第3-6話

ファルザ「…と、帰る前にメシでも食って行くか。二人も腹減っただろ?」


少し歩いたところでファルザさんが言った。




確かに。今は午後の1~2時ぐらいの時間になるのかな? お腹が空いてきた。だけど、ファルザさん唐突だな。あんまり家に帰りたくないのか? まあ、奥さんに対して言い訳を考える時間とか心の準備が必要なのだろう。





ドータ「うん! おなかへったー!」


アキラ「ええ、そうですね。」




ファルザ「そうか、それじゃあ食堂でも行くか!」


そう言うと、ファルザさんは荷車を切り返す為、大きくUターンした。




10分程歩いたところで食堂に着いた。外観は店先の2畳程のスペースに花壇があり、赤、緑、黄色の花が色毎に区分けされて、どこかの国の国旗の様にも見える。


扉には鐘がついており、扉が開閉すると鳴る仕組みのようだ。




ファルザさんが店先に荷車を置き、先陣を切って扉を開ける。


(カラーン)鐘の音が鳴る。




ファルザ「ルーガ、3人だけど大丈夫か?」


奥で皿洗いをしていた女性に声を掛ける。




ルーガ「ん? ファルザかい。いいよ、一段落したし、まだ火を落としてないからね。」




ルーガと呼ばれる女性は三角巾を頭に付け、濃いイエローの髪を後ろに纏めている。顔はキリッとした美人で宝塚にいそうな顔つきだ。スタイルは、スケベオヤジ風に言うと出るとこ出てやがる! そんな、けしからんボディをしている。




店内に入ると、お客さんはおらず、カウンター席が6個とテーブル席が一つしか無く、こじんまりとした空間になってる。




僕達はカウンター席に並んで座ると、ルーガさんからコップに注がれた水を出される。




ドータ「わたし、このコップがいい!」


先程、購入した牛のコップをルーガさんに差し出す。




ルーガ「お! 可愛いコップだね、羨ましいよ!」


そう言って、牛のコップに水を注いでいく。




ドータ「へへへ、いいでしょ!」


ドータちゃんがドヤ顔を決める。




ルーガ「で、注文はどうする?」


メニュー表を僕とファルザさんに渡す。メニュー表には5種類しか書いておらず、あまり選択肢が無いな。




ファルザ「俺は焼き野菜チーズ串を多めで。」




アキラ「僕は三色プレートを。」


どんな料理か気になったので、これにしてみた。




ルーガ「はいよ、それじゃあファルザはセミ銀貨と銅貨1枚ずつ。君はセミ銀貨1枚ね。」




僕とファルザさんから代金を受け取ると、ルーガさんは薪を竈門に焚べる。その後、野菜を規則正しいリズムで切っていき、テキパキと調理していく。時折り、ジューッと焼ける音と美味しそうな臭いが食欲を誘う。3、40分した後、料理が完成した。




ファルザさんが頼んだ料理は名前の通りで、串に刺した野菜を焼き、その上にチーズがかかっている料理だ。……まあ、チーズフォンデュみたいなものだな。ドータちゃんは串の端と端を持ち豪快にかぶりついている。




僕が頼んだ三色プレートは干し肉のソテーに、半熟の卵焼きと緑色のソースがかかっている。出来たてだから熱々だ。緑色のソースを食べてみると、大葉と焦がしタマネギをペーストしたものみたいだ。組み合わせて食べてみると何かを思い出す味だ。




ああ、和風ハンバーグだ。ここに大根おろしが加われば完璧だったが。でも、これはこれで美味しいな。





食べていると、ルーガさんから話しかけられる。




ルーガ「で、この子はどちら様だい?」


僕の方を見て言った。




アキラ「初めまして、アキラと申します。訳あってファルザさんのとこに、お世話になってます。」




ルーガ「そうかい、ファルザも久しぶりに来たと思ったら新規のお客さんを連れてくるなんて気が利くようになったね。」




ファルザ「おう、たまには顔を出しとかないとだしな。にしても、相変わらず一人だけで店をやってるんだな。人でも雇えばいいだろ?」




ルーガ「募集はしてるけど中々、来ないんだよね。」




ファルザ「そんなもんか、そういえばお前の恋人のファストだっけ? あいつとはどうなった?」




ルーガ「うるさい。」


ルーガさんの声のトーンが一気に低くなった。




ファルザ「お、おう。すまん。」




その頃、丁度ドータちゃんが食べ終わり、布巾で自分の口の周りを拭いていた。




ファルザ「お、ドータ食べ終わったか! じゃあ、そろそろ行くか。」


ファルザさんが少し慌てている。




アキラ「え、ええ、そうですね。それじゃあご馳走さまでした。」




ドータ「ごちそうさま!」




ルーガ「はいよ、また来なね。」


よかった、ルーガさんから笑顔か零れた。少し怖い気もするが…。





そして僕達はそそくさと店を後にした。





その後は、まっすぐ寄り道せずファルザ家に向かった。道中、異世界について聞いてみた。この世界は東西南北それぞれに区があり、中央は険しい山脈があるので普通の人は遠回りだが山脈を避けて平地を通り区を行き交う。僕達がいる地域は西の区らしい。




そして、この世界では日付の概念はあるが時間の概念は無いとのこと。せいぜい、朝、昼、夕方、夜の分類だけで、今が何時という知識は無いらしい。労働時間も各々の判断と責任で決めているようだ。「待ち合わせをする時に不便ではないか?」と聞いてみると、「その時間? とやらにピッタリ行動出来るやつがいる訳無いだろ?」と返された。確かにそうだな。待ち合わせなんて大抵は早めに着くか、遅刻するかだからな。時間通りに来れる人はまずいないよな。という訳で異世界には時計が無いらしい。




そうして話している内にファルザ家に到着した。



ファルザさんは荷車を物置小屋近くに置き、ドータちゃんを降ろすと家の扉を開けた。




ファルザ「ただいま!」




ドータ「ただいま!!」




マーザ「お帰りなさい。……あら、アキラさんも一緒なのね。」




ファルザ「ああ、すまないが、もう一日泊めてやってもいいか?」


ファルザさんは恐る恐るマーザさんの顔を覗く。




マーザ「全くもう! せっかくお客さん用の食器とか片付け終わったとこだったのに!」




ファルザ「ダメか?」




マーザ「……いいわよ、何か訳有りなんでしょ?」




ファルザ「すまんな。おいアキラ、大丈夫だってよ!」




アキラ「すみません、突然の申し出なのに。」




マーザ「大丈夫よ、この人が決めた事なんだから。さあ、家に入って!」




アキラ「ありがとうございます、お邪魔します。」




ご飯は遅めの昼食だったのもあり、満腹だったのでお断りし、お風呂だけ借りて寝る事にした。また昨日と同じ物置小屋の藁布団で僕は眠りについた。


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