第3-3話

ファルザ家の戸を開けて僕は挨拶する。




アキラ「おはようごさいます!」




ファルザさんは椅子に腰掛け、伝票の様な物を作成している。マーザさんは台所でスパム(?)を焼いたものを皿に取り分けている。ドータちゃんは小走りでマーザさんの所へ向かっていった。




ドータ「ママーー!! アッキラーおきてた!」




マーザ「あら、そうだったの。ありがとね、ドータ。 アキラさん、おはよう。」




ファルザ「おう、おはよう!昨日は休めたか?」


二人が顔だけ僕に向けてくれた。





アキラ「ええ、ぐっすりと眠る事が出来ました。ありがとうございます。」




ファルザ「そりゃ、よかった。それじゃあ朝メシも出来たことだし、一緒に食べようや。」




アキラ「はい、いただきます!」




朝食の献立はパンにスパムのソテー、サラダとスープと牛乳がテーブルに並んでいた。




結構豪勢な食事だな…。僕が客人みたいなものだから気を遣ってくれたのかな? 何にせよありがたい。




そして、全員が席に着いたところで食べ始めた。


ドータちゃんは一人で食べれるようだが、あまり上手く食べれないようで、口の周りが食べカスだらけになっていた。それを見たマーザさんが布巾でドータちゃんの顔を拭いてあげる。ファルザさんは伝票を確認したり、記帳をしながら食事をとっていた。




これがファルザ家の朝の風景なんだろうな。心が癒やされるというか、和む。見てるだけでこちらまで幸せな気分にさせてくれる。元の世界では、こういった日常を経験したことがなかったからな。





皆が食べ終わった後、ファルザさんが話し出した。


ファルザ「今日は野菜を街まで出荷するからアキラも一緒に行くかい?」




アキラ「はい、よろしくお願いします!」


街への道がわからなかったので都合がいい。


あ、そういえばお金を払わないとだな。通貨の単位がわからないが金貨1枚で足りるかな?




アキラ「すみません、お世話になりました。少ないですが、こちらを納めてください。」


そう言って僕は金貨を一枚差し出す。




ファルザ「おいおい、金はいらないし。それに、そんな大金貰えないよ。代わりに出荷の準備するから、それを手伝ってくれよ。」




金貨は大金らしいな。にしてもファルザさん、いい人だな。見ず知らずの僕にこんなに親切にしてくれて。




アキラ「ありがとうございます! わかりました、準備をお手伝いします。」




この後、僕達は野菜の収穫と袋詰め、荷車を出したり荷を積んだりした。




そして準備が終わったらマーザさんにお世話になった礼をし、ドータちゃんを荷車に乗せて、僕とファルザさんとドータちゃんの3人で街に向かった。




荷車は僕とファルザさんが交代で引くことにしたが、なかなか重く、ほとんどファルザさんが引いてしまった。





そして、出発してから20分で街に着くことが出来た。


最初に見えたのは小さな教会だ。小さなといっても元の世界の教会と比べてであって、一般住宅2軒分程の大きさはある。




ファルザ「そうだ、最初に神父様に挨拶するか。しばらく街に住むにしても世話になるし、もしかしたらアキラの事を知ってるかも知れないしな!」




記憶喪失って設定ヤメればよかったかな? 色々と面倒だ。だけど今さら訂正するのもアレだし…。




アキラ「はい、お願いします。」




そして3人で教会の中に入る。中はステンドグラスがあったり、燭台や十字架があったりとTHE教会って感じだ。奥の間にファルザさんがノックして入る。




ファルザ「神父様、少しいいですか?」


部屋には白いローブを纏った白髪混じりの初老の男性とファルザさんと同い年ぐらいのブロンドヘアーの女性がいた。こちらの女性は白と黒のハイトーンなフレアドレスを纏っていた。




