lightship(シナリオ)
登場人物:
タマキ(29)
フミ(29)
ニッタ(43)
アンナ(21)
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〇タマキの職場
タマキ「おはよーございます」
タマキ、出勤。低いテンション。
時刻は11:00前。
ニッタ「おはようさん」
アンナ「おはようございます」
タマキ、自席に着き、椅子にもたれかかり、「あーっ」と低く、声にならない溜息。
身体を起こし、Macの電源をつける。
アンナ「タマキさん、見ました?」
タマキ「なに」
アンナ「斜め向かいのとこのビル」
タマキ「あー……なんだっけ、なんかいっぱいいたね。なにあれ?」
ニッタ「『発光』だってさ」
タマキ「あー……出たんすか」
アンナ「朝来たときとか、もっとビルの上の階のほうでこう、すごく明るくなってて」
タマキ「へぇー……」
アンナ「ほらこれ」
アンナ、スマホを見せる。
ビルの様子。ある階の窓だけ、場違いに美しく光っている。
ニッタ「……そんなもん、撮ってどうすんの」
アンナ「すいません、でも、綺麗じゃないですか?」
ニッタ「そりゃ綺麗だけどさ……」
アンナ、スマホを仕舞う。仕事に戻る。
***
ニッタ、Macの画面から目を離さずに、
ニッタ「タマキちゃんとかアンナちゃんの世代ってさ、どうなの、『発光』とかって」
タマキ「あー……でも私が小学校のころとかに何か最初のころのニュースみた記憶ありますよ」
ニッタ「アンナちゃんは?」
アンナ「わたしは生まれる前ですね」
タマキ「若っ」
ニッタ「俺なんて社会人なってからだよ。最初の『発光者』が出たのって」
アンナ「最初のころってどうだったんですか?」
ニッタ「あー……もう凄かったなあ。皆パニックで」
アンナ「へぇー……」
ニッタ「未知のウイルスだ!とかさ。あとは、これは神の救済だ!とかのもあったなぁ」
アンナ「……今じゃ考えられないですよねー」
ニッタ「ほんとになー……原因も何も分かんないし、第一、皆慣れちゃったもんなあ」
ニッタ、コーヒーをすする。
ニッタ「でも最初のころはほんと怖かったよ。ほんとに」
タマキ「……そりゃ人間がいきなり光になって消えたら、ビビりますよね」
ニッタ「まあー人間なんでも慣れちゃうもんだな」
しばし一同沈黙。
アンナ「……『発光』って、やっぱ痛いんですかね。痛かったらやだなー」
ニッタ「さあ……あっ、でも結構前にさ」
ニッタ、言葉を止め、しばし手元の作業に集中。そして、
ニッタ「10年くらい前だったかな、大学ん時の友達がさ、いきなり電話してきて。『発光する!』つって」
アンナ「えっ、どうなったんですか?」
ニッタ「や、どうもこうもなくてさ、もうどうしようもないし。仲良かったやつに連絡して最後皆で旅行行って」
アンナ「えっいいな~。どこいったんですか?」
ニッタ「地元。九州。フェリーで男4人でさ。あれは楽しかった」
タマキ「……それで?」
ニッタ「それで?」
タマキ「その人、どうなったんですか?」
ニッタ「あぁ……4日目くらいだったかな~。皆で呑んでたらふら~っと抜け出してさ。それで、パッ」
ニッタ、手振りで示す。
しばし一同沈黙。
ニッタ「……最後いなくなる前にさ、『ほんとたのしかった~』つって……なんかあれはずっと残ってるなあ」
アンナ「へぇー……」
アンナ、手を止め聞き入っている。
タマキ、画面から目を離さないものの、手は止まっている。
ニッタ「それで、なんか色々俺なりに思うところがあってさ、前の会社辞めてこの会社つくったってわけよ」
アンナ、「……おぉ~」と、思わず拍手。
ニッタ、少し照れくさそうに笑う。
ニッタ「さ、話は終わり。アンナちゃん、西片さんのとこのチラシ明後日初校でしょ?ラフ今日だせるの?」
アンナ「え~っ、せっかくいい雰囲気だったのに……」
タマキ、静かに笑う。そしてタバコを手にとり、
タマキ「ちょっとタバコ行ってきます」
ニッタ「うーい。あっ、タマキちゃん。今やってるカタログっていつラフでそう?」
タマキ、立ち止まり、しばし思案。
タマキ「えーっ、今週末にはいっぺん先方に見せられるようにしようと」
ニッタ「ん。オーケー」
タマキ、そのまま事務所を出る。
〇タマキの部屋(夜)
タマキ、風呂上り。
とりあえずタバコに火をつけ、一服。
と、テーブルの上のスマホ画面が表示される。
「お久しぶりです。フミです。おぼえてますでしょうか」
「急ですみません。実は明日お近くへ寄るのですが、お昼ごろ会えないでしょうか」
タマキ、タバコを咥えつつスマホを手に取る。
しばし思案。返信する。
〇カフェ・店内
店内、それなりに込んでいる。
タマキとフミが同じテーブルに座っている。
ややぎこちない雰囲気。
フミ「……なんかさ、あんまり変わんないね」
タマキ「……そうかな?」
フミ「うん」
タマキ「そんなことないよ……たぶん」
少し間をおいて、
タマキ「……つまんなくなったと思う」
フミ「そうかな」
タマキ「そうだよ。大人になってさ、働いたりしてさ」
フミ、コーヒーを一口。
タマキ「……なんかごめん」
フミ「なにが?」
フミ、驚いて聞き直す。
タマキ「や……なんか、なんかさ、あのころはもっと私もとがってたかなと思って」
