第13話 キアンの決意


 牛を連れたキアンはトーリ島を脱出し、マン島に立ち寄っていた。

 マン島は、ダーナ族の海神マナナンが治める地であり、キアンは彼の保護を受けていた。


 やがて静かな夜が訪れた頃。

 ビローグと別れの挨拶をしたキアンは、魔法の馬アンヴァルを連れて海辺に来た。


 風より早く海をわたる魔法の馬アンヴァル。

 エスリンにも話して聞かせたことがあった、この魔法の馬にキアンは跨る。


 キアンは対岸のトーリ島を見つめ、旅立ちを決意していた。


 そこへ海神マナナンが現れる。

 彼は男の神だが、その風貌は中性的で語り口は女性のようである。


「キアン、私は予言したはずよ。

 ふたたびトーリ島へ行けば、今度こそ間違いなく、バロールに殺されるって」


「マナナン師匠の予言は外れない、でしょ?」


 マナナンは、キアンを引き留める言葉を探していた。

 しかし、もはや止めることはできないと悟っていた。

 

 自分が死ぬという予言に動じない。

 キアンの覚悟は、決まっているのだと。


「魔王の娘に恋をするとは、私も予言できなかったけど」


 マナナンが呆れたように肩をすくめる。

 キアンは少し恥ずかしそうに笑った。


「……マナナン師匠。もし僕が帰ってこなくても、

 エスリンに魔法を教えてあげてください」


 キアンはそう言い残して、馬の手綱を引く。

 海へ駆け出した彼は、そのまま海の彼方のトーリ島へと消えていった。

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