第3-5話

宿屋の前にたどり着いた。ここでファルザさん達ともお別れか…。


何だか寂しいな、二日間だけの付き合いだったが。




アキラ「ここまで、ありがとうございました。他人の僕にこんなにも優しくしてもらって嬉しかったです。奥さんにも宜しく伝えてください。」


ファルザさん一家には大変世話になったからな、今度会った時は何か贈ろう。


あ、そういえば思念体と勝負してたんだっけな。こっちに来てからはドタバタしてて、そんな事、考える暇が無かったからな、そろそろ本腰を入れて探さないと。そう考えるとこれが最後の挨拶かもな…。なんて、しみじみ思った。




ファルザ「……いや、お前も色々と大変だろうけど頑張れよ。ほら、ドータも挨拶しなさい。」




ドータ「アッキラー、きょうとまらないの?」




ファルザ「アキラ兄ちゃんと会うのは、これで最後だ。だからちゃんとお別れを言いなさい。」




ファルザさんが、そう告げると途端にドータちゃんが泣き出した。




ドータ「やだ!やだ!やだ!!!!!!」




ファルザ「ドータ、ワガママを言うな! アキラ兄ちゃんにも事情があるんだ!」




ドータ「やだ!やだ! アッキラーいっちゃやだ!」




ファルザ「ドータ! いい加減にしないと怒るそ!」


ファルザさんは少し怒りながらも困惑した表情をしている。




ドータ「やだーーーーー!!!!!!」


そう叫ぶとドータちゃんは泣きながら僕のお腹に顔を埋める形で抱きついてきた。




僕は一瞬驚いたが、とりあえずドータちゃんの背中をポンポンと手で宥めた。




二分ぐらいしてもドータちゃんは僕のお腹で泣き続けていた。ファルザさんは少しオロオロしてるみたいでどうしたらいいか、わからないみたいだ。




にしても、ドータちゃんがこれだけ泣いてしまうと何だか僕まで眼がウルウルと涙目になってしまい……………………………泣いた。


ドータちゃんの様にワンワンと泣き喚いてはいないが、嗚咽が出てポロポロと泣いてしまった。





そんな二人の泣いてる様を見てファルザさんは頭をポリポリと掻き、ぶっきらぼうに言った。





ファルザ「……わかったよ、もう一日俺ん家に泊まるか。」


「もう一日泊める。」そうファルザさんが言うと、ドータちゃんはピタッと泣き止んだ。


ついでに僕も泣き止んでしまったな、泣くタイミングを見失ったよ。




ドータ「ほんと!?」


ドータちゃんが顔をファルザさんに向ける。




ファルザ「ああ、いいぞ。……すまんが、アキラもう一日付き合って貰っていいか?」


ファルザさんが僕に目配せしてくる。




アキラ「え、ええ。僕は構いませんが、奥さんは大丈夫ですか?」




ファルザ「あー、まあ大丈夫だろ。説得してみせるさ。」


そう言ったファルザさんの顔は頼り無いな。




さすがにいきなり2日連続で赤の他人を泊まらせるのは奥さんの立場なら怒るだろう。金で解決では無いが、後で金貨1枚(日本円に換算すると5万円である。)ぐらいは奥さんに渡そう。それで機嫌直るといいが。





僕としてはこの結果はファルザさんには悪いが少し嬉しかったりした。初めての異世界の宿に案内人も無く、一人で泊まるのは不安な部分もあったからな。どちらにせよファルザ家に泊まるのは本日で最後だからファルザさん達から色々と異世界の情報を聞いたりしよう。





ドータ「じゃあおうちいこー!」




アキラ「すみません、本日もお世話になります。」




ファルザ「お、おう。そんじゃあ家に帰るとするか。」




気のせいかファルザさんの足取りが重い気がした。



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