【幕間】告白の舞台裏、わがままお嬢様の過去
第12話 白馬の王子様はいつも颯爽と現れる
【side/橘抹白】
突然ですが今日、私はある男に告白します。
四月に転校してきて約一か月、私は共学というものに辟易していた。
なぜこうも私が悩まなければいけないのか。
それは私がこの学校に転校してからというもの告白する男が後を絶たないというものだ。そしてなぜ告白するのか、私は告白してきた名も知らない男に聞いた。
「可愛いからです!」
私の容姿はどんなものか。
お母さん譲りの金髪に青の瞳。
周りは私の事を「可愛い」、「美人さんだ」と言う。
正直いって気分は良い。お母さんも褒められているように感じるからだ。
しかし私が可愛いってことに関してはずっと苦労ばかりをしている。
まぁ、それはまた今度でいいか。
お父さんに自分の容姿について聞いたことがある。
「私って可愛い?」
「お前は世界で一番かわいいぞ!お母さんに似て美人さんだからな!」
私はお母さんの姿、形を憶えていない。
私のお母さんはもうこの世にいないからだ。
どうしていないからと言って憶えていないのか。
それは私が忘れてしまったかららしい。
あまりにショックだったのか、お母さんが死んでしまう前までの記憶。
つまりは幼少の頃の記憶が私には無い。
聞いた話によるとお母さんは私が小学校にあがる前、もしくはすぐに死んでしまったとか。
そのことを話してくれたお父さんの横顔は切なそうで、なんだか申し訳なくなる。
元からお母さんは身体が弱かったらしい。
その弱い身体で私を産んでくれたから、
そのまま体調を崩してしまい…
私が産まれなければお母さんは生きていたのかもしれないと思ってしまう。
そんなこと考えてしまうのはお母さんに申し訳ないけれど。
容姿のことはいいだろう。可愛いって想像してくれたらいい。
男は顔がいいと好きになるらしい。
単純な生き物だと思う。
そしてなぜ私が告白に辟易としているのか。
それは私が小中高と女子校に通っていたからだ。
お父さん曰く、その方がいいだろうとのことらしい。
私も今の告白三昧の生活に実際に辟易しているのでお父さんの判断は正しかったのだと思う。
なぜ、共学に転校してきたのか。それもまた今度でいいだろう。
お世辞にも明るい話とは言えないから。
「毎日毎日、よくも飽きもせず告白できるわね…」
「お前も大変そうだなー」
一ミリも私の考えに共感していなさそうな男。私の隣で弁当を食べる顔立ちが恐ろしく整っているこの男。
名は天音海翔。
「一ミリも共感してないでしょ、下僕は私のことをすべて肯定していればいいのよ」
「へいへい」
天音海翔、私はなぜか恥ずかしながらも彼の名前をきちんと呼べないので「下僕」と呼んでいる。たまに「天音くん」と呼んでしまっているときがあるが大抵無意識で、言ってしまったあと恥ずかしさで死にそうになる。どうしてだろうか?
「で、どうだ?今日の俺の弁当は?」
「まぁそうね…普通においしいわよ」
「普通に褒めてくれ、普通に」
どうして彼と私が仲良く昼食を取っているのか。
なぜ私が下僕の作った弁当を食べているのか。
それは私が転校してきて数日後のことだ。
■
転校してきてからというもの私が受けるのは男からの熱烈なアプローチ、女子からの嫉妬にも似た態度。転校してきて数日だというのに私の心は早くも挫けそうだった。
放課後、今日も変わらず知らない男子からの告白。
面倒くさいことこの上ない。
「僕と付き合ってください!」
あぁ…今日も同じような言葉。
一体この数日の内で何度聞いただろうか。
多分ギネス記録狙えるレベルで聞いている。
私に告白してきた男を一瞥する。
顔はまぁ…今までの中で一番いい。
だからなんだという話だけど。
「どうしてか聞いても?」
私も同じように定型文で返事をする。
このくらいは聞いてもいいだろう。
告白を受ける者としての当然の権利だ。
「一目惚れです!橘さんが転校してきて一目見て好きになりました!」
だからどこにどうやって一目惚れしたのかを聞いているんだけれど?
頭の中空っぽなのかしら。
私とあなたの面識はないのだから一目惚れってことは少し考えればわかるでしょうに。一応この学校は進学校なのだけど。
「どこに一目惚れをしたんですか?」
私は苛立ちを隠し、冷静を装う。
別にこの人だけが悪いってわけじゃない。
私に告白してきた全部の男にイラついているだけだ。
だからこれはただの八つ当たりに過ぎないと分かっているつもりだ。
「あなたの可愛らしい容姿に一目惚れしました!」
また顔。可愛い容姿ねぇ…
私って容姿以外の魅力なんてないのだろうか。
褒められているのに悲しくなる。
「そうですか…すみませんが断らせていただきます」
これは最初から決めていたことだ。
彼がどんなことをしてきたところで私の心には響かない。
今の私には男に対して不信感しかないからだ。
当然でしょう?
毎日知らない男に告白される日々。
男が嫌いになるのは至極当然のことだと思うのだけど。
「どうしてですか!」
内心舌打ちする。
知りもしない男の為になぜこうも文字を綴らなければないのか。
はっきり言って面倒、大変だから「はいそうですか」と去ってくれた方が楽なのだけど。
「私があなたと付き合う理由がないからです。たとえあなたが私の事が好きだとしても私はあなたのことか好きじゃありませんから
。」
これで諦めてくれるかしら?
