第17話 告白の舞台裏

まず私がしなければならないこと、それはなんでしょうか?


・・・・・


そう、屋上へのキップを手に入れなければならないわ。

生徒の屋上への立ち入りは禁止されているからね。

して、どうやって行ってやろうかしら。

全く考えてなかったわ…


「橘さんどうしたのかなー?」


私の脳内を駆けまわるは閃きの電流。

またしても私は名案を思い付いてしまったわ。

自分の才能が恐ろしい…


「いいところだわ西城優芽さいじょうゆめさん、少し相談があるのだけど?」


私が最上優芽と呼んだ彼女はなんと…


「西城さんの力が必要だわ」


「全然いいけどどうした?」


西城さん、彼女はなんと副生徒会長なの!


副生徒会長、それは学校というコミュニティの場において絶大な権力を持つ。

主な役割は校集会や講演会、始業式・終業式などの式典時の整列指導や生徒会行事での司会進行を任されてることが多いわ。


そしてあらゆる場所へ赴く権限があるの。


そう、つまり何が言いたいかというと…


「西城さんお願いなのだけど、屋上への鍵を貸してくれないかしら?」


「いいけどなんに使うの?自殺とかはもちろんちがうよね?」


途端に申し訳なくなってきた。


しかし告白に使いたいです!なんて言えるわけもなくて。

一応周囲にはで通ってるのよ。

まずいわ、言い訳をなにも考えてなかったわ。

最近行き当たりばったりというか猪突猛進を成した行動が多いわね。


「えっとー」


「ん??」


不味い、非常に不味い。

どのくらい不味いかと言われると部屋で熱唱しているときに親が入って来るときくらい不味いわ。

あ、これは不味いじゃなくて気まずいね。

一人ツッコミっていうのも難しいわね。


「どういう理由なのかなー?そういえば天音海翔くんが屋上に呼び出されたとか―――」


「ちょっとまった!!」


「どうしたのかなー?急に大きな声を出して、にひひー!」


あぁダメみたい。

遊ばれるし、鍵を貸してもらう理由も見つからないし。

てか広まるの早すぎでしょ。

なにあいつばらしてんのよ。

極秘文章なんですけど…


「さぁ…?彼が屋上へと呼び出されたのには何も関係ないわ、えぇ何も。」


「じゃあ鍵要らないね!」


あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

もうどうすればいいのよ!

こうなったらヤケクソよ!どうにでもなりなさい!


「そうよ!あいつに告白しなきゃいけないから必要なのよ!屋上の鍵が!」


言ってしまった…

周囲を確認。

右左、そしてもう一度右。


だれもいません。

致命傷で済んだってやつね。


「やっぱり、そうなんだね!」


「えぇ、だから貸してくれるとありがたいわ」


「そうだね、乙女の恋路を邪魔するのはいただけないよね!」


にひひーと笑う西城さん。

良いこといってるんだけど、とっっってもはずかしいわ!


