Day31 夏祭り
大きな自然公園で朝から続いていた夏祭りも終わりを迎える時が来た。久しぶりに参加した祭りだったが、なかなかの盛り上がりようだった。祖父と母は本部で忙しなく働き、真衣は屋台を巡って祭りを堪能していたようだ。
当の私は真衣の世話で振り回されていた。特にすることもなかったから、それはそれでよかったのだが。
閑散とし始めた公園内から、露店が少しずつその形を消していく。
これを見ると、ああ、終わったんだな、としみじみ思う。つい数十分前まで賑わっていた様が嘘みたいだ。
鉄骨がぶつかり合う音が公園内に響く中、祖父と母が仕事から解放され、私たちを迎えに来た。屋台で余ったものだと、祖父は私と真衣に焼きそばやらみたらし団子やらを渡してくれた。
お土産を持って帰路につく私たちは狭い道幅いっぱいに広がって歩く。
「祭り、終わっちゃったね」
私はぽつりと言った。何にでも終わりはある。寂しくはなかったが、その儚さに少しだけ綺麗だと思っていた。
暗い夜道に「咲紀」と祖父の声が飲み込まれていく。
「永遠は存在すると思うかい?」
少し考えてから答える。
「『終わり』があるから、ないと思う、な……」
祖父は微笑んで言った。
「永遠はね、『終わり』の中にあるんだよ」
「……どういうこと?」
彼は口角を上げたまま、何も言わなかった。
これは祖父母からの夏の宿題なのだろう。
「ちょっと考えてみる」
私はその宿題をゆっくり解いていこうと思った。
秋海棠ダイアリー 斉宮 一季 / 高月院 四葩 @itk_saimy
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