とってもポピュラーな
「一回試しに付き合ってみましょうよ!そうしたら僕のこと好きになるかもしれない――」
「結構です。あなたのために使う時間がもったいない。」
ひどく驚いた顔をしている名も知らない男。
自分の言葉を最後まで言わせてもらえるなんて甘い考えは捨てることね。
「僕はバスケットボール部のエースです!成績もいい。顔も橘さんほどじゃなくても整っていて女子にもモテます!」
「だから?」
「え?」
自分でも驚くような、酷く冷えた声がお腹の底から出てきた。
「だから何って言う話。その話を聞いて
はいそうですね、それなら私と付き合いましょうとなるわけないでしょう?本当に頭空っぽなのね」
さようなら。と言い残してその場を去ろうとする私。
しかしそれはできなかった。
「こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!調子になるなよ!」
絵にかいたような豹変ぶりだった。
ダメ男の典型的な例だった。
しかし例に漏れず私は腕を掴まれ、校舎の壁に押さえつけられた。
振りほどこうにもほどけない。
女と男。こうも力が違うのかと、私は今の状況から目を背けるためにそんなことを考えていた。
「はな…しなさい…!けいさつを…よぶ…わよ…」
胸が押さえつけられて息がしにくい。苦しい。
「今のお前にそんなことできるわけないだろう?最後にもう一度聞くぞ?俺と付き合え」
「お…断りよ…」
「そうかよ…じゃあ分からせるしかないよな?」
そう言って振り上げられう男の右腕。
私は彼を断ったのを後悔しかけた。けど寸前のところでそれを飲み込んだ。
怖い怖い怖い怖い怖い。
暴力なんて振るわれたことない。
一体どのくらいの痛みが、どのくらいの衝撃が、私の体を襲うのだろうか。
彼の振るう右腕がスローモーションかのようにゆっくりと見えた。
人間ピンチの時は周りがゆっくり見えて思考が加速されるとよく聞くがどうやらほんとらしい。
傷が付くならせめて見えないところがいいなとか、やっぱり痛いのは嫌だなとか、断らなかったらよかったなとか、こんなときでも助けてくれる人がいたらなとか。
私は思考が加速される中、色々なことを考え、そして諦めた。
ねぇ…だれか助けてよ…
どうして私ばっかりこんな目にあうのよ…
私が何をしたって言うのよ…
誰かおしえてよ…
「んー、お前は別に何も悪くないと思うぞ?」
は?
誰の声だろうか。
今確かに声が聞こえた。
それに痛みが来ない。
衝撃が来ない。
来るはずだったものが来ない。
「いつまで目つぶってんだよ、ヒーロー様の勇士を目に焼き付けろ?」
聞こえた通りに目を開けた。
最初に見えたのは振るわれた右腕。
しかしその右腕は私の眼前で止まっている。
「そんなに驚くなよな。ヒロインのピンチには絶対に助けに行くってのがラブコメの主人公ってやつだろう?」
言ってることの意味が分からない。
「お、お前なんのようだよ!!」
「うむせぇな、モブの癖にヒロインと主人公のやり取りに横やりを入れるな。読者に嫌われるぞ?人気投票最下位間違いなしだな」
「俺がモブだと!俺はバスケ部のエースだぞ!成績優秀者だぞ!女子にもモテモテなんだぞ!」
たぶん私と彼はおんなじこと思ってる。
「(
私の眼前で止まっていた右腕が無くなり、私の右横に振るわれた。
「どうだ?びっくりしたか?俺が助けたんだぜ」
私の右横でしゃべる男を見る。
その横顔は恐ろしく整っていて、本物のヒーローみたいだった。
横顔からでもわかる彼の瞳には確かな意志が籠っていた。
「とりあえずモブは退場してくれ」
彼がそういうとスッと右腕から放たれる攻撃を避け、そのまま男の後ろに回り込んだ。
「これラブコメなんだわ、戦闘描写とかいらんのよ」
彼はそういうと男の背中を押してそのまま男を倒して見せた。
「暴力は反対派なんでね、おとなしく帰ってください」
そうして彼はそのまま帰るのかと思うと一度倒れこんでいる男に話し掛けに行った。
なにやら一方的に言っているようだ。
しかし二、三言話し終えると男は顔を青白く染めおびえだした。
そのまま彼は男の肩をポンポンと叩く。
男は必死に顔を立てに振っていた。
そうして彼は満足そうな顔を見せると足早に帰っていった。
・・・・・
「え?帰っちゃうの???」
私は倒れこんでいる男を無視して彼を追いかけた。
「ちょっとまってよ!」
「なんだよ、かっこよく去らせてくれよ」
そう言って彼は不貞腐れる。
彼の言っていることが偶によくわからない。
「どうして助けてくれたの?」
彼は少し驚いたような素振りを見せると笑顔で言い放った。
『誰かを助けるのに理由がいるかい?』
かっこいい…
彼はそう言って去っていった…
「いやいやちょっと待ってよ!」
「なんだよ!今のは完全に終わる流れだったろ!」
「お礼をさせて!」
彼は心底面倒くさそうに
「礼はいらない」
・・・・・
「ごめん今のはダサかった」
「そうね…」
沈黙が訪れた。
「とりあえずお礼はいらないから!じゃ!」
彼はそう言って今度こそ足早に去っていった。
#####
しばらく橘さん視点が続くかと…
胡桃沢と主人公のデート編はもうしばらく待っください…
ここらで橘さん可愛い成分を補充しないと
メインヒロインの座が…ね?(メタいメタい)
この話がいいな!おもしろいって思った方は♡と☆、小説のフォローをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます