第8話 修羅場が収まるとどうなる?そう、修羅場が始まる。

はいどうも皆さんこんにちは。いやおはよう?こんばんは?こっちの世界線だとお昼なんでこんにちはにしとく。こんにちはー、どうも俺です!


皆さんの想像通り俺、死にました。

今は昼休み中です。

俺は今、現在進行形で修羅場にあっています。

今の俺の状況をかるーく説明しよう。


俺、中庭にて自作の弁当を開封中。弁当の中には昨日の夕飯の残りのハンバーグが入っている。美味しそうだ。


そして俺の横にいるのは橘。

手に持っているのは俺が作った弁当が…

別に奪われたとかじゃないぞ?

橘専用の弁当だ。

流石のわがままお嬢様でも人の弁当を取るようなことしない。

俺と橘との二人で現在三人掛けのベンチに座っている。

俺が右端。橘が俺の左真横である。


もう一度説明する。俺が右端。橘が俺の左真横である。

いや、距離近すぎぃ!

そんなピタってくっつかんでええやん。


そして俺たちを真正面から仁王立ちでぶーっとした表情で見ている美少女が…

お察しの通り、胡桃沢である。

なにやら怒り心頭といった様子。

天音海翔氏、なにか心当たりは?


心当たりしかありません、えぇ…


そしてここ中庭でランチをしようとしている学生さんたちが周りにはたくさん。

みんな好奇の目やら、男子からはかなりの殺意を感じる視線を浴びせられている。

みんな何が起こっているのか気になっている様子。

ラブコメの主人公(自称)と美少女二人。

なにも起こらないはずがないよね。


「あら、胡桃沢さんこんにちは。今私と下僕は一緒にお弁当を食べていますの…所謂ランチタイム中ですの、邪魔ですわ」


相変わらずどこか棘のある言い方だ。そんなに煽らないでいただきたいものである。一緒にいる俺としては肝が冷や冷やなんだよ。


「え~橘さん、ちょっと何言ってるかわかんないよ~。それと海くんは私のものだよ~?」


スーっと目を細める胡桃沢。瞳のハイライトは当然のように消えている。

とてもデジャヴを感じる。ていうかデジャヴ感じすぎなんだよなぁ。


あと俺誰のものでもないからね???

俺って人権保有してるよね???


そしてここで突然、橘が言わなくていいことを言ってくれた。


「あら、天音くん…じゃなかった。下僕は私のものよ?だって私達、付き合っているから」


「は?」


「え?」


「「「「「「はい?」」」」」」


爆弾投下。

しゅー、どっかーん。


中庭にいた俺が、胡桃沢が、生徒たちが、偶然通りかかった先生が、みんなが固まった。

まるで世界の歯車が止まったように。

ザ・ワールドである。


一方でパクパクと俺の真横で弁当を食べる橘。


弁当を食べている橘以外で最初に動いたのは俺だった。


「ということなんだ胡桃沢…けど安心してくれ―――」

利害の一致ってやつだ。と声を上げようとしたがその声はかき消された。



「え?嘘だよ。嘘だよね海くん?嘘に決まってるよね。海くんが橘さんと付き合っているの?意味がわかんないよ。海くんは私のもので。私は海くんのものなんだから。これは嘘これは嘘これは嘘これは嘘これは嘘これは嘘。あぁ、嘘だったんだ!海くんが私以外の人と付き合うなんて考えられないもんね!」


あーこれはまずい。

完全に頭逝っちゃってる。

橘もドン引きしてるし。

橘がえ?って顔してるぞ、そんな顔お嬢様らしくねえ。


もちろん周りもドン引きしている。

まぁそうだわな。学園の天使で通ってる胡桃沢の突然の豹変っぷり。

普段の天使そのものの胡桃沢を見ていたらその反応が正しい。

完全に俺が悪い…んだよな?どうすりゃいいんだよー


「一回落ち着けって胡桃沢。俺の話を聞いてくれ」


「落ち着くって私は落ち着いているよ?海くん。海くんこそ落ち着いたら?」


駄目だこりゃ。

これがいわゆるヤンデレ…メンヘラなのか?

