Day16 錆び

 庭の隅で朽ちるのを待つ鎌を見つけた。所々錆び始めていて、これではもう何も切れそうにない。

 近くで庭の手入れをしていた祖父に、それを見せる。

「もう使えないけど、これ、見つけた」

 祖父は皺の入った手でそれを受け取ると、錆を撫でながら言った。

「この状態なら研ぎ直せば使えるよ。よし、研ごうかね」

 祖父から鎌を受け取る。

 私はコイツに『終わり』を与えたのに、祖父は『生』を与えた。味方や価値観によって、付与する状態が異なることは分かる。それでも。私は訊く。

「おじいちゃんは、物事の『終わり』って何だと思う?」

 難しいことを聞くねぇ、と祖父。しばらく考え込んでから彼は口を開いた。

「『終わり』は再生の合図だと思うねぇ」

「再生の合図?」

「あぁ。その鎌のように錆びてしまったら、そこがスタートだ。研ぎ直すという行為を経れば今まで以上に輝ける」

 人にも同じことが言えるか、と言いかけてやめた。

 私は独り、考える。『終わり』をもって、人はより一層輝くのか?思い出として、人の記憶の中で輝き続けるという意味ではそうかもしれない。では、思い出を有するその人が『終わった』時にも同じことが言えるか?その行為が連鎖していくから、ある意味言える、か。

 どことなく、腑に落ちない。祖父の回答を森羅万象に当てはめるのは無理があったか。

 私は倉庫へ歩いていく祖父の後を追った。

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