side 神

やあ、僕は神。ここでは僕の自己紹介でもしようか。僕が生まれたのは大体500年前、あの時は今より威厳のある姿をして、見た目で言えば髭も生やしてダンディーな顔つき、声ももっと低かったんだよ。性格も昔は真面目でね、 世界中の人々がどうしたら幸せになれるか? 争いを無くす為には何をしたらいいか? 貧富の差を無くし笑顔で皆が生活を送るには何が足りないのか? なんてことを考えたりもしたんだよ。ご都合主義とはいえ、なまじ全知全能だったからね。いや〜、あの時は若かったなあ。


まあ、人間なんて望みを叶えてもすぐに恩を忘れる、すぐに台無しにする、すぐに別の望みを言ってくる。個人差はあったけど根本は変わらなかったね。最初は怒りもしたし、呆れもしたよ。だけど慣れてしまうとどうでもよくなるんだよ。どうせ、また同じ事を繰り返すんだろうなって思いながらさ。


続きを話そうか。今の美少年テイストの容姿と性格になったのは、ここ最近の出来事かな。現代の人々が望む神のイメージを具現化したものだからね。容姿はまだ納得出来るが、皆はこんな性格を欲しているんだね。ひねくれてるのかな?


この性格になってからは色々な事をしたよ。異世界を作ったり、人を作ったり、観察したりと。けど、それだけじゃ飽きてきたから新しい事をしようと思って現代から人間を呼んだんだ。正確には生き返らせただが。


一人目の人間は事故で亡くなった37才の女だった。自転車で地域のタウン誌を配達してたところ、後ろから来た車に跳ねられたんだって。轢き逃げだったらしく人通りが少ない場所だから助けが遅れて死んじゃったんだって。


二人目は原因不明で亡くなった56才の男だった。男は何故死んだかわからないと言っててね。僕が死因を調べればよかったんだろうけど興味が湧かないから調べなかったよ。男の予想では脳梗塞か心筋梗塞じゃないかって力説してたな。


ま、二人とももう一度死なせたんだけどね。


いや、聞いてよ! あいつらさ僕が最大級のもてなしをしてやるから異世界に行けって言うのに、 やれ帰してくれだの、仕事が残ってるだ、子供達を残していけない、まだ別れの挨拶をしてない、 孫の入学式がもうすぐなんだ。


とにかく元の世界に帰せ! って言うんだよ。生き返らせたといえ、死んだことには変わりないってのに。現実を受け止めてくれないんだよ。だからさ、面倒になったから殺したよ。元々死んでたんだから文句は無いでしょ?


二人も人材確保に失敗すると考えたんだ。どんな人間なら異世界に行くんだろう、ってね。


そこで思い付いたのが自殺者だ。あいつらは現世に未練が無いから死んだんだろ? なら、僕が新しい環境を用意してあげれば興味を示すんじゃないかと思ってね。いわば僕は救世主なんだよ。


ということで3人目は(死者をふるい分け出来る能力)を使って自殺者だけを呼ぶようにしたんだ。そしたら25才の男が出てきた。そいつは最初、泣き喚いてね。何で泣いてるのか不思議に思って、心と記憶を覗いてみたんだ。どうやらそいつは、死後の世界に憧れを抱いてたみたいで自分の理想と違うから泣いてたんだって。女々しいやつだね。


話しかけてみるとそいつは顔も知らない異世界人の為に怒ったり、自分の立場が悪くなると媚びを売ったりでコロコロ表情を変えるんだ。芯が一貫してない部分や言い訳をしてる時なんて傍から見てる分には面白かったよ、からかいがいのあるやつで。是非ともこいつに異世界転移をさせたい。その様子を観察してみたい。そんな感情が湧いてきたんだ。

それでね、異世界に行かせる口実を作ったんだけど、僕まで異世界に行っちゃうと充分に観察が出来ないから代理を立てたんだ。


あとは、賭けの内容だけど勝敗はどちらでもいいんだ。僕が勝ったらあいつをオモチャに出来る。 負けてもあいつの願い事が聞ける。どちらに転んでもいいんだよね。(心を覗いてみたけど願い事がまだ決まってないから何を願うか。って点も楽しみなんだ。)


しばらくは退屈しなそうだな。あいつは異世界で何をするんだろう? 実直に賭けに勝とうとするのかな? それとも諦めて第ニの人生を異世界で過ごすか? あるいはまた死ぬのかな?(未来予知も出来るけど僕はリアルタイムで見たい派なんだ。)


ああ、楽しみだよ! アキラ! 君のこれからが。何かを成し遂げるのかな? それとも挫折するのかな? 何であれ、君の全てを見守ってあげるよ!

アキラが飛び去った魔法陣を見て僕は呟く。


「泣いてるところ、もう一度見たいな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る