第9歩 違和感は違和感

「あぁ、そうか。君は、いぶきが本名だったか」


「本名?」


 さっきまで名前を忘れていたとは思えないほどフレンドリーな感じで、これまた勝手にいぶきの部屋に入り、不思議なことを言う青咲さん。


「そっか、風吹には、言ってなかったかも。というか、言えなかったというか。……うん、ごめん」


「?」


 別に、喧嘩別れをしたわけではないのに、なんだろう、この違和感。申し訳なさそうにされると、こっちも申し訳なくなるんだが。


「いぶき、なんか……」


「いやなんかごめん水ぶっかけちゃったし!!なんか彼女な気分だったから、演技に磨きがかかりっ。うぐっ」


「水……?」


 なんの話をしてんだ。


「ははっ、日雀君。全然気づかなかったのか?彼が君の彼女だったって。やっぱり、なんでもやってみるもんだなぁ———」


 はっ、話が入ってこない。


「え?いや、なんですか。まったく意味が。彼女?ん?なんかの冗談?あれ?……ん?ぼく、えっと。ん??????」













「だ、か、ら、君と付き合っていた彼女は、このいぶきなんだよ。彼は【なりたい人になる】能力の持ち主で……おい日雀君。聞いてくれよ」


「だ、か、ら、じゃないですよ!?ひどくない?ねえ、どういうシナリオ?ぼく聞いてない!?聞いてないもん!?!?え、じゃあ、彼女に振られるのも最初から決まってたの?なんで?!青咲さんのシナリオなんですか?!そうなんですね……うぐっ。へっぐっ」


「おいおい、2人とも泣き止んでくれよ。……悪かったって」


「本当に思ってます?」


「思ってるよ。言い訳すると」


「言い訳するんですねっ」


「これも検証をやるために必要だったんだよ。やり方は……その、悪かったと思うけど」


 この人、さっきやってみるもんだとかなんとか言ってた気がする……!?


「ちょっと、ぼくもう帰りますっ」


「いや、待ってくれ。このタイミングでやってほしいことがあるんだ」


「なっ!?このタイミング!なぜこのタイミングなんだっ」


「よし、2人とも海行くぞ」


「「青咲さんが言うなよ、海って!」」


「仲良いな」


 海は、広いな大きいな、だから、嫌なことも忘れるったって、原因と一緒じゃ気分が晴れない。そしてここから海まで数時間っ。

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