第16話 作戦の代償は私じゃなくて一ノ瀬さんが…

決戦の日、当日。


私は朝から気合を込めていた。


「うっし、やるわよ!」


最初とキャラ像が違うどころじゃないが、そこは気にしたら負け。

結果あの後使用人たちがドサドサーっとやってきて色々と心配された。



「お嬢様、大丈夫ですか!」


「いかがなさりましたかお嬢様!?」


「お嬢、どうした!」


最後のは極道だ。私の事を『お嬢』なんて組長の娘みたいな呼び方をするのは極道だけだ。当然極道は私のボディガードをしているわけだから一直線で私の部屋にやってきた。


対応に困った私はみんなに


「すみません、思い出し笑いをして…」


苦しい言い訳だと自覚している。

しかし、ここで馬鹿正直にもう一人の橘抹白2と話してて面白くて笑ってしまって…。なんて言えるわけなかった。


そんな精神異常者のまねなんてとても…


「そうでしたか!」


「早く寝ますように!」


「思い出し笑い!俺もよくするなぁ!」


えぇ…。

みんな簡単に信じちゃったよ…。

この人たち、私が嘘をつくなんて夢にも思っていないからだろうか。

優しいまなざしを私に向けている。

今なら怪しいツボの1つや2つ買ってくれそうだ。


「そ、そうよね!私ももう寝ることにします!」


それではまた明日と、使用人たちに告げ部屋から追い出した。

私にはまだまだこれからやることがあるのだ。


「出でよ!もう一人の私!」


【眠いんですけどー、前回限りの出演じゃないの?】


そういって瞼を擦るもう一人の私ッ!橘抹白2。


「眠いのは私も同じよ!私も前回限りの出演かと思ってたけどいいじゃない!」


深夜テンション継続確定。


「作戦を立てるわ!何か案は?」


【眠いよぉ…】


そうして深夜の延長戦を行うこと数時間…


「やったわよ…やっと終わったわ…!」


【これで寝れるぅ…】


私は歓喜に打ちひしがれていた。

もう一人の私ッ!はそのままベッドにバタンキュー。

私は可愛らしい装飾があしらわれた封筒を見つめる。

中には一枚のメモ用紙のような手紙が入っている。

書かれている内容は、『屋上で待つ。』


句読点も忘れずに添えることで真面目さがアピールされている。

会心とも言える出来に満足した私はそのまま机に倒れ伏した…




そして場面は今へと繋がる。

いつもの何倍も重たい体を起こし準備支度を終え、朝食を意識朦朧の中食らい、極道に送ってもらう。


送迎中は今日行うことのシュミレーションをしようと思っていたが間もなく寝落ち。


ハッと!目を開ける。

危ない危ない。


まずどのように手紙を渡すのがいいだろうか――。


これがはっきり言って一番難しい。


彼の靴箱に忍ばせようと、一番ポピュラーなことを思いついたが、そもそも彼の靴箱の位置を知らない為あえなく却下に。


次に机の中に忍ばせるというバレンタインチョコレート作戦も思いついたけれど教室には誰かしら居るし、はっきり言ってしまえば私は四六時中、必ずと言っていいほど視線を集めている。よって不可能だ。


あぁもう無理ポ。

詰んだわ。

知らない誰かが『王手!』と言いながら駒を指して嘲笑っている気がする。


「お嬢、どうしたんですか?」


ピキーン。

と私の頭に一筋の閃光が駆け、頭の上の電球に明かりが付いた。

我、天啓得たり。



「極道、どうやって男に手紙を渡せばいいかしら?」


「あい?」


なぜか極道の顎が外れた。


「だから、どうやって手紙を渡せばいいのかしら?」


「え‘‘ぇ‘‘!!」


「あ‘‘?」


何度言っても理解していない様子の極道に少しピキっときてしまい、すごい声が出てしまった。


「いえ、理解できなかったという訳ではなくてですね…」


「???」


「そんなわけが分からないといった顔をしないでください…」


「そんなことはどうでもいいのよ、分かるのかしら?」


私は極道の再度尋ねる。

いつもは楽しいこの掛け合いも今日は惜しい。

私には時間がないのだ。


極道は閃いたのか右手をグー、左手をパーにして打ち合わせた。

ハンドル握ってなくて草。


「お嬢!—————————————かくかくしかじかごにょごにょごにょこういうのはどうでしょうか?」


「名案ね!さすが極道!あとさも当然のようにハンドルから手を離さないでほしいわ。というか離したらだめよ、普通」


すいやせん、と頭を掻く極道。

また離してやがるわね。話聞いてた???


しかし極道の案は素晴らしかった。

これは試してみるほかあるまい!





