Day15 なみなみ
真衣のために、と祖父がビニールプールを出してくれた。
プールになみなみと張られた水に勢いよく真衣が飛び込む。すると、辺り一面に水飛沫が広がった。
毎日が猛暑である田舎で入るプールはさぞ気持ち良いだろうな、と私は縁側からその様子を眺めていた。
私にも真衣と同じような時期が確かにあった。幼稚園児だった頃、祖母の家に来ては毎回のようにビニールプールで遊んでいた。今の私と同じように、祖母は縁側で私が遊ぶ様子を優しく眺めていたのだ。
いつからだろう。幼い子どものように精一杯生きるのを辞めたのは。気付いた時にはもう、つまらない人生をなんとなく生きていたし、生きる意味も失くしていたと思う。
今の私は『終わり』を迎えるために生きている。ただひたすらにその時を待っている。
大人ってこういう感じなのかな。決められた仕事をこなして、時間になったら眠りについて、また仕事へ向かう。まるで生き急いでいるように。
私はそんなの御免だった。意味もなく輪っかをぐるぐると回り続けるくらいなら死んだ方がマシ。
私はハッとした。だから、死のうとしたのか。一つ疑問が夏空に消えていく。
別に生きたいと思っている訳ではないが、ならば、何か『意味』を見付ければ、生きていこうと思えるのだろうか。
その時、唐突に顔に水が掛かった。
「お姉ちゃんも遊ぼー!」
真衣が満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。
――生きる意味……。
私は真衣に微笑んで、ビニールプールへ向かった。
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