第10話 宝物の在り処①


「……っ」


 トール・モールの屋上で、キアンは気絶から目を覚ました。


「……!!キアン、見て!!」


 ビローグは何かを見付けたようだ。

 興奮気味に、キアンの背後へと飛んでいく。


「え?」


 そこにはエサ用らしき少しの草原と、雨を貯める水桶と、小屋があり、そして…。


「モウ~モウ~」


 魔法の牛グラス・ガウナンが鎖に繋がれていた。


「グラス・ガウナン!!こんなところに!!」


 キアンはようやく見つけた宝物を抱きしめ、安堵に胸をなでおろした。


「モウ~モウ~」

 

 魔法の牛は、久々の主人の登場に嬉しそうに鳴いた。


「まさか屋上で野ざらしとはねえ……」


 ビローグが肩をすくめる。


「見つけたぞ!!」

「捕えろ!!」


 フォーモリア族の兵士たちが、トール・モールをよじ登ってくるのが見える。


「……っ!急ごう!」

「わかってる!」


 ビローグはその妖精の羽をはたはたと動かし、

 空を飛ぶ魔法の粉をグラス・ガウナンとキアンに振り落とす。


 そして空へ浮かんだキアン一行は、そのまま勢いをつけてトーリ島を後にした。


(エスリン……ごめん)


 キアンは後ろ髪を引かれるような思いがしたが、彼にとって、牛の奪還という任務を果たすことの方が先決だったのだ。






 

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