第13話 夢見るシンデレラ

私に告白してきてそれを断ったら逆上してきてそれを助けてくれたちょっと頭のおかしな彼にあったその翌日。

私は自宅の車で学校に向かっていた。


「ねぇ極道、王子様っていると思う?」


「!?!?!?!?!?」


言った私がびっくりするほど驚く極道。

知ってると思うけど私のボディーガード兼運転手のガタイがとっても大きいスキンヘッドの男のことね。


「どうしてそんなに驚いてるのかしら?」


「いえ、お嬢が夢見るシンデレラのように見えまして…」


「それの何がおかしいの?」


「普段の行いを見ている私としてはとても…」


こいつクビにされたいのかしら?


「クビにするなんてやめてください…」


「なんで地の文を読むのよ…」


「それにしても突然どうしたんですか?」


どうした…ねぇ…

私は昨日あった一連の流れを極道に説明した。


「お嬢、カチコミに行きますので名前を教えてください!」


「あなた本当にヤクザじゃないのよね???」


暴走しかける極道を落ち着かせる私。

主人にたしなめられる使用人とはこれ如何に。

このままじゃ聞きたいことを聞く前に学校についてしまうわ。


「結局王子様はいるのかしら?」


「いるんじゃないでしょうか?王子様に会ったからそう思っているんでしょう?俺は男なんでそういうのはよくわかんなないですが」


彼が王子様…ね…

まぁ?顔はめちゃくちゃかっこよかったけど、顔なんて結局顔なのよ。

中身が伴ってなければいけないのよ。


あいつ中身もめちゃくちゃかっこよくなかったっけ???

き、気のせいよ気のせい。



「それと極道、どうやって食事に誘えばいいのかしら?」


「ほんとに今日どうしたんですか???」




そんなこんなで学校についた。

車のドアを当然の様に開けた極道にいつもどうり礼を言う。


「そんなことしなくてもいいのに…いつもありがと」


「いえ、俺はこういうのでお金貰ってるんで」


そうね、と勝手に納得。

学校にボディーガードなんて連れていけないから極道とはここでお別れ。

まだ転校してきてから数日と言うこともあり私には友達と呼べる人が片手で数えるほどしかいない。だから極道と別れるのはちょっと寂しかったりする。


「突然ツンデレになったり、ほんと大変ですねお嬢」


「うるさいわね、これを書いてる作者にいいなさい」


とまぁ、そんな軽口をはさみつつ今度こそ校舎の中に入る。


「相変わらずねほんっと…」


私に向けられる視線の数々。

男子からの好意の視線、下劣な視線。

女子からの好奇の視線、嫉妬の視線。

人生ハードモードすぎないかしら私。


すると当然女子の悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。

気になって女子の視線の先に目を向ける。


・・・・・


彼がいた。

昨日助けてくれた彼が。

めちゃくちゃ可愛い女子と一緒に登校していた。


横にいる女子は天使にも似たような笑顔を浮かべ彼にベッタリ。

満更でもなさそうな彼。

胸の奥底からふつふつと何かが込み上げてきた。


(なによ…あんなにでれでれしちゃって…)


私はなぜかその場から逃げた。






みなさんこんにちは、橘です。

どうやら彼、天音海翔って名前らしいんだけど同じクラスでした。

全然周りに気を配ってなかったから気づかなかったわ。

しかも彼、やっぱりというか案の定というかめちゃくちゃ人気者だわ。

周りに女子やら男子やらがたくさんたむろしている。


今日お礼も兼ねて食事でもどう?って誘おうとしていたのだけど無理そうね。


「なんでそんなに苦虫を嚙み潰したような顔してるん?うちリアルでそんな顔見たの初めて!」


私に声を掛けてきた少女。

ちょっとギャルっぽい雰囲気を孕んだ少女の名前は一ノ瀬結衣さん。

私の片手で数えるほどしかいない友人の一人。


「そうね…人生って上手くいかないことの連続よね…」


「重くない???どうしたん???」


私は一ノ瀬さんを揶揄うのが好きだ。

しかもしっかり『どうした?』と聞くところが彼女の人柄の良さを表している。


「そうね、ある人に食事を誘いたかったんだけど誘えそうにないなと思ってね」


「まじでどうしたん??????」


はてなを二倍浮かべる一ノ瀬さん。

ホントに失礼な人多すぎない??????




時は進んで昼休み。

私は深く絶望していた。


「あぁ…私としたことが弁当を忘れていたなんて…」


そう、弁当を忘れてしまったのだ。

天音くんに私お手製の手作り弁当を渡そうとしていたのにそれすらも忘れてしまっていた。普段忘れ物を全くしないのに珍しいこともあるのね。


「ねぇ、購買ってどこかしら?」


私は一ノ瀬さんにパンを買おうと購買の場所を聞いた。


「そうだね、あそこを右にぐーーっと行ってそれから下にさがって左をビューンって行ったらあるよ!」


「そう、ありがとう」


全く分からなかったわ。

定期テストも全国模試も思いのままのこの私がっ!

