第10話 癖強ブラコンお姉さん…じゃなくてお姉ちゃん

あれからほんとに色々あった…


四天王を倒して、魔王に仲間たちと戦って。

死闘を潜り抜け、少しの隙に必死に食らいついてもぎ取った勝利。

数々の傷を負いながらも人類のために勝利を捧げた。


そうかと思ったら人類の守護者だと思っていた女神様の突然の裏切り…

まさかのラスボスが女神様だった衝撃で俺たちパーティーは壊滅寸前。

勇者である俺の窮地での真なる力の覚醒。

相棒の聖剣を2つに折りながらも女神様を打倒することに成功した。


「おーい。」


そしてやっと本当に終わったと思っていたら魔王の復活。


再戦かと思っていたらまさかの女神様に操られていた模様。

そんなこんなで魔王側と仲良くなって晴れてハッピーエンド…

これから王女様やら聖女様やらとの結婚。

グへへ……


「おーい!」


「なんだよ!今からいいとこなんだよ!邪魔しないでもらえるか!」


「異世界転生して世界救ってるとこ申し訳ないけど早く帰らない?もう授業終わってるよ」


「あぁ…ほんとだ。あの忌々しい古典の授業が終わってる。」


「海翔は古典に親でも殺されたのか?」


いや古典は誰だって嫌いだろう?

なんで将来使いもしない昔の文章やら文法やら単語やらを勉強しなきゃならんのだ。こちとら21世紀に生きるきゃぴきゃぴのDKだぞ?


「DKてwww海翔はドンキーコングだったのかよwww」


「草を生やすな草を。あと相変わらずかっちょいい顔だなおい。俺と変われ」


「海翔の顔と交換できるなら幾らでもお金出すよ?」


こいつ…馬鹿にしやがって…殺すぞ?あぁん!?


「おっと、あんまりこういう会話をするとあのお方に殺されちゃうからね。僕はまだ死にたくない」


「殺されるって…そういや橘も似たような話してたよな。何か知ってるか颯太そうた?」


「僕は知らないなー。全然知らないなー。」


「棒読みサンキュー」


さっきから俺をおちょくってるこいつ。

樹神颯太こだまそうたってイケメン。

樹に神って書いてこだまって読むんだぜ?

ラブコメの主人公か異世界転生系勇者の代表みたいな名前だよな。


しかも見た目は爽やか系イケメン。

派手すぎない茶髪、同性でも一瞬目を奪われそうになる爽やかスマイル。


勝てない。こいつが居るだけで大半の女子はメスと化す。

颯太とは中学からの友達だ。俺が自称根暗陰キャしてた中学時代からのだ。

高校一年からサッカー部のエース。

県選抜にも選ばれた生粋の勝ち組である。


はっきり言おう。俺とは生きる次元が二つくらい違う。

もうこいつが主人公ってことでいいんじゃないかな()


「そんなことないって、海翔は僕の何倍もかっこいい顔してるよ?海翔はイケメンだって」


しかも謙虚。嫌味にしか聞こえないがこの爽やかスマイルと合わさればそんなの嫌味じゃなくなる。ほんとバケモン。


「あ…やべっ…この会話は禁忌だった…」


「んー?どうしたー?」


「ご、ごめん海翔!今日部活あったわ!先帰ってて!」


「おい!ってもういなくなってるし…」


流石サッカー部エース。凄まじい脚力ではるか遠くの彼方へ行ってしまった。


あいつ今日珍しくサッカーないから一緒に帰ろうって朝から言ってたのにな、おかしなやつ。


ん?お前はどうしたって?部活?

んなめんどいもんには入ってないわ。

ラブコメの主人公は入らないのが基本だろ?

じゃあ俺も入んない。



嘘です。何に入ればいいのか分かんなかったんです。

中学の時一瞬サッカー部に入ってたけど先輩からいじめられて辞めました。

小学校からサッカーやってたから中学ではサッカー一択だったんだけどなー。

だから高校ではなんの部活に入ろうか決めれなかったんです。


暗い気まずい過去は忘却の彼方へ消えさせて。

明日は例のあれがあるからあそこに行かなきゃだ。

正直めちゃくちゃ行きたくない。


例のあれがあるからあそこに行くってのはみんなも分かるよな?

