第3-4話

医者か…。そうだよな、記憶喪失なんて症状が出たら早めの治療をしないとだよな。そこまでの思慮が及ばなかったよ。




ファルザ「ああ! そうだな、後で寄ってみるよ。」




アキラ「いえ、そこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ。放って置けば治りますから…。」




ファルザ「何言ってるんだよ、お前だって早いとこ記憶を取り戻したいだろ?」




(行く意味無いんで大丈夫ですよ。)なんて今更言えないしな…。




ファルザ「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。おーい、ドータ!」




ドータ「はーい!」


奥からドータちゃんが走ってきた。




ファルザ「出発するから、挨拶して来なさい。」




ドータ「うん! サヤちゃん、バイバイ!おじさん、バイバイ!」




サイ「おう、また来な!」




サヤ「バイバイ!ドータちゃん!」


奥から小さい女の子が出てきた。目鼻立ちがスッキリして、お人形みたいな子供だ。会話から察するにサイさんの子供なんだろうが、(全然似てないな。母親似なんだ…、よかったね。)とまたしても失礼な事を考えてた。





ファルザ「じゃあな、今度は三日後にでも来るよ。」




アキラ「それでは、失礼します。」




サイ「お〜う。」




そして僕達は八百屋を後にし、診療所へ向かった。




診療所の外見はパッと見、普通の一軒家で玄関の上に「診療所」という看板が立て掛けてあるだけだった。




中に入ると真っ白い空間の部屋で消毒液の匂いが微かにした。待合い室には指に包帯を巻いてる男性と、杖を抱えているお爺さんの二人が座っていた。この世界では外科や内科といった概念は無く、医者は全ての分野を担当しているらしい。




受付も無く、ワンオペでこの空間をまわしてるのか、恐れ入ったよ。




待合室で待つ事40分、いよいよ僕の番が来た。最初だけファルザさんも一緒に入り医者の男性(30代ぐらいの少し頭が後退している)に僕の症状を説明して、また待合室に戻っていった。




残された僕は瞼を捲られ、眼球を見られたり、簡単な質問をされ、最後に運動機能のテストと言い、その場で反復横跳びや柔軟運動をさせられた。どうせ、この場限りなので、適当に検査をこなした。




全ての検査が終わった後、会計となり、銀貨一枚と言われた。金貨が入った小袋を開けると、医者が一瞬、ギョッとした。


(やはりこれは大金なんだろうか?持ち運びに気を付けないとだな。) そう考えながら金貨を一枚出すとお釣りで白い金貨を4枚と銀貨を一枚貰った。




待合室に戻ると入れ違いにファルザさんが呼ばれ、奥の部屋に入っていった。


待合室には僕とドータちゃんの二人だけとなった。僕が長椅子に腰掛けると、




ドータ「アッキラー!ケガしたの?」


ドータちゃんが泣きそうな顔で僕に聞いてくる。




アキラ「うん、ちょっと頭をケガしちゃったんだ。」


僕がそう答えるとドータちゃんは少し背伸びして僕の頭を撫でてくれた。




ドータ「まだいたい?」


悲しげな顔で聞いてくるので、僕の瞳にも涙が溜まってきた。僕の嘘が小さい子供を辛い気持ちにさせてしまった罪悪感からか。




アキラ「ううん、もう痛くないよ! ドータちゃんのお陰ですっかり治っちゃった!」




マッスルポーズをとって、そう告げるとドータちゃんは、パァと笑顔になり




ドータ「やったー!!」


跳び跳ねて喜んでくれた。それを見て僕も嬉しくなり、ドータちゃんと一緒に手を繋いでジャンプしたり、バンザイをしてみた。




その後はドータちゃんの遊び相手となり、肩車をしたり、馬になったりした。疲れて椅子に腰掛けると、ドータちゃんが膝に乗っかってきた。懐いてくれたのかな?


