Day17 その名前

 太陽が顔を出し始めて、辺りが少しずつ明るくなり始めた頃、私は布団の上で今まで見ていた夢を思い出していた。

 真衣が私に名前の由来をただ尋ねる夢。現実に程近く、肌触りのリアルな夢であった。

 私の名前の由来は「百年経っても二百年経っても綺麗に咲き続けられますように」。母はそのような思いで私に名前を付けたのだという。

 しかし、私は自分の名前が嫌いだった。何というか、名前負けしているというか。そこまで立派で美しい人間ではない。自分にはその名前が合っていないようで、とにかく嫌いだ。改名できるなら改名したいくらいには。

 戒名がつくのは別として、死んでもなお、私は『咲紀』である。『終わり』を迎えても、名前は残り続ける。それがどこか気持ち悪い。

 正確に言うと、私は『終わり』を迎えたいのではなく、この世から消えてしまいたいのかもしれない。名前も思い出も全部他人の頭の中から消えてしまってほしい。不思議とそれが悲しいことだとは思わない。理由は分からないが。

 これも、『生きる意味』が分かれば変わってくるのだろうか。だとしたら、今はまず、その意味を探してみてもいいのかもしれない。

 死のうと思えばいつでも死ねる。意味が判明した時、納得できなかったら、またその時どうするか考えればいい。『終わり』について考えるより、『生きる』について考えてみよう。

 少し時間は早いが、私は布団を畳んで居間へと歩み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る