そうそう、例のあれがあるからそこに行くんだよ。


なんだよみんな分かってんじゃん。

それじゃあレッツゴー!


いざ教室を出ようってところで背後から声を掛けられた。


「海く~ん、一緒に帰ろ~?」


この癖のあるしゃべり方…間違いない…


「も~海くんってば無視するなんてひどーい。」


胡桃沢じゃねぇか!お昼ぶりだな!

あと無視って言うほど長い間スルーしてなかったけどな??


「よ、よー胡桃沢。ご、ごめんけど一緒に今日は帰れないかなぁ?」


声が裏返ってしまった。

昼の事もあって大分気まずい。行かなきゃいけないとこもあるから一緒に帰れないんだよ。一緒に帰りたかった。

するとスーッと瞳のハイライトが消えていく胡桃沢。


「どうして一緒に帰れないの?」


言えない。これは絶対に言えない。


「んー?ちょっと買い物?お出かけしなきゃならんのよ」


「ふーん。じゃあ仕方ないね?」


お、今回はあっさり許された。


「じゃ、あ、な?」


「そ、そうだね!またね!」


なぜこうも明日に傍点が振られているのか。

ちゃんと読んでくれてるみんなは分かると思うから説明はなしで。









そんなこんなである場所に行くために電車に揺られること数十分。


やってきたのは俺の家から数分のある場所。

まだ午後四時半くらいにも関わらずネオンライトがピカピカと光っている。

他所からみたら完全にやばいお店。

俺は覚悟を決めて中に入る。女神様、俺に力を!


「おじゃましまーす…」


誰もいない店内。電気一つついていない。

静かにファンだけが回る音がする。

めちゃくちゃ怖い。けど店内に誰もいないのは最初から想像がついていた。


「優香お姉さんー?俺だけどいるー?」


瞬間どかどかと階段から降りてくる足音が。

電気はまだついていない。

そして認識外からの突然の攻撃!


「会いたかったかいちゃん!あと私の事は優香お姉ちゃんって言いなさい!」


「わ、悪かったよ優香お姉ちゃん!だからはやく離れてくれ!まだこれからやることあるんだから!」


「あーごめんね海ちゃん。久しぶりに会えたからお姉ちゃん嬉しくって!」


俺は抱きつかれていた。

暑苦しいし胸がでけぇ。


自分の事をお姉ちゃんという女。俺に優香お姉ちゃんと呼ぶように強制する女。

七瀬優香お姉ちゃん。俺の従姉である。


そしてこの趣味の悪いというしかないこの店は…


「優香お姉ちゃん早速だけど――」


「私に言わせて海ちゃん!ごはんにする?お風呂にする?それともわ・た・し?」


何がわ・た・しだよ!

いいからお店の紹介させてくれ!


「冗談だって!そんなに不機嫌な顔しなくてもいいじゃん?せっかくかっこかわいいお顔が台無しだぞっ!髪切ってあげるから、ね?」


そう、ここは美容院である。夕方からネオンライトをピカピカにつける。


「それはありがたいっていうかそのために来てるんだけど、電気つけてくれない?」


「あ、ごめんね海ちゃん!いっつも消しっぱなしだから忘れてた!」


そう言ってどっかにいって電気をつける優香お姉ちゃん。

めちゃまぶしい。

目がぁ、目がぁぁぁ!


