第15話 もう一人の、私ッ!

天音海翔、通称マイベスト下僕と私はここ数日一緒にランチをしていた。


「ん、美味しいわね」


「相変わらず味気ない感想だなおい」


「あら、味ならちゃんとついてるじゃない」


「そういうことじゃねぇ!!!」


毎度のごとくコント…じゃなくて会話を繰り広げる私達。

不思議とネタは尽きなかった。

これもひとえに私のギャグ線の高さによるものだ。


「そういや最近大丈夫か?」


先程までとの雰囲気とは打って変わって真面目な雰囲気になる下僕。

似合わないことこの上ないわね。


「大丈夫って何がよ?」


「あれだよあれ、また男たちから危ない目に合ってないかってことだよ」


ふ~ん。この男やるわね。

一瞬イケメンかと私の目と脳がバグをおこしてしまったわ。


「大丈夫よ、相も変わらず飽きもせず毎日のように告白する男は絶えないけど危ない目には合ってないわ」


「そりゃよーござんした。なんかあったら呼べよ?」


「あなたなんか呼ぶ必要なんかないわ。お節介もかきすぎると迷惑よ」


「相変わらず素直じゃねーな、まぁなんかあったら絶対呼べよ」


じゃーなと言ってベンチから腰を上げスタスタと帰っていく下僕。

心の中で私は下僕あいつに感謝をしておいた。




「橘さ~ん、最近海くんと距離近すぎるよね~?」


この間延びしたしゃべり方。

お察しの通り胡桃沢さんだ。

またしてもラブレターという絶滅の危惧が心配されている古典的な告白方法によってまんまと罠にかかった私。


「なんのこと?彼とはランチしかしてないわ」


ふーんと唸る胡桃沢さん。

しかし視線は私の目を射抜いたまま。

今日はやけに視線が鋭い気がする。


「ランチ?私でも海くんの手作り弁当なんて食べたことないのに」


知ったこっちゃないわよと言いたいところだけどここはぐっと我慢。そんなことは絶対に言わない方がいい。私の短い人生で培ってきた経験がそう言う。


「そうね、けど彼から接触することにはなんの問題もないんじゃないの?」


「ぐぬぬ…そうね。今日のところは帰ることにするね!」


彼女はそう言って去ろうとして――


「海くんは私のもの。誰にも渡さないから」


そう私に告げた。

まるで宣戦布告かのように。





最近思うのだけど胡桃沢さん嫌なキャラになってない?大丈夫?

ヘイト管理って難しいのね。



「今日も呼び出しされてたけど大丈夫そ??」


今時っぽいしゃべり方をする女。

若干ギャルっぽい見た目をしているこの女の名前は一ノ瀬結衣さん。

私の片手で数えるほどしかいない友達の内の一人だ。


「案の定胡桃沢さんだったわ…どうして私は女子にこうも目の敵にされているのかしら…」


思わずため息が零れた。

胡桃沢さんの忠告こそ今日で二回目だが、女子からの視線がまぁ痛いこと。男子からの下賤な視線も勿論健在だけれど。

それ以上に女子からの視線が心にくる。


「たっちーも苦労してるね…大丈夫!私はたっちーの味方だよ!」


あぁ…なんて優しいのかしら。

いつもの適当さが勘違いかと思ってしまうほどのやさしさじゃない。


「それでさ、私思いついちゃったんだけどさ!」


「私を呼び出した要件はそれね…期待はまぁ…していないわ…」


そう、私は一ノ瀬さんに呼び出されていた。

言っても同じクラスなのだから「ちょっと話があるー」といった軽い感じで。


「ひどい!たっちーのあんぽんたん!おたんこなす!」


頬をぷくりと膨らまさせ可愛らしく怒る一ノ瀬さん。

こういう友達がいてよかったと心の底から安堵する。


「それでね、名案なんだけどね…」


自分で名案と言ってしまうのはどうなんだろうか…


「いったいなんなのかしら―――」


私の言葉はそこで途切れる。


「天音くんと付き合っちゃえば?」


「はい?」


思ってもいなかったトンチンカンな提案に

思わず間抜けな声が出た。


「だってさ?考えてみてよ。天音くんと付き合ったら確実に連日の告白はなくなるよ!」


「そういうものかしら…」


「彼氏持ちの女の子に告白するバカな男はいないよ!」


そういったことはしたことがないから

そのような効果があるのか判断できない。


「それに女子たちからの嫉妬の籠った視線もなくなるよ!」


「それはちょっと意味わからないわね」


「「非公式天音海翔ファンクラブ」のみんなの行動理念って知ってる?」


「そんな会社の経営理念みたいに言われても…」


「彼女たちの行動理念は「天音海翔を全力で推すこと、天音海翔の行動は絶対に妨害しないこと」の大きく分けて二つの目的があるの」


一ノ瀬さんは可愛らしく指を2本立てた。

パッとみ結構いいルールなんじゃないのかしら。


「それでどこが私と彼とが付き合うメリットが?」


ふふーんと胸を張る一ノ瀬さん。

残念ながらその胸は――(以下略)


