第14話 混沌の入り混じる女子会
仲良く?天音くん…じゃあなかった、下僕とランチと洒落こんだ私。
なんやかんやで彼の弁当を食べることになったけど普通においしかった、普通に。
本当なら私が下僕を誘って私お手製の弁当を食べてもらう予定だったけどまぁいいわ。
こればっかりは忘れた私が悪いわ。
昼休みも終わりに差し掛かっていたので彼とは別れた。
別れたと言っても同じクラスなのだから目的地は同じなのだけど…
なんとなくよ、なんとなく。
べ、別に恥ずかしかったとか、そんなんじゃ、ないんだからね!(激寒)
教室へと帰ってきた私に一ノ瀬さんが話しかけてきた。
「結局購買でなんか変えた?あそこいっぱい人いてまじヤバタンなんだよね」
そうね、まじヤバタンだったわ。
それと私が購買に行けると確信していたのね。さすがだわ。
「えぇ、一ノ瀬さんのおかげで無事にたどり着くことはできたわ」
「当然でしょ!私、すごいから!」
そう言って胸を張る一ノ瀬さん。
普通のラブコメなら、『彼女のメロンのような胸が強調されて目のやり場に困ってしまった』くらいの描写をするんでしょうけどあくまでそれは普通のラブコメ。
実際には一ノ瀬さんの胸はメロンみたいにたわわに実っていなく、『シュン…』っとなっている。対する私の胸は…みんなの想像に任せるわ。
これ以上は女子の醜い争いに発展してしまうわ。
「そうねーさすがだわー」
「棒読みマジピエン」
「一緒に帰ろ!」
帰りの
「ごめんなさい、私また呼び出されているの」
「えぇー、そんなん行かなくていいじゃん!どうせ断るんでしょ?」
それは間違いない。
たとえどんな人が私に告白してきたとしても人質とか取られてない限り絶対にありえない。振りじゃないからね?
「流石に行かないと不誠実じゃない?」
「変なところで真面目だなー!」
そうしてまたしても私は告白を受けに行く。
場所は屋上と指定されていた。
告白の形式はまさかの手紙、SNSが発達しまくってるこの時代に手紙とはなかなか良いセンスをしている。
私は屋上へと続く扉に手を掛ける。
すると背後からかわいらしい声がした。
「屋上に行くの〜?うちの高校屋上入れないよ〜?」
妙に間延びした声を出す少女、しかしその声はココ最近よく聞いたものだった。
彼とよく一緒にいる少女。
「なにかしら胡桃沢さん?」
「私の名前を知ってるとはすごいね!まだ転校してきてそんな時間経ってないよ〜?」
知ってるも何も彼と一緒に行動してるから嫌でも目に入ったし耳にも入ってきた。
別に彼を観察してるとかそんな事実は一切ない。
「私、これから告白を受けに行かなくてはならないのだけど?」
「大丈夫大丈夫!その手紙だしたの私だから!」
そう快活に言う少女。
彼女の妙な様子に底知れない恐怖を感じるのは私だけだろうか?
「偽の手紙を出してまで、一体私になんの用かしら?」
「最近海くんに近づいているのはなんで?」
間髪入れずに言う胡桃沢さん、やはりかと
勝手に納得する。
「なぜ天音くんに近づいたらいけないのかしら?」
「だって海くんは私のだよ?」
「は?」
「海くんは私の海くんで、私は海くんの私なんだよ〜」
気づけば彼女の瞳から光が消えていた。
瞳のハイライトが、消えていた。
「ごめんなさい、何言ってるかわからないわ」
「海くんに近づきすぎるのはダメなんだよ」
「はい?」
「海くんはみんなで遠くから見守らなきゃいけないの」
天音くんが見世物になっているってこと?
それにしてもさっきから全く会話が成り立っていないわ。
言ってることの意味が分からないし私の質問にちぐはぐなことばっか言ってる。
この手の
そう私の人生経験が警鐘を鳴らす。
「そうね、わかったわ。私からは近づかないわ。」
「私から?海くんから話し掛けられたら話すってこと?」
「えぇ、当然でしょう?あなたは天音くんのそんな自由すら縛るのかしら?」
胡桃沢さんは顎に手を置き、考え出した。
「う~ん」っと唸っている。
「そうだね、海くんがしたいことを優先するべきだね!」
パッ!っと明るく笑う胡桃沢さん。
先程までの禍々しい雰囲気は消え去っていた。
「それとあと一つ、天音くんの彼女は近づいてもいいのかしら?」
「彼女~?いいんじゃないかな?だってもうすぐ私になるはずだし?」
「なるほどね、分かったわ」
私はそれ以上言葉を交わさずにその場を離れた。
校門を出ると茶髪の少女がいた。
「たっちー大丈夫だった?」
私の事をたっちーと呼ぶ人はこの学校に一人しかいない。
「帰ってなかったのかしら一ノ瀬さん?」
一ノ瀬結衣、彼女がなぜか私の心配をしていた。
「いやさー?さっきマイフレンドからきいたんだけど、昨日たっち――バスケ部のエースの雄介に告白されたんっしょ?」
会話の中でカタカナ英語を使われるのはあまりいい感じはしないわね…
それはそうとなぜその話をしているのだろうか。
「どうしてそのことを?」
「えー!なにその反応!襲われたんじゃないの?」
周囲にいた生徒たちからどよめきが走った。
『襲われた!?』
『橘さん彼氏いたのかよ!?』
『うっそだろおい』
『オマエコ○ス』
『『『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』』』
