Day24 絶叫
台所の方から母の絶叫が聞こえてきた。何事かと思い、急いで駆けつけると、そこには黒光りする物体がいた。
「ゴキブリが出たの……!」
虫嫌いの母は焦りに焦って私の後ろに隠れる。動かないソイツとしばらく対峙していたところに、祖父が箒とちりとりをもって現れた。
「そんなに大きくないじゃないか」
そう言って箒を使い、ちりとりの中にソイツを収めると、祖父は走って玄関へ向かった。
何故殺さなかったのだろう。普通、ああいう場面では叩き潰すのが定石ってものだ。私は母に訊く。
「なんでおじいちゃんはちりとりで掬って外に出したの?」
ふうっと息を吐いて、近くの丸椅子に座った母が答える。
「おばあちゃんがね、昔からどんな生き物でも殺しちゃダメって言ってたのよ。間違って殺しでもしたらこっぴどく叱られてね。多分おじいちゃんがゴキブリを逃したのもそういう理由じゃないかな」
なるほど、そういうことだったのか。確かに祖母は生きとし生けるものに対して、『終わり』を付与したがらなかった。植物でさえも、「いただくときは必ず感謝するんだよ」と言っていた。
「おじいちゃんの中には、まだおばあちゃん生きてるんだね」
私は言う。そう、祖父の中ではまだ祖母は『終わっていない』。恐らく、祖父が亡くなるまで終わることはないのだろう。
もしかしたら、私の言う『終わり』は、大きな流れの中の一つの区切りでしかないのかもしれない。
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