勉強が足りないわ。時間をもっと増やすことを検討しようかしら。



私は一ノ瀬さんに言われた通り

右にぐーーっと行き、階段を下りて左にビューンと行った。



しかし悔しいかな、着いてしまった。

先程ちょっと小バカにしてしまった一ノ瀬さんに謝っておこう。


「え、何ここ」


購買に着いた私は目を点にした。

それはなぜか…


「ちょっとどけよ!!」

「あ、それ私のよ!!」

「デブは引っ込んでろ!!」

「オマエコ〇ス」


購買、そこは戦場だった。

血で血を洗うような場所が、そこにはあった。

今私の眼前には名もなき兵士たちが男女関係なく争いを繰り広げている。

男に優が、女に劣もあったもんじゃない。

みんな平等に、全力でパンを争っていた。

私はここで争いに参加するようなキャラ設定をしてるかしら?

いいえ、していないわ。

ここは潔く諦めましょう。


私は名もなき兵士の争いを横目にその場を後にした。




「意地でもパン争奪戦に参加するべきだったかしら…」


思わずそんな言葉が口から飛びだした。

想像以上にお腹が空いたわね。


「しかしどうしましょう、弁当は忘れてくるは購買でパン一つ買えない…まさに踏んだり蹴ったりじゃない」


魔法の言葉を口にする。


「助けてーひーろー」


「ん?呼んだ?」


は?


「いや、『は?』じゃなくて」


「は?」


「もうだめこわれちゃってる」


いや、は?


やばいこわれちゃった。


「お困りのようですねお嬢さん、僕が助けてあげましょうか?」


キラン☆と彼、天音くんがウインクしたところで目が覚めた。

ウインクの感想は微妙に似合ってない。


「まじかウインク似合ってないんかよ」


「あなたエスパー??」


なんだか最初の方と矛盾してる気がするけど私はそんなこと知らない。壮大な後々の伏線とかじゃないから、フラグじゃないからね!


「もうそのやり取りがフラグなんですよ…」


「それで、どうしたのかしら?」


冷静を取り繕う。もう遅いかもしれないけど気にしたら負け。


「お嬢さん、こんなお昼時にどうしてこんな中庭に?」


「それは…」


「ははーん、もしや『私としたことが弁当を忘れてしまったわ!購買に行ってみたけれど戦場みたいで私には無理!どうしよ!』ってとこだろ?」


「そうで合ってるけど微妙にキャラ像が違くて腹立つわね」


「そんな君に提案を!」


彼、こんなキャラだっけ…?違った…よね?


「気にしない気にしない、それで提案だけど俺の弁当食べる?」


「もう地の文と会話が成立していることにはツッコまないわ」


「それで、どうするよ」


「あなたが作ってるの?」


「そうだけど…聞いて驚くなかれ!味の保証はする!主に俺が!」


あなたが保証するのね、それ全く保証されてないじゃない。

言ってることが無茶苦茶よ。


「じゃあお言葉に甘えていただこうかしら」


「それが正しい判断だね、このままだらだらしてても読者さん飽きちゃうしね」


「あぁもうほんといみわかんない」





そんなこんなで一緒に昼食を取ることになった私と天音くん。


「天音くんって心の中で呼ぶなら天音くんって呼んでよ」


「うるさいわね下僕」


「下僕!?!?なぜに!?!?」


いちいちしゃべり方がなんか変。


「それにしてもどうして私を助けてくれたのかしら?下僕」


「とってつけたような下僕!無理して言わなくてもいいのに!」


「いいからさっさといいなさい」


「なんでってそりゃぁ、ラブコメの主人公(自称)ですからご都合主義的な展開もお茶の子さいさいよ」


「なによ『ラブコメの主人公(笑)』って」


「なぜ笑う!?なぜそこを変えた!?一番変えちゃいけないとこ!」


もうだめwwおもしろすぎるww


「おい!草を生やすな草を!お前がボケに回るな!俺が大変なんだよ!」


「お前って呼ばないでほしいんだけど?」


「もしかしてそのためだけの前振りなのか!?策士すぎるだろ!」


このテンポの速さ、これよこれ。


「じゃあ橘って呼ぶけどいいか?」


「下僕の分際で気安くご主人様を呼び捨てだなんていい度胸じゃない?」


「横暴だ!!!」


「それにしてもこの卵焼き美味しいわね」


「話を逸らすなや!!」


ふぅ…もう満足よ。もうお腹いっぱい。

しばらくギャグパート要らないわね。



少しこの距離感が心地よいと思う私と下僕だった。


「だから下僕やめろ!いい感じに〆んな!」


「コンピューター上で見る『〆』ってなんか躍動感があるわね」


「終わるか終わんないのかはっきりしろ!」








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