Day20 入道雲

 私にしては珍しく、外に出て畦道を散歩していた。元気よく茂る草を踏みつけながら、私は向こうに見える入道雲に向かって歩いていく。

――咲紀と真衣とお父さんの幸せそうな顔を見続けるために生きてる、かな。

 母は一昨日そう言った。多分、本心なんだと思う。

 そんなものを見るだけで、生きる糧になるのか、私には分からなかった。幸せそうな顔なんて、いくらでも偽装することができる。偽りに気付かず、それを自分にとっての幸せだと認識するのは、果たして本当に『幸せなこと』なのだろうか。嘘がバレなければ、当人にとっては事実となるのだから、それはそれ、なのか?

 もう一つ、疑問が頭を擡げていた。

 それは、人間というのは自分のためにしか生きられないのかもしれないということ。母は自分たち家族の幸せを見るため、祖父は愛する祖母のため。

 結局自分のためにしか生きられないのなら、私も自分のために生きていくか?しかし、今の私には誰かの幸せそうな顔を見たいだとか、誰かを愛していたいだとか、そういう感情はない。

 焦らず探せばいいということは分かるが、今この時を生きる理由が今すぐに欲しいのも事実。

 『終わるタイミング』が掴めないから生きているだけで、それ以外に生きる理由なんてない。今はそれで良いのだろうか。それもまた、自分のため、なのか?

 太陽が真南に昇る頃、母が私を呼び戻す声が聞こえたような気がして、私は入道雲に別れを告げた。

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