第7歩 スクワット、梅ジュース、冷や汗

「掃除って、何をすればいいんですか?検証っぽいと言われると、何からすればいいのやら」


「そうだなぁ。あっ、白腹さんに聞いてみれば?」


「桃伽ちゃん!僕近くにいるのにっ!?」


「あっほんとだ笑」


「桃伽ちゃん、いじわる……ぐすん」


 白腹さん、さっきよりも拗ねている。


「えーっと、白腹さん。掃除と運動。この2つで何か良い検証ないでしょうか?」


「……ぐすん。うっ、えっと、そうだなぁ。バケツと雑巾あるし、窓拭きはどうだろう。あっ、そうだ!スクワット窓拭き!」


 スクワット窓拭きって、そのままだな。確かにいいかもだけど。


「白腹さん、それだとスクワット部分しか拭けません」


「確かに、普通はそうだよね。拭けない部分は、後でやるしかないね。でも、この家は違うんだなぁ」


 あっ、もう元気になってる。ぼくも白腹さんぐらい切り替えていかないとな。


「そう!私たちの家には、スクワットにちょうどいい窓がありまーす」


 いつの間にか桃伽さんもご機嫌ななめが回復して、元通り。はあ、本当になんなんだこの夫婦、じゃなくて、この2人は。面白すぎるっ。


「その窓がこれだな」


「あっ、青咲さん。何してたんですか。家出てUターンですか?」


「ふっふっ。私は新しく手に入れた【超高速スピードでさっきまでいた場所に戻れる】能力を……」


「そんなルールも能力も初めて聞きましたよ。この世界は能力の追加ないんですから、正直にちょっと家から出て、ちょっと前に戻ってきたって言えばいいんです」


「ちょっとは乗ってくれてもいいじゃないか、日雀君」


 などと言っている青咲さんは置いておいて。


「この窓で、スクワット。なんか、余裕そうな気がしますね」


「言うなぁ日雀君。じゃあ、早速、白腹さんと対決という名の検証だ」








「はぁ、はぁ……もう、限界っ」


「風吹君、倒れるのはまだ早いなぁ」


 早いって言われてもなぁ。というか、なんだあの清々しそうな感じ。白腹さん凄すぎて、ついていけないっ。


「いやっ、だってもう3セット目ですよっ」


「僕はまだやれそうだよ」


 体力あるな、白腹さん。30回を1セットしただけでもう無理だと思ったのに、それを3セットなんて。しかも、普通は20回を2、3セットって聞いてたんだけどなぁ、どっかの誰かから。誰だったか忘れたけど。あー本当に、床に吸い込まれそうだ。


「日雀君、余裕そうだなんて口だけだったなぁ」


「うっ。そ、そうですよ、口だけでしたよ。スクワット、こんなに大変だったなんて」


「うわーお疲れー」


 涼しげな桃伽さんが入ってくる。なんだか美味しそうな飲み物を運んできてくれたみたいで、自然とぼくの身体が起き上がる。


「おっ、久しぶりだなぁそれ」


「でしょでしょ!一伽ちゃん飲みたいかなと思って、作ってきた」


「あの……」


 ぼくは、遠慮とかそういうのを何も考えずに手を伸ばしていた。喉渇きすぎた。だって、この部屋結構暑いもん。


「風吹君も、どうぞー」


「ありがとうございますっ!」


 氷がたくさん入った、これは……梅ジュースかな?やばい、身体に効きすぎるな。


「おいひいです」


 氷までいつもより美味しく感じる。これが運動効果っ。


「風吹君すごいなぁ。氷食べられるなんて、いいなぁ。僕も食べた……」


「はい、白腹さんはこっちー」


 梅ジュースは梅ジュース。だけど常温梅ジュースを渡されて、しゅんっ、となる白腹さんは、年上だけど子どものようで、ぼくは白腹さんに少し微笑んでしまった。


「2人、結婚すればいいのに」


 心の中でそう言ったつもりだったが、うっかりうっかり。つい口からぽろっとね。そう言った後のみんなの静かさは、なぜかぼくの汗で濡れたシャツをより冷たくした……気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る