神父「ファルザか、どうしたんだい?」




ファルザ「こちらの男性が昨日、我が家の近くの山で遭難してたんですよ。その上、記憶喪失にもなってしまって。神父様はこちらの男性をご存知無いですか?」




神父「ふむ……すまんが見たことは無いのう。」




ファルザ「そうですか…。アキラ、こちらは神父のジオディ様だ。神父様、こちらの者はアキラといいます。」




アキラ「初めまして、アキラといいます。」




ジオディ「アキラか、記憶喪失とは大変じゃったの。何かあったら私に相談しなさい。私が不在の時はタシスに言伝しても良いぞ。」


そう言い、ジオディさんは隣にいた女性に指差す。




タシス「初めまして、アキラさん。私に出来る事でしたら力になりますので、いつでも来て下さいね。」




アキラ「ありがとうございます、その言葉だけでも励みになります。」




……また、嘘をついてしまった。早いとこ、異世界からオサラバしないと、どんどん取り返しがつかなくなる。




ドータちゃんは退屈だったのか走り回って遊び始めた。今にも転んでケガをしそうだ。





ファルザ「それでは、娘がご迷惑を掛ける前に失礼します。本日はありがとうございました。」




アキラ「どうも、ありがとうございました。」


僕達はペコリとお辞儀をした。




ファルザ「別に構わんよ。また今度ゆっくりしていきなさい。」




タシス「ドータちゃん、またね。」


タシスさんはドータちゃんに手を振る。




ドータ「タシスちゃん、バイバイ!」


ドータちゃんが力一杯手を振りながら、僕たちは教会を後にした。


ファルザ「先程の神父様と修道女は家族ぐるみの付き合いでね」




荷車を引きながらファルザさんは話してくれた。




アキラ「そうなんですか、どおりで親し気だったんですね。」




ファルザ「ああ。タシスは幼なじみで、家内と一緒によく遊んだよ。」




アキラ「それじゃあ、神父様はタシスさんのお父さんですか?」




ファルザ「いや、神父様は生涯独身という決まりだからな。タシスは孤児でな、教会に捨てられてたのを神父様が引き取ったんだ。」




アキラ「保護者みたいなものですか?」




ファルザ「血の繋がりは無いが、お互いが親子の様に思ってるよ。」




アキラ「へー、いいですね。」


羨ましい関係性だ、信頼し合っているんだろうな。




ファルザ「ああ、理想の家族像だよ。それじゃあ次は野菜を届けに行こうか。」




アキラ「はい。」




ドータ「はやく、いこー!」


ドータちゃんがウズウズしていた。




ファルザ「もう少しだからな。」


歩いて20分程で野菜と果物の専門店の八百屋に着いた。




ファルザ「おーす。」


ファルザさんは店先にいた男に声を掛ける。この男の特徴は一言で言えばデカい! 身長は180cmぐらいで体重は120kgはあるだろうか、髪はボウズに近い短髪で、不精髭が生えている。熊みたいな男だ、そんなジャイアンの大人版みたいな男がこちらを見る。




熊男「おー、やっと来たか。」




ファルザ「すまんな、ちょっと教会に寄ってから来たわ。」




熊男「いや、急いで無いから別にいいけどよ。そいつは誰だ?」




アキラ「初めまして、アキラっていいます。」




熊男「おう、俺はサイだ。よろしくな。」




ファルザ「こいつは記憶喪失でな。もし、お前のとこに買いに来たらサービスしてやってくれや。」




サイ「記憶喪失? は〜、何だか複雑な事になってんだな。ん、わかったよ。可哀想だしな。」




ファルザ「ありがとな。」




ドータ「おじさん! こんにちは!」




サイ「おう、ドータちゃん。こんにちは。」


サイさんが笑顔になる。




(この人、笑うんだな。)と失礼な事を考えてしまった。




ドータ「サヤちゃん、いる?」




サイ「おう、奥にいるから遊んできな。」




ドータ「うん!」


ドータちゃんが店の中に入っていった。奥を覗くと、5才ぐらいの女の子が見えた。


なるほど、ドータちゃんはあの子と遊びたかったから落ち着きが無かったのか。




ファルザ「そんじゃ今日の分の野菜運ぶか。アキラも手伝ってくれ。」




アキラ「はい。」


僕とファルザさんで荷車から野菜を降ろしていると、サイさんが話しかけてきた。






サイ「そういえば、医者には行ったか?」




あ、この世界にも医者がいるんだ。また一つ異世界の知識が増えたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る