「ありがと、それとなんで電気つけてないんだよ。お客さん来ないじゃん」


「そんなこと気にしなくていいよ?ここは海ちゃん専用の美容院だから」


意 味 わ か ら ん 。


「もういいや。髪切ってください」


「任されましたー!」


そうして椅子に座らせられた俺。


「今回はどのような仕上がりを想像されていますか?」


「かっこよく頼んます。一番かっこよく」


「おやおや?海ちゃん明日デートなのか

なー?そうなのかなー?」


そっこーでばれたー。わーい。


「顔面偏差値49の俺でも天使みたいな子の横に立てるくらいかっこよくしてください」


「お姉ちゃんにまっかせなさーい!」


そう言うと優香お姉ちゃんは髪を切っていく。


ちょきちょきちょきと髪を切られている間に少し小話。


俺の顔面偏差値49についてのお話だ。



俺は小学校の時めちゃくちゃモテた。それはもう馬鹿みたいに。

今思えば小学生あるあるの足が速い子がモテる例のやつだったかもしれないけど。

調子に乗った俺は自分がどんだけイケメンだったのか知りたくなった。

自己評価はイケメン。それも学校一番の。

しかし優香お姉ちゃんからの評価は…


「んー…よくて顔面偏差値49ってとこかなぁ…」


俺は雷が落ちてきたってくらいびっくりした。

当時高校生だった優香お姉ちゃんからの評価は49。

今はこんなんだけど小学校のときは絶大な信頼を寄せていた。

今も信頼はめっちゃしているが。

そして優香お姉ちゃんはめちゃくちゃ美人だからそりゃモテた…らしい。

だから俺は絶望した。


「あぁ…俺の顔面偏差値49かぁ…1さえ遠く感じる…」


49。

この数字がまたいい味を出している。

よくも悪くもない。しかし真ん中より1個下。

自分がイケメンだと信じて疑わなかった俺には相当来た。

あぁ…俺はなんて痛い奴なんだ…

そうして恥ずかしくなって髪を長く伸ばし、自信も無くなり中学時代の根暗陰キャが完成された。

そんな従妹のお姉ちゃんの一言でそんなに?って思うだろう。

しかしだな、実はもう一つ裏話がある。



小学校6年。

優香お姉ちゃんに顔面偏差値49宣言をされた少しあと。

当時好きだった女の子。所謂初恋の女の子が俺にはいた。

今は記憶がうっすらしているがめちゃちゃ可愛かった。

その子にも聞いたんだ。俺の顔ってどんくらい?って


めちゃくちゃ痛い奴。思い出すだけでどうにかなりそう。

けど聞きたかった。自分が好きな人からの評価が。

そして開かれた口から発せられた言葉は――


「う~ん…49ってとこ…かな…?」


少し頬を赤くしながら申し訳なさそうにいう彼女。


グハッッ!

思い出すだけでもダメージが!

またしても49おまえかよ!


そのまま告白もできないままその子は引っ越していった。

その忌々しい49のダメージが大きすぎてそのことしか覚えていない。

名前も顔も記憶の奥底である。

一か八かでも告白しておくべきだった。

後悔先に立たずである。





「おわったよー」


お、終わったのか。

すっかり髪を切っていたことを忘れてた。


「んー。我ながらなかなかイケてるんじゃなかろうか姉上?」


鏡越しで見る自分の顔はなかなかイケてるよに見えた。


「んー…これは顔面偏差値69だね。私、頑張った!」


「よっしゃ!これで胡桃沢の横に立っても恥ずかしくない!ありがとうお姉ちゃん!」


「胡桃沢…?うーん…」


「ん?どうした優香お姉ちゃん?」


「ちょっと考え事ー」


「じゃあ俺帰るね!ありがとう!また絶対来る!」


「えーもう帰っちゃうの?ゆっくりお話ししよーよー」


――ガチャ。


「あぁ…いっちゃった。それにしても胡桃沢かー元気にしてるかなーあの子」


天音海翔はまだ知らない。

七瀬優香の顔面偏差値の基準がみんな超イケメンの俳優レベルだってことを。

七瀬優香と初恋のあの子が裏で繋がっていたことも。

すべて当時の彼女らに仕組まれていたということも。

そして七瀬優香の記憶力のなさも。


「うふふ、海ちゃんは私とずっとに一緒にいるんだよ?胡桃沢って子には渡さないから」


そして天音海翔にとんでもない執着心を持っていて、海ちゃんloveであることも…




七瀬優香は誰も居なくなった美容院で不敵に笑った。

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