Day10 くらげ
母が浴衣を引っ張り出してきた。
私が真衣くらいの背丈だった時に着ていたくらげの浴衣。浅葱色の生地に白色のくらげが泳いでいる。
この浴衣、当時の私のお気に入りで、祖母の家に来た時には、必ずといって良いほど祖母に着付けてもらっていた。
時は流れ、今度は真衣がそれを着ることになった。着付けるのは母。月末に開催される地元の夏祭りにくらげの浴衣を着ていくのだという。今日はその試運転のようなものだ。
「浴衣、可愛いね!」
帯を締められながら真衣が無邪気に笑う。
真衣にねだられて夏祭りでは私も浴衣を着ることになった。私が着るのは祖母の浴衣だ。こちらは椿が咲いたもの。
祖母の普段着は着物や浴衣が中心で、彼女の家には山のように和服がある。その中でも椿の浴衣は祖母が気に入っていたもので、敢えて棺の中には入れなかったのだという。母曰く、これを見ると祖母のことを思い出せるから。この浴衣が祖母の形見になった。
私は帯を締め上げる母に声を掛けた。
「ねぇ、お母さん」
「何ー?」
「ホントにあの浴衣、私が着て良いの?」
母は姿見から目を離すことなく、言う。
「私も着てたのよ、アレ。おばあちゃんが生前に、親子三代で着たいから咲紀にも着てほしいなぁって言ってたし、せっかくだからね」
「そうなんだ」
なら祖母が生きている間に一度でも着ておけばよかった。後悔が滲む。
ただ、弔いになるのなら、着たい。
私はたとう紙の中から椿を丁寧に抱き上げた。
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