Day8 さらさら

「さーさーのーはーさーらさらぁー!」

 怒鳴り声にも似た真衣の乱暴な「七夕さま」で目が覚めた。

 今日も天気は雨。幼女には外で遊べないことがストレスらしい。

 昨日天の川が見れなかったことが相当気に食わなかったようで、七夕が終わったにも関わらず、ずっとあの調子である。

「お姉ちゃん、頭結んでー!」

 真衣はがなりながら私の眠っている客室にどかどかと上がり込んできた。その手には櫛とヘアゴムが二つ。

「ここ、座りな」

 布団の上に真衣を座らせる。

 仕事で忙しい母の代わりに、私は真衣の髪を結ってやることが多かった。

 彼女がねだるのは、ツインテール。腰まで伸びたさらさらの髪を丁寧に二つに分け、結っていく。

「お姉ちゃん」

「んー?」

「織姫と彦星、会えなかったね」

 寝ても覚めても七夕。私の妹は小学一年生にしては精神年齢が低い気がする。

 七夕伝説は所詮伝説。作り話だ。……だが、幼子にそれを突き付けるのは私も違うと思う。サンタクロースを信じる時期は誰にあってもいいと思っている。いや、あってこそ、子どもというものだろう。

 そんな『子どもの時期』を過ぎた私には、七月七日はただの日でしかない。人はこうやって、一つずつつまらなくなっていくのだろうか。

 結び上がったツインテールを櫛で梳かしながら、私は言った。

「来年は会えるといいね」

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