そうして学校に着いた私は協力者に説明する。


「まじそれ、がちでやる感じ?」


喋り方から分かるように、私の数少ない友人の一人である一ノ瀬結衣さんだ。


「一ノ瀬さんが焚きつけたのでしょう?協力してくれるわよね?」


うへぇとやりたくなさそうな顔を浮かべる。

失礼じゃないですか!


「やるよやるよちょーやる。たっちのー為なら野を超え山を越えちゃんよ!」


やっぱり一ノ瀬さんは頼もしい。


「それじゃ、作戦通りに頼むわよ?」


「えっさー橘隊長!」


案外乗り気じゃないかしら。

私達は教室で静かにそう宣誓した。


【side/一ノ瀬結衣】


うへぇ、まじでやっちゃったよたっちー。

冗談のつもりでした!適当しました!

なんて口が裂けても言えないよ…


私は橘隊長に告げられた作戦内容を頭でじっくりと読解する。

あのお方、胡桃沢さんに喧嘩売ってるようなもんだけどどうしたもんか…

の暗黙の了解。

というかルールを破ってしまう。

追放待ったなしだよ…


しかし追放。

そんなもんがどうした!

ここは親友の為にいっちょ一肌脱ぎますか!


うし!気合い入れてけー?


自分の頬っぺたをパシパシと叩く。

痛い!


けどこの痛みが、私に前へと踏み出す勇気をくれる!

この痛みは勇気の痛みだ!


「どしたんどしたん、だいじょぶそー?」


友達が心配して声を掛けてきた。


「うち、禁忌犯そうとおもうんよね…私たちの禁忌を…」


そういうと友達の顔が真っ青になっていく。

理解したっぽいね!

一瞬で真っ青になるくらいやばいの!

ほんとまじやばいから!


「ごめんねひよりん、うちとは今日でお別れかも」


「どうしても…なんだね…?」


「うん、これは誰にも曲げることはできない。どうしようもない願いなんだよ。」


「そっか…ゆっちー頑張ってね、私はどんなことがあろうとゆっちーの味方だからさ!」


泣けるよぉ…





教室の中心で男女複数人で話しているグループを発見!

そこには当然、彼がいる。


「ねね、天音くん天音くん!」


「ん、どしたー?一ノ瀬さんが話しかけてくるとは珍しいじゃん」


胡桃沢さんと話しているところに割り込んでいった私。

胡桃沢さんからの視線で早くも死にそう。

マジもう無理。


やっぱ近くでみるとかっちょいいー御顔だこと。

しっかり二重だし。髪もちょっと茶色って感じで清潔感もばっちぐー!

そして意志の強そうな瞳、くー!


「あ、あんさ!これ受け取ってほしいんよね!」


そう言って私は橘隊長からの極秘文章を渡す。


「これうちのじゃないんやけどさ…極秘文章だから絶対みんなに言っちゃだめだよ?」


おぉぉぉと天音くんは声を上げた。


「まじ!これラブレターってやつだよね!?何年ぶりだろ!」


しかし一方で周りのご友人さんたちは…


「「「「「(あ…)」」」」」


そして肝心の胡桃沢さんはというと・・・・・


「・・・・・・・・・・」


目が死んでました。

死んでるっていうか、目の光。ハイライトってやつが消えてた。

怖すぎるぅぅ。

その目で簡単に人殺せそうだよぉ!


「それじゃ!誰のかは行ってからのお楽しみってことで!」


私はそのまま廊下に逃げて行った。

後ろを振り返ると手紙の内容を見た天音くんの頬っぺたがピクピクしていた。

橘隊長は一体どんな機密文章を書いていたんだろーか。


そのあと私は大きすぎる代償を払うためにあれやこれをするハメになった…


【side/橘抹白】


昼休み、今日も今日とて私は下僕とランチをとっていた。


「今日も美味しいわね」


「・・・・・・」


「今日の卵焼きはちょっと甘めなのね」


「・・・・・・」


「私はこのくらいが好きよ…って聞いてるかしら?」


横を見るとたこさんウインナーを箸で持ち上げ、口元に持って行ってるところで下僕は時が止まったかのように静止していた。


「ちょっとー生きてる?」


下僕の顔の近くで手を振ってみる。


反応はない。ただの屍のようだ。


心当たりといか思い当たる節はある。

というか十中八九あれでしょうね。


冷静そうに振舞ってるけど私だって心臓バックバックだからね?

偽とはいえ告白なんて初めてなんだから。

偽!だからね!


「どうやら上の空のようね、お弁当美味しかったわ」


私はそう言って、その場を後にした。


フィールドはもうすぐ整う。







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