第11話 思いの迷走
放心状態になったエスリンは、父バロールの冷たい邪眼で見下され身動きがとれずにいた。
「バロール様!ご報告です!」
沈黙を破るように、戦士の男がやってくる。
「ダ、ダーナ族の男は……
魔法の牛を奪い、トーリ島を去りました…」
その報告に、バロールは不快感を隠さず、戦士を蹴りつけた。
「何をしている!!この役立たずめが!!」
エスリンがとっさに戦士を庇えば、その間に戦士は逃げるように去っていった。
「姫よ。なぜ奴の正体を見抜けなかった?」
そして、バロールの苛立ちは、姫に向けられた。
「それとも、知ったうえで奴に協力したのではあるまいな?」
バロールはエスリンにじりじりと詰め寄る。
「ち、違います。わ、私は……」
エスリンは困惑の中にいながらも、この父の機嫌を必死に取っていた。
しかしバロールは非情にも、その大きな拳を振り上げて、姫の小さな頬を殴りつけた。
「……っ!」
エスリンは衝撃でその場に倒れた。
「あの男はな。牛を奪うために、姫、お前を利用したのだ。
安易に騙されたお前の罪は重いぞ!!」
「……!!」
「騙された」――その言葉は、エスリンに衝撃を落とした。
魔王バロールはそのまま踵を返して部屋を後にした。
エスリンは痛む頬をおさえた。
不思議とバロールに邪険にされたことには、もはや感情は動かない。
ただ、友達だと信じたキアンに「騙された」ことが、
エスリンの心を強く強く締め付けていたのだ。
(……どこまで、嘘だったんだろう)
エスリンはベッドに倒れ込み、キアンの言葉を一つ一つ、辿っていた。
キアンが話した魔法の馬の話や、エスリンを素敵だと褒めてくれた言葉。
どこかに少しでも、真実があるならば。
エスリンは救われる心地がした。
だが、キアンの本当の気持ちなど、もはや確かめる術はない。
もどかしい気持ちを制御するすべもなく、エスリンの瞳から涙があふれ出た。
「もう嫌……、何も考えたくない」
そうつぶやいたエスリンの声は、枕の布に吸い込まれて消えた。
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