膝に乗った後はドータちゃんの頭を撫でたり、ホッペをつまんだりして遊んでいた。




しばらくすると、ファルザさんが戻ってきた。




アキラ「お帰りなさい、どうかしましたか?」




ファルザ「ん? ああ、記憶を戻すには沢山メシ食って、いっぱい寝れば治るだろうってよ。」




アキラ「…そ、そうですか。」


この感じだと、あんまり異世界の医者は頼れ無いみたいだな。




ファルザ「じゃあ、次は日用品でも買いに行くか! アキラは何も持ってないだろ?」




アキラ「いえ、さすがにこれ以上、付き合わせる訳には…。」




ファルザ「いいっての! お前一人じゃ、どこに何が売ってるかわかんないだろ?」




確かにそうだな、最後までお世話になりっぱなしだが…。




アキラ「すみません、よろしくお願いします。」





ファルザ「任せとけ!」


ドータ「まかせとけ!」


こうして、ファルザ親子も買い物に行く事になった。






まず初めに買い出しに来たのは衣類だ。


昨日はファルザさんから借りてたから何とかなったが今後を考えると今、着てる一着だけだと心もとない。




服屋で物色をしてみたが、この世界に機械が無いのもあるのだが、全てが不揃いだ。ほつれてるものもあれば、同じサイズなのに袖が1cm短いものもあったりした。服の種類やカラーバリエーションもあまり無く、オシャレという概念が無い世界だな。


まあ、よく考えたらオシャレなんて嗜好品みたいな物だから必要無いか。服なんて体温調節と清潔感の確認だけ出来たらいいだけだし、僕自身が服に疎いからあまり気にならないな。




服と下着を3着ずつと足袋みたいな靴下も買った。会計を終えて、商品をそのまま持って行こうとすると店主が「手ぶらかよ、ちょっと待ちな。」と言い、風呂敷みたいなもので包んでくれた。


「いっぱい買ってくれたからオマケだよ。」と、なるほど。これが、この世界でのエコバッグか。今度から持ち歩かないとだな。




次は日用品の買い出しだ。特に、歯ブラシとコップは宿にあると思えないから買っておかないと。


雑貨屋では意外とインテリアにこだわってるのか、色々なデザインがあった。例えば、歯ブラシは口に含むとハートにキスしてる構図になるものや、コップだったらアヒルを型取った木製のコップで、背中に水を溜めて羽の部分が取手になっていたりと女の子ウケしそうな店だな。


案の定、ドータちゃんはテンションが上がっていた。




二軒目の買い物となって、この世界の通貨の単位がわかってきた。通貨の種類は5種類で、価値は上から金貨、セミ金貨、銀貨、セミ銀貨、銅貨の順になっている。金額は円で言うと、五万円、一万円、五千円、千円、五百円といったところか。




僕の当初の所持金は金貨30枚だったので、150万円程を持ち歩いていたということか…。何だか、可もなく不可もない金額だな。遊び歩く程でもないし、貧困!!ってレベルでもないから。


……まあ、あの思念体にしては気が利いてる金額だな。





普通の歯ブラシとコップを選ぶと、ドータちゃんが動物シリーズのコップの前で立ち止まっていた。周囲を見渡すとファルザさんは別の棚にいるようだ。


ドータちゃんを見ると、牛のコップを持っている。(牛の顔だけを型取っていて、左右の角が取手となっているデザインだ。)




アキラ「それ欲しいの?」


聞いてみると、コクンと頷いた。値札にはセミ銀貨1枚と書いてあった。


(千円ぐらいか…。このぐらいの値段ならいいか。)




アキラ「それ、貸して。」




一緒に会計をして、先程のコップをドータちゃんに渡す。




アキラ「はい、プレゼント。」




ドータちゃんの顔が明るくなっていき、大事そうに抱えてくれて、あげた方としても嬉しくなる。




店先に出るとファルザさんも戻って来た、すると、ドータちゃんのコップに気付く。




ファルザ「ドータ、そのコップどうしたんだ?」




ドータ「アッキラーにもらった!!!」




ファルザ「そうだったのか、お礼は言ったのか?」




ドータ「アッキラー! ありがとう!!」




アキラ「どういたしまして。」




ファルザ「すまない、気を遣わせてしまって。」


ファルザさんが申し訳無さそうな顔をしている。




アキラ「いえ、気にしないでください。僕の方こそ何もお礼が出来ていなかったので。」


昨日世話になった分を含めると、これでも足りないのだが。





そんなこんなで買い出しが終わると宿屋の前まで案内してもらった。



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