第4話 捜索

 浜辺に戻ると、信一と唯の姿は無かった。

「おい、信一。どこだ?」

 俺は焦る感情を抑えながら辺りを探す。

 その時、トイレのある建物から唯が出てきた。とりあえず唯は無事だった様だ。そのことにほっと胸をなでおろす。

「あっ唯。信一はどこに行ったか知ってる?」

 夏希が唯に駆け寄る。

「えっ? さっきまでそこにいたよ?」

 しかし、唯が指差した先には浮き輪が有るだけだった。

 全員で手分けしてテントや倉庫、トイレなど近場を探したが信一の姿は無かった。

「ヘタレだからねぇ。逃げ出したのかもよ」

 各務さんが呆れたようにつぶやいた。

「逃げ出すったってどこに? 船が無きゃこの島から出られないんだぜ」

「とにかく他を探そう」

 俺と各務さんの会話を断ち切り晃が提案する。

「そのうち戻って来るんじゃないか?」

「僕もそう思うよ。この状況で単独行動出来るとは思えないし」

 俺も各務さんと同じ考えだった。ヘタレの信一が一人で遠くへ行ったとはとても思えない。仮に迷子になったとしてもそれほど広くは無い島だ。いずれはこの場所に戻ってこれるだろう。

「じゃあ、二手に別れましょ。あたしと晃と唯は信一を探す。秋人とまゆははここで待機」

 夏希はいてもたってもいられないという具合に提案する。お節介焼きとしては信一のことがとても心配なのだろう。

 確かに捜索するのであればそれが一番ベターだと俺も思った。全員で探しにいった場合、携帯電話で連絡を取り合うことは不可能だし、入れ違いになる可能性が高い。

 それに、島の地理を知っている晃が探しに行った方がいい。

「分かった。連絡手段が無いのは心配だけど、何か有ったら戻って来いよ」

「あぁ、秋人こそ勝手に動くなよ」

 そして、日が暮れる前には戻ると言って、晃達は信一を探しに行った。

「さて、と」

 俺は万が一に備え、武器になりそうな物を確認する。まず、料理用に持ってきた包丁、そしてサバイバルナイフ。虫除けスプレーも目眩ましには使えるだろうか。まな板や鉄板等も投げれば武器にはなるだろうが、あまりあてにならない。釣竿も持ってきてはいたが武器としては期待出来ない。

 俺は次に倉庫内を確認する。トタンで出来た簡易的な倉庫で、二畳ぐらいの広さは有るだろう。その中には各務さんが投げた銛と同じ物が数本、投網やロープ、救命ベスト等が置いてあった。

 埃っぽい倉庫内をさらに奥に行くと、使い物にならなそうなビーチパラソル、そしてスコップが横たわっていた。

「さっきから何をしてるの?」

 倉庫の入り口から各務さんの声が聞こえた。

「もし、本当に鬼がいたらと思って、武器になるような物を探してるんだ」

 重なりあうロープやら網やらをどかすたび埃が舞い上がる。

「あれ? 石川君は二階堂の話、信じてるんだ」

 倉庫の中は薄暗かったため、はっきりとは見えなかったが、各務さんはニヤニヤと笑っているようだ。

「いや、そういうわけじゃ無いけど。さっきの人影も気になるからさ」

「なるほどね。でも、鬼に包丁は効くのかな」

「分からないけど、無いよりは気分的に違うでしょ」

 昔話に出てくる鬼の体は強靭だ。相当の業物でないかぎり、傷を負わせる事さえ難しいだろう。かといって丸腰で挑むのは無謀だとも思える。

 他に目ぼしい物が見つからなかった俺は、汗と埃を流すため、海へ向かった。

 寄せては返す波間が、白い砂浜を黒く染める。俺はゆっくり海へ入り、軽く泳いだ後、信一にならって仰向けに浮かぶ。

 波に揺られる感覚が心地よい。何もかも忘れてこのままでいたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る