フミ「……とがってたね」
タマキ「だから、うん。なんか、フツーになっちゃったなって」
タマキ、カップを手に取る。飲まない。しばしコーヒーに目を落とす。
フミ「でもさ、だいたいみんなそうじゃないかな」
タマキ「そうだけどさ……なんか」
一瞬、沈黙。
タマキ「仕事はどう?」
フミ「どうって?」
タマキ「や、楽しいかなとか」
フミ「うーん……普通くらいかな。まあ色々あるけど……たぶん恵まれてるほうだと思う」
タマキ「そう」
フミ「タマキは?」
タマキ「えっ?」
フミ「仕事。どう?」
タマキ「えー、どうだろうな……」
タマキ、コーヒーを一口。
タマキ「ちっちゃいとこのチラシとかさ、パンフとか、あとホームページとか、まあそんなに目立つようなあれじゃないけど。でも……うん。たぶん仕事自体は楽しいと思う」
フミ「そっか」
タマキ「時々嫌になるけどね」
フミ「ふふっ」
***
会話、やがて途切れがちになる。
テーブルの上のコップは既に空に近い。
タマキ「今日さ」
フミ「ん?」
タマキ「や、なんか、ずっと連絡とってなかったからさ……なんかあったのかなと思って」
フミ「んー」
フミ、しばし黙り、
フミ「実はさ」
フミ、袖をめくる。腕の一部がほのかに『発光』している。
タマキ「あっ」
フミ、袖を素早く元に戻す。
タマキ「……いつから?」
フミ「……二週間くらい前かな。声がしてね」
タマキ「声……?」
フミ「うん。それで今日起きたらその声がね、『今日が最後だよ』って」
タマキ、フミを見つめる。何か言いたげ。言葉にならない。
フミ「……言わないだけで、『発光』したひとは皆そうなんじゃないかなー」
しばし沈黙。
フミ「……なんかそしたらね、最後にタマキに会いたくなっちゃって」
タマキ、答えられない。
フミ「……今日はありがとね。もうお昼休み終わりでしょ?……私もう行くね」
フミ、立ち去ろうとする。
タマキ「……このあとは?」
フミ「えっ?」
タマキ「このあと、どうすんの」
フミ、しばし思案。
フミ「……実は何にも考えてなくって。ちょっとぶらっとして、どっか邪魔にならない、見つかりやすいところにいようかなと思うけど。このへんいいとこあるかな?」
タマキ「……あのさ」
フミ「ん?」
タマキ「……最後に、行きたいとことか、ある?」
〇海辺(夜)
夜の海辺。
タマキ、フミ、砂浜を歩いている。
フミが先、タマキがあと。
フミ、全身がほのかに光っているが服の上からでも分かる。
フミ、振り返り、
フミ「懐かしいよね。ここ」
タマキ「……ん」
フミ、思い出し笑いしつつ、
フミ「タマキさ、いきなり『やってらんねぇ、海行くぞ』って。それでそのままふたりして授業さぼってさ」
タマキ「ふふっ」
フミ「でも、楽しかったよね」
タマキ「……うん」
フミ、砂浜に座る。
タマキも隣にきて、座る。
しばし沈黙。夜の海を眺める。
タマキ「……ごめん」
フミ、驚いて、
フミ「なにが?」
タマキ「勝手にさ、学校辞めて、いなくなって」
フミ「……うん」
タマキ「……ごめん」
しばし沈黙。
フミ「私も」
タマキ「……なにが?」
フミ「……もっとちゃんとさ、ちゃんと、もっとタマキと話すればよかったのに、とかさ。あのときこうすればよかったのに、とかさ。ずっと。そんなことばっかりで……」
タマキ「……ん」
フミ「……なにそれ」
タマキ「や……だって……」
タマキ、フミ、訳もなく笑いだす。
タマキ、ポケットからタバコを取り出す。
火をつける。
ふーっ、と煙を吐き出す。
再び口にくわえる。
フミ「……タバコ」
タマキ「ん?」
フミ「一本ちょうだい」
タマキ、タバコを手に取り、
タマキ「……これが最後の一本」
フミ「……じゃあ、それ」
タマキ「……ん」
タマキ、タバコをフミの口元へ。
フミ、タバコを咥える。吸う。タバコを手に取る。激しく咽る。
タマキ、笑いながら背中をさすってやる。
タマキ「いきなり吸うんじゃなくてさ、外の空気と一緒に煙をいれるんだよ」
フミ、涙目で咳込みつつ、
フミ「……もういい。返す」
タマキ「ふふっ」
タマキ、タバコを受け取る。再び口にくわえる。
フミ「……高校のときから吸ってたよね」
タマキ「ん」
フミ「……ずっとさ、かっこいいなって思ってた」
タマキ「……」
フミ「……今もだよ?」
タマキ、フミのほうを見る。
タマキ「……そうかな」
フミ「そうだよ」
フミ、笑う。
タマキ、答えられない。
フミ、立ち上がる。お尻の砂をはたく。
身体の光はますます強くなって、フミを包み込んでいる。
タマキ、ぼんやりとフミを見つめ、
タマキ「……行くの?」
フミ「……うん。行く」
タマキ「……そ」
タマキも立ち上がる。
フミ、笑顔でタマキを見つめ、手を差し出し、
フミ「じゃ。元気で」
タマキ「……そっちも」
握手。
***
フミ、海へ向かって歩く。
タマキ、その様子を見ている。
フミ、どんどん歩いていき、やがて波間にのまれ、見えなくなる。
水面だけがひときわ明るく光る。
光が徐々に小さくなる。
光がひとすじ、海面を貫いて空へとのびていく。
タマキはその光をずっと見つめている。
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