「結局、彼と付き合っちゃえばファンクラブの会員たちも手が出せないんだよ!」


「と、いうと?」


「この学校にいる女子はだいたい会に所属しているの」


なにそれこわい。

恐ろしい高校じゃない。


「だから彼の恋人になったらたっちーのことは悪く言えないの。だってそれは「天音海翔の行動は絶対に妨害しないこと」に大きく反してしまうから」


「なるほど…けどそれって根本的なところで天音くんが私と付き合わなければいけないじゃない」


「そうだね!」


大事なところを見落としているわよ…一ノ瀬さん。


「彼が私と付き合うことなんて100%ないのよ。仮に私が告白したところで彼が素直に首を縦に振ることなんてないわ」


一瞬素晴らしい提案だと思った、そろそろもあるし偽の彼氏でもいいから用意できればどれほど楽だっただろうか…


「100%なんてわかんなくない?無理やりでも、適当でも、そんなのわかんないよ」


ギャルっぽい口調が抜けている一ノ瀬さん。それだけ真面目に話しているということなのかしらね。もうそろそろ本気で告白されるのは嫌になってきたのよ。ストレスかかりすぎて私の自慢の金髪が白髪に変わってしまうわ。


「わかったわ…少し頑張ってみることにするわ…」


私は一か八かの賭けに出た。






そして私は来たるべき決戦の日を迎えるために準備をした。

彼をどうしたら、どのように立ち回れば付き合うという結果に辿り着くことができるか。

そのためにどうしたらいいのか。

考えること数日…


「あー、もう書くのめんどくさいわね。グダグダしすぎなのよ!ちゃっちゃっか告白すればいいのよ私!私は学校中の男たちが放っておかない美少女じゃない!私に告白されて首を横に振る奴なんていないわ!そんなやつ男じゃない!しゃー!やるわよ!」


自分の私室で唸り声や突然大きな声を上げる私。不審者この上ない。


必死に自分を奮い立たせた。

まずどのような方法がいいだろうか…

考えること数秒。


「私が一番悪くないと思った告白の方法は…教えて!もう一人の私!いでよ橘抹白

2!」


自分では幾ら掛かっても答えはでないと察した私。そしてあろうことかもう1人の私に聞くという厨二病も真っ青な案に至る。

現在の時刻は夜遅く。

察しの通り深夜テンションである。


しかしときにして深夜テンションは思いもよらない行動力を発揮する。


【私はもう一人の私。橘抹白2よ!】


「もう一人の、私ッ!」


もう一人の人格が生まれた。

名は橘抹白2。

私と全く瓜二つの美少女が目の前にいた。

人格が生まれたのに目の前に自分と瓜二つの人物が見えるとはこれ如何に。


【さっそく本題に移るわ、眠いのよ】


「そ、そうね!どうすればいいのよ!」


深夜テンションで完全にキマっている橘はおかしくなっていた。

幻覚、幻聴、なんでもござれだ。


【まず大前提としてあなたは下僕が好きなの?好きでもない相手に告白なんて、そんなことあなたはできるの?】


そうよね…私としたことが完全に忘れていたわ。


【それでもう一人の私は下僕のこと好きなのかしら?】


「うぅ……」


【どっちなんだい!ぱわー!】


橘抹白2も眠気でおかしくなっていた。


「…嫌い…じゃないわ…」


【下僕とおしゃべりコントするのは楽しい?】


「楽しくなくわないわ…」


【どっちなんだい!】


「楽しいわよ!おもしろいわよ!何か悪い!」


逆切れである。


【それじゃもう一度聞くけど、好きなの?】


「それは…分からないわ…あなたもそうでしょう?」


もう一人の私、橘抹白2はうなずく。

私が分からないなら、もう一人の私も分かるわけないのだ。


【そうね…難しい話だわ…これは】


私のベットに腰掛け、足を組み、腕を組んだもう一人の私。

混沌カオスだ。


【けど好意的に見てるのは間違いないじゃない?】


「そうね、あんな感じだけど悪くは思ってないわ」


【付き合ってから好きになっていけばいいじゃない!】


「それもそうね!さすが私!やるじゃない!」


自分に言いくるまれる橘だった。


「それじゃどんな告白がいいのかしら!」


【私が一番いいと思ったのは……やっぱり手紙ね!】


「どんな内容がいいかしら!」


【『屋上で待つ。』これがいいわね!簡潔かつ分かりやすい!】


「簡潔と分かりやすいって同じ意味じゃない?」


【それもそうね!】


わっはっはー!と豪快に笑う少女が

紛れもない、橘抹白である。


「お嬢様!どうされましたか!」


廊下をどたどたと急いで走って来る使用人が一人。その使用人は自分が仕える主人の部屋から大きな笑い声が聞こえてきたので走ってきた次第である。

そして使用人が目にしたのはベットに向かって豪快に笑うお嬢様。


使用人は普段の主人が絶対にしないであろう奇行を目にした。

脳がバグを起こして使用人は頭を押さえて真後ろに直立のまま倒れた。


「きゃー!大丈夫!しっかりして!」


橘の悲鳴を聞いて他の使用人たちも続々と廊下を駆けてくる。


「大丈夫ですか!お嬢様!」


「あぁ…もういやだ…」


こうして夜が更けていく。

明日は告白、決戦の日。


*ネタバレ注意()























てーれーれれーれーん♪

やめて!深夜テンションで生まれたもう一人の橘抹白2と喋っていたら、見回りに来た使用人に普段静かに過ごしているお嬢様が夜中に豪快に笑っているところを見られてしまったわ!このままじゃ私の清楚なお嬢様イメージが燃え尽きちゃう!


お願い、死なないで橘抹白!あんたが今ここで倒れたら、一ノ瀬さんやみんなとの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、鬱陶しい男子からの告白に悩まなくて済むんだから!


次回、「橘抹白死す」。デュエルスタンバイ!



######

ネタバレですが橘の告白は失敗なんかしません()


最後の城之内構文作るのが一番大変でした()

頑張りました!

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