第2-1話

異世界転移か…。体験してみたが一瞬、宙に浮いただけですぐに転移してしまった。

もっとこうなんかさ、記号の羅列が漂ってたり、幻想的な空間を見せてもらってから来たかった。すぐに現地到着したから風情も有り難みも無いな。


さて、僕は異世界に到着しました。周囲は広大な自然に囲まれております。空は木々の葉に覆われ日の光が差し込む程度です。景色は雑木が立ち塞がり何も見えません。平らな地面……では無く、緩やかな傾斜があります。人の声どころか、人が通る道などある訳がありません。


つまり、僕はひと気の無い山間部に転移させられました。この位置は明らかにオカシイだろ!?


この場所は悪意があるだろ!? 確かに転移する場面を人に見られるのはマズいのだろうが、他にも候補場所があっただろ。平原とか洞窟とかさ。何で山なんだよ! しかも半端に高層部だから動き辛い、頂上付近だったら周囲の位置をつかめたかもしれないのに。


まあいい、とりあえず現状を把握しよう。現在地は山、天候は晴れ、気温は少し肌寒い程度か。日本で言えば秋ぐらいなのかな?葉が少し色づいている。 自分の姿は鏡を見てないから正確にわからないが容姿や身長は手で触れた感じでは、慣れ親しんだ黒髪、そしてモブ顔のいつものアキラ君って感じだ。下手に幼児化とかしてたらここで死んでた。


服と靴が初めて見る物だな。神がサービスするって言ってたな、ポロシャツとTシャツとジーンズみたいな服だ。生地は麻? とかかな?服に記載されてる訳じゃないから手触りによる判断だ、とりあえずあまりいい生地じゃないな着心地が良くない。そして僕の脇に紐が通してある小袋の中に金貨が30枚入っていた。この世界の貨幣価値がわからないからリアクションがとれない。


荷物は他には無いな、この装備と金だけで、山の中腹部に遭難か……。ダメだこりゃ。とにかく移動しよう。この場に留まっても現状は変わらない。遭難した時は山を降りるより、登った方がいいって聞いた事があるから登ってみるか。


30°ぐらいの傾斜だろうか、藪や雑木もあるせいで歩きづらい。2m程、登っただけで息が切れた。もっと体を鍛えておくべきだった。このままじゃ体力が尽きてしまうので、対策として枯れ枝を拾い、杖代わりに。次に背筋を伸ばして歩行してみた。


よし! 結構楽になった、まだイケるな。だが、少し楽になったとはいえ、数歩歩いただけで顔にクモの巣がかかる。靴底に滑り止めが無いからすぐに足を滑らせ転倒しそうになる。それに30枚の金貨が地味に重い、必需品とはいえ、捨ててしまおうかな。マズいな、体力が尽きるより先に心が折れてしまいそうだ。


歩いてから40分は経っただろうか。疲れたので、しゃがんで休憩した。段差ばかりの道だったので、なるべく歩き易い道を通ると蛇行したルートになった。おかげで全然進むことが出来ない。たまに周囲を見渡すが木に阻まれるため、あまり見れない。漫画みたいに木登りでも出来ればいいのだが…。(あれは、どういう原理で登るんだろう?)なんて考えたりもした。


10分程休憩したらまた歩き出した。少し歩いただけで汗もかき始めた。汗を意識し出したら喉も渇いてきた。飲み物なら何でもいい、冷たくなくてもいい、水でもいいから飲みたい。そもそも初期装備の段階で最低限の食料と飲み物ぐらい用意しろよ、思念体のやつ気が利かないなあ。言わなくてもわかるだろ、そんな事を思ってると段々イライラしてきた、何でこんな事してんだ、何で僕がこんな苦労しないといけないんだよ。もうやだ、疲れた。


異世界ってこんなに辛いのかよ。イメージと違うだろ!! もっとこう華やかなものになると思ってたのに。 


僕は一人、後悔していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る