何故か発狂しだす男たち。
「あちゃー、ごめんたっちー。ちょっとスタバいかね?」
「まぁいいけど…」
私はすかさず極道に連絡を入れる。
「なになに?ほんとに彼氏いる系?」
私がスマホにメッセージを打ち込んでいるのを見てそう勘繰ってくる一ノ瀬さん。
「そんなものに興味ないのは知ってるでしょう?」
「そうだよね~、ちな私は彼氏いる系!どやぁ!」
どやりだす一ノ瀬さん。すこし幼く見えて可愛かった。
「それでそれで!そっからどうなったの!!」
スタバのキャラメルフラペチーノ片手にはしゃぐ一ノ瀬さん。
サイズはベンティ、一番大きなサイズだ。
私から見ればただのカロリーの爆弾、女の敵だ。
漫画やアニメみたいに食べたものやカロリーが胸に行く…なんてことはない。そんなもの男たちが創り出した幻想だ。だれだって顔やお腹、足や腕に脂肪は蓄積されていく。私は恐ろしくて一ノ瀬さんみたいにできそうにないわ。
私だってそういうところには敏感なのよ。
「どしたん?」
不思議そうに首をかしげる一ノ瀬さん。
私が途中で会話を途切れさせてカロリーについて語っていたのを不思議に思ったらしい。心の中でだけど。
「あーこれ?私カロリーとかあんま気にせんタイプなんよ。だってあんまし脂肪とかつかんし?」
あ、ふーん(察し)。
「なんでそんなかわいそうな目で私をみるん???」
私は昨日の出来事をあらかた一ノ瀬さんに伝えた。
伝えたはいいけど…
「なんそれ!リアル王子様やん!かっこよすぎ!!」
サルみたいに興奮していた。
あ、言葉が良くないわね。
おサルさんのように興奮していた。
「なんも変わっとらんわい!」
厳しいツッコミが飛んできた!
「それで、今日の告白はどないやったん?」
口調がバラバラね…
「それが差し出し人が胡桃沢さんだったのよ…」
「え?胡桃沢さんってあの胡桃沢さん?」
「えぇ、あの胡桃沢さんよ」
「あちゃー」
顔に手のひらをペシッっとする一ノ瀬さん。
そこからすかさず頭を後ろに倒す。
素晴らしいコンボだった。
「絶対目つけられてんじゃん」
「やっぱりそうよね…」
「そういやたっちーは知らないんだっけ?」
「なにがかしら?」
今度は私が首をかしげる。
「そうだよねーまだこっちきて早いもんねー」
「そうだけど…」
一ノ瀬さんは手をクイクイとして私の耳を招く。
「たっちーは「非公式天音海翔ファンクラブ」ってしってる?」
「「非公式天音海翔ファンクラブ」?」
文字通り彼のファンクラブなのかしら?
「そうなのよ、しかもその会員数は数百にも及ぶとか…」
校内の女子ってそんなにいないんじゃないのかしら?
「ところがどっこい、学校外にもいるんですよね…」
なにそれすごい。
「そしてそのトップが胡桃沢琥珀ってわけ」
はーん、話が見えてきたわね。
「そう、「非公式天音海翔ファンクラブ」がたっちーの存在を鬱陶しく思ってきたということでしょうね」
やっぱり…
「けど彼はその組織のことを知らないのかしら?」
一ノ瀬さんは神妙な面持ちでうなずく。
「彼には伏せられてるわ。彼ものすごいイケメンじゃない?」
「そうね…顔はいいわね」
「顔はって…。それでね、彼はそのことを自覚していないの。無自覚イケメンってやつよ」
無自覚イケメン?そんなことが現実でありうるのだろうか?
「なんでも昔何かしらの事があって自分の容姿に自信を無くしたらしいのよ。噂によると中学では根暗陰キャだったとか…」
彼が根暗陰キャ…ちょっと想像がつかないわね。
「それもあって「非公式天音海翔ファンクラブ」の会員のみんなは彼にイケメンという自覚を持たせないように接しているわけよ」
「けどそれになんのメリットがあって…」
「それは胡桃沢さんたちとかしかわかんないんじゃない?」
「ちなみに一ノ瀬さんはそれに入ってるのかしら?」
「どっちでしょーか!」
二ヒヒと笑う一ノ瀬さん。
完全に遊ばれているわね。
「それはさておき…どうすんの?」
「どうしましょうかね…」
私達が今議題にしているのはもちろん、彼との今後について。
「毎日お昼食べるとか約束しちゃったのよね…」
「えぇ!?」
そう、天音…げふんげふん。下僕に提案されたのだ。『よかったら俺と弁当これからも食う?』と。なぜかと聞いても返ってきたのは『うーん、そっちの方がなんかいい気がする』彼にしては少しらしくない言葉だった気がするが一応曖昧だがYESと返事をしておいたのだ。
「でも彼からの接触はいいんでしょ?」
「そういう結論になったわ」
「じゃあいいじゃん!」
軽い答えだった。
「そうね、そうよね。そういうことになってるものね。」
そして私も適当になる。
早くしないと物語が進まないのだ。
「そうだよねー…やっべ、バイトの時間だった!ごめん帰る!」
そういってトコトコと走っていった一ノ瀬さん。
現在の時刻をスマホで確認すれば17時過ぎ。
私は極道に連絡を飛ばして送ってもらうことにした。
「色々あったわね…」
私は帰りの車が来るまでキャラメルフラペチーノのベンティサイズをすするのだった。
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