第2-3話

さっきのは無かった事にしよう。次に手に取った実は、じっくりと見てから口に入れた。


………よかった、今度はちゃんとした少し酸っぱいリンゴの味がした。その後、全部で30粒ぐらい生ってた実も、一人で食べ尽くしてしまった。食べ終わってから思ったが予備食料で残しておくべきだった。周囲を見たが同じ木は見当たらず、これが最後の食料だった。


まあ、少し腹も膨れたし、また別の食べ物が見つかるだろう、と楽観的に考え、また歩き出した。だけど30分後、僕にピンチが襲う。


ウ○チがしたい。


ヤバい、腹が悲鳴を上げてるよ、早く出してくれって。あー、さっきのリンゴかな? あれダメだったのかな? あれか、虫を囓っちゃったやつか? それとも水をろ過しなかったからか?  いや、道具が無いし、あの状態で飲むしかないよな。


とにかく、トイレがしたい! 人目が無いとはいえ、野グ○か…。生まれて初めてだよ。

今日だけで人生初の出来事が多過ぎる、死んだり、生き返ったり、思念体と話したり、異世界転移したり、そして締めは野○ソか…。気が滅入るな。


あ、ヤバい。そんなくだらない事考えてる場合じゃない、早くしないと。僕は林の少し奥に入り(川原は拓けた場所なので万が一、人が通ったら気まずいので。)ズボンを下ろし、しゃがみこむとお尻に枝が当たり、少しチクッとした。そしてこの態勢、地味に足が疲れるな。………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………周りに葉っぱが沢山あるから助かった。 


スッキリしたところで、また歩き出した。そしてしばらく歩くと、道が途切れてしまった。川の水は途切れた箇所で流れ続けている。


いや、途切れてるでは無いな。僕が辿り着いた場所は崖だった。ん? 水が流れてるから滝なのかな? 崖でいいか。その崖は6m程の高さで、降りれる足場も無い。ましてや降りれてもまだ森が続いているので、行っても意味が無さそうだ。しかも、日が暮れて辺りが見えなくなってきた。今夜はここで過ごさなければいけないのか。


一夜を明かすとなれば、まだ見える内に準備をしなければ。僕は、枯木や枯れ枝の葉が付いてる部分を折ったりし、拾い集めてきた。これは毛布や枕代わりにしようと思う。ある程度、集め終わったらダメもとで火起こしに挑戦してみた。10分ぐらい、石と石を叩いて火花を出そうとしたり、木と木を擦り合わせたりした。だが、煙も何も出ず、ただ手が疲れただけだったので止めた。

ナイフでもあれば違ったんだろうが…。


次は風呂と歯磨きだ。歯磨きは川の水で口を濯いだり、小枝を爪楊枝代わりにしたので何とかなった。問題は風呂か……。一日中、山歩きをしたので汗臭い。せめて水浴びでもしたいが体を拭くタオルが無いし、水浴びしたら体温が下がるよな、夜を越せなくなってしまうから止めよう。人里に降りたら、絶対に臭がられるけど。


少し早いけど、もう寝ようかな。明かりが無いため周囲は真っ暗になったが、川辺からは星空が見え、月明かりに照らされていた。お陰で川辺はうっすらと見えていた。天候が晴れでよかった、雨だったらどうなっていたか。


寝床の確保だが、最初は木を背もたれにした態勢で寝ようとした。が、耳元にプ~ンと音がして虫達が寄ってくる。いくら追い払ってもキリが無いので、次は川原で寝ようとした。川原は虫こそ、あまり来ないが水辺に近いので寒かった、その上、石しか無いので寝心地が悪い。なので、折衷案で川辺に近い木を背もたれにして眠ることにした。毛布代わりに集めた枝葉は動くとシャカシャカ言ってうるさいが、暖かった。これで眠れそうだと思ったが、


ガサッ


後ろから突然、葉が揺れる音がした。多分、風のせいだと思うが、獣の可能性も捨て切れない。どうなんだろ? タヌキやキツネだったらいいが狼や猪だったらヤバいぞ。暗いから見れないし、怖くて確認する事も出来ない。こうして、物音がする度にビクついてしまい、まともに睡眠をとることが出来なかった。


あまり寝れなかったな。寝足りないが、朝日が差し込んできたので自然に起きれた。洗顔をし、出来る限り水を飲んでいく。準備は整った。もう、残った進路は向こう岸の山を越えるしかない。水を確保出来てるとはいえ、このままじゃジリ貧だ。なので、一日で山を越えて人里に降りるのが本日の目標だ!


靴と靴下を脱ぎ、川を渡る。渡り終えたら足の水を川原の石で拭い、また靴を履く。そして山を見上げる、……なかなか高いな。だが、行かなきゃ死ぬんだ! そう自分を奮い立たせ僕は出発した。何か楽しい事でも考えよう。そうすれば登山も苦に思わないはずだ!  下山したら何をしようかな? 美味しい物が食べたい! お風呂に入りたい! 異世界探索をしてみたい! あー、でもお金が無限にある訳じゃないから働かないと…。 多分、ギルドは無いな。魔物が出ない設定だったからな。 うーん、かといって現代知識を使ったら、何処かで見てる思念体は笑うだろうな。「やっぱり使ったんだね!」とか言ってきそうだ。楽しい事だけ考えるはずが、段々、ネガティブな思考になってしまった。


にしても、趣味登山って人はすごいな! こんなの苦行じゃないか。楽しさが見出せない。何で好き好んて休日にこんな事するんだろう? などと失礼な事も考えていると頂上に着いた。


見下ろしてみると、煙が立ち昇ってるのが見える。この山を降りれば人に会える!人がいるとなるとモチベーションが違ってくる、先程までのダラダラした足取りが嘘の様に軽くなっていく。声が届くかと思い、試しに叫んでみる。返答がない。やはり自力で下山するしかないようだ。


水も食料も無いので内心焦っていたがよかった。これで一安心出来る! もうすぐだ! 大分、下まで行くと独特な臭いがしてきた。堆肥みたいな臭いだ。そして無事に下山すると小さい丘にポツンと家が建っているのが見えた。やっと着いた!


遭難編 ~完~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る