「それじゃ放課後渡すから待ってて!」


「助かるわ西城さん、本当にありがとう…」


「いいってことよー!」


致命傷を負いながらも第一関門を突破することに成功した。





時は進んで放課後。


私は誰もいない屋上へとやってきていた。

屋上から見下ろす景色、茜色に染まり夕日に照らされた景色。

剣呑とした心を洗いだしてくれる気がする。


「どうしてこうなったのかしらね…」


小中とお嬢様学校に通い、高校も通っていたけれど色々あって転校。

初めての共学で不安な思いだった。

そしてその不安は確信へと変わり、今じゃ一番の私の悩みの種に。

何度も繰り返すようだけど、男子からの好意の視線。

そして場所が変わっても変わらない女子からの嫉妬の視線。


みんな私の容姿しか見ない。

決して内面を見ようとしない。

だれも本当の私を見ない。


少し辛気臭い雰囲気になってしまったわね。

この目の前に広がる景色に絆されてしまったのかしら。


あいつはいつ来るのよ、遅いわね…


――ガチャン。


背後で錆びた金属が唸った音がした。

それは私がつい先ほど聞いた音で――


ここ、屋上への来客が来たことを告げる呼び鈴の役割を果たした。


「遅かったわね」


私は思ったより遅れた彼の登場に嫌気が差したのか、

はたまた別の理由からか

私が本来想定していた言葉よりも棘がある、

想像していた声のトーンが低くなった

言葉を彼に告げた。


「うるせぇ、急に呼び出しやがって。これでも急いできたんだからな?」


嘘だ。

私は彼がHR《ホームルーム》の後クラスメイトと必ず談義をしていることを知っている。

それに彼から吐き出される息には一切の疲労も込められてない。

私の目は誤魔化されない。


「へぇ…この私に嘘をつくとはいい度胸じゃないの?いつからそんないいご身分になったのかしらねぇ?」


あぁ…まただ…

また思ってもいない、冷たい声が出る。

そういえば彼の顔を見て話してなかったわね。流石に失礼と思った私は彼に顔を向ける。天音くんは一体どういう顔をしてこの場にやってきたのだろうか。


けれども言われた本人はケロッっとしていて何やら失礼なことを考えている顔をしていた。

案外この反応の方がいいかもしれないわ。

こっちだけ妙に緊張した感じを出さなくていいのよ。

さっきから失礼なことを考えてるって顔してくれて…ねぇ?


突然私に知らない声が届いた。

『君の容姿はどんな顔なのかな?』


いや怖すぎるんですけど…

しかしなぜか彼もそういった顔をしている。

さっきから『失礼なことを考えている顔』とか『私の容姿が気になる顔』とかどんな顔だよ!って思うかもだけど本当に実際そんな顔してるのよ。


「私の容姿?そんなの完璧美少女に決まってるじゃない。世界中のすべての男が私のことを『世界一可愛いお嬢様』と形容するに決まってるじゃない。そう思わない男は男じゃないわよ」


ちょっと言い過ぎたかな?

天音くんに引かれたらどうしようかなんて思ってしまっている自分に驚いてしまう。

えぇ、決してひろ〇き構文にしようと思ったわけじゃないわ、本当よ!


「いやいや、すべての男が『世界一可愛いお嬢様』って日本語で形容するわけないじゃないですかー」


そういって言葉の揚げ足を取ってくる下僕。

あぁもうほんとに…


「あら、そんなこと思っててもいいのかしら?殺すわよ?あなた今なんでって間抜け面してるけど普通に声に出てたからね、私のせいじゃないわ。」


『殺すわよ』発言はちゃんと私が言おうとしていた言葉です。

下品と言うか下劣というか…

言ってしまった私がいうのもあれだけれど随分と汚い言葉ね…


「まぁ、そんなどうでもいいことはおいておいてだ『世界一可愛いお嬢様』はこの俺になんのようだよ」


来た、これを待ってた。

決して忘れていたわけじゃないわ。

えぇ、決して。


「あなたね…まぁいいわ。こっちも本題を説明してなかったわね。」


そう言って私はお母さん譲りの自慢の髪を靡かせる。

こうすると不思議と勇気が湧いてくるのだ。

言え…言うのよ私…


「下僕、一度しか言わないから心して聞くようにしなさい。」


そう言って私は私の言うべき言葉を

溜めて―――


「私と…付き合いなさい…」


―――言葉を紡いだ。

しかしその言葉は自分でもびっくりするくらい小さかった。

天音くんにちゃんと聞こえてるかしら?

しかしそれは案の定…


「ごめん、なんっていった?別の事考えてた。」


べ、別のこと考えてた…?

ま、まぁいいわ。

私がお願いしているもの、少しは寛容になるべきよね。


「死にたいのかしら?」


ごめんなさい無理でした。

なけなしの勇気を振り絞って言ったのにそんなのってあんまりじゃないかしら?

きっとそう思うのは私だけじゃないはずよ。

私は悪くないわ!


「まぁいいわ…もう一度言うわよ…」


そう言ってもう一度溜めて―――


「わ、私と付き合いなさい!」


今度はちゃんと声が出た。


「はにゃ?」


自分でも頬に熱身を帯びていくのが分かる。

きっと今の私はゆでだこか熟した真っ赤な林檎のようになってるだろう。


私は羞恥に負けないようにその場で佇んだ…










######

切れのいいところで一旦止めます。

今読み返すと随分天音くん舐めてるな(笑)


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