Day19 氷
氷のたくさん入った水出し煎茶を飲みながら、祖父と二人で居間で寛いでいた。お茶を啜る祖父に、私は訊いてみた。
「おじいちゃんはどうして生きてるの?」
少し驚いた顔をする祖父だったが、しばらく考え込んでどこか懐かしそうに言った。
「ついこの前までは婆さんのためだけに生きていたんだ。婆さんの笑顔を見るためだけに。亡くなってからその意味について改めて考えることが多くなったんだよ」
葬式した辺りの元気のなさそうな祖父を私は思い出した。全てを失ったようなその姿はとても痛々しく映ったのは記憶に新しい。
祖父は冗談めかして続ける。
「今はね、『向こう』に早く行きすぎて、婆さんを怒らせないように生きているよ。天寿を全うするまでは死ねないねぇ」
この言葉がどこまでおふざけなのか、私には分からない。でも、私には本気で言っているように思えた。死してなお、愛される祖母はこれ以上ない幸せ者だろう。
祖父は愛する祖母のために生きているというが、回り回って自分のために生きているということになるのかもしれない。
私は言った。
「おじいちゃんは、おばあちゃんのことが大好きなんだね」
祖父は微笑みながら頷く。
そして、最後に一言。祖父は照れながら頭を掻いた。
「結局、俺は婆さんが死んでも、婆さんのために生きとるなぁ」
私は少し胸が締め付けられる。
結露したコップの氷はからりと軽快な音を立てた。
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