだかる敵を全員ぶっ飛ばして、困ってる人を放っておけなくて、最後にはなんだかんだ世界を救っちまって。

 正直……そういうの、憧れる。

 でも、思ってなれるのなら、人類みな主人公になってる。


 バーが白に塗りつぶされ、同時に俺の周囲が強く光りだす。


「おっ、これが転移の光ってやつか! 眩しすぎィ! 何も見えねえ!」


 まあ主人公になれなくても、ゲームを楽しめればそれでいいかな!



 このゲームは評判がめちゃめちゃ良いらしいし、きっとすごい冒険が待っているに違いない!

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