違いがパッと出てこない。どう対処すればいい。

俺は天音海翔脳内ネットワークを張り巡らせる。

検索エンジンは天下のGo〇gle様。

〇の意味がなくね?っていうツッコミは今はスルー。


検索内容

「ヤンデレ 落ち着かせ方 即効 」


ふむふむ…


むずくね?難易度高杉なんだが。

俺がやっていいことじゃない。今の俺がやったら確実に橘に殺される。

彼女持ちがやる事じゃない。けど、今の胡桃沢は見てられない。

やるしかないんだ…俺が胡桃沢を救ってみせるッ!


「橘…許してくれとは言わない。けど俺には胡桃沢を救わなければならない理由がある。」


「あなた…何をする気?」


「安心しろ、お前はちょっと嫌な気持ちになるかもだけどそれだけだ。俺とお前は偽の恋人。そうだろ?」


「…そうね。あなたが何をしても許すわ。だから胡桃沢さんを助けてあげて。このままじゃあなたの作ってくれた弁当が美味しくなくなるわ」


こいつ、今デレたのかッ!

自然すぎるデレ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


俺は立ち上がると虚無の目。光の消えた瞳をした胡桃沢に抱き着いた。


「「「「え?」」」」


俺はそのまま胡桃沢のフワフワサラサラな亜麻色の髪を撫でる。

とても気持ちいい。


「胡桃沢、俺の目を見ろ。」


基本的に胡桃沢は素直だ。だから今回も素直に俺の目を見てくれた。

俺も光の消えた琥珀色の瞳を見る。


「胡桃沢、息をゆっくりと吸うんだ。吸ってー吐いてー。吸ってー吐いてー。」


息をゆっくりと吸う胡桃沢。

大きく息を吸うとどうなるだろうか?


そうだ、胸が膨らむな。勘のいいみんななら察したと思うが、胡桃沢の胸が押し付けられて、離れて…。焦らしプレイでしかない。しかも胡桃沢、いい感じの大きさである(キモすぎる)。正直いってめっちゃくっちゃ気持ちがいい。


おっといけない。違うところに意識が逝ってしまうとこだった。

俺の脳内では純白の翼が生えた胡桃沢が見えた。

胡桃沢が慈愛の笑みを浮かべて俺に川越しに手招きしていた。

完全に三途の川ってやつが見えてた。



しかしまぁ、この修羅場みたいな状況の中じゃ完全に場違いだ。

俺は意識を強く保つために胡桃沢を抱きしめる腕にさらに力を籠める。


「なにさらっと腕に力入れてんのよ下僕。」


「胡桃沢、よく聞いてくれ。俺と橘は本当の恋人じゃない。」


胡桃沢は何が何だか分からないといった様子で首をかしげている。

可愛い。


「胡桃沢も男によく告白されているから分かると思うんだが、橘は単純に男避けが欲しかっただけらしいんだ。そこでどうして俺になるんだって俺も思ったんだが仕方ないと割り切って協力することにしたんだ。」


「そ、そうなの…?」


半分驚き。もう半分は俺に対する信頼ってところか。


「あぁ…だから俺は誰のものでもないんだ。そもそも俺を物みたいに扱わないでほしいがな!」


胡桃沢の瞳に光が灯っていく。

やっぱり胡桃沢はこうでなくっちゃな。

納得してもらえただろうか?


「けど、私に嘘をついていたってことだよね?」


「あっ…」


バレてしまった。


「橘さんと一緒に今日一緒に登校してきたんだよね?」


「いや、あのっ、ちがくて…」


「ふ~ん、海くん私に嘘つくんだ…」


再び目がスーっと。

いたちごっこである。

雰囲気も暗くなったような、これじゃなるで癒しの風を纏いし美少女なんかじゃない。ただのヤンデレだ。


「胡桃沢さん、天音くん――じゃなかった下種が嘘をついていたのは完全に下種が悪いわ」


橘さんからの当たりが強い。天音くんから下僕ではなく下種にランクダウンしてしまった。なんとなく機嫌も悪いようにも見える。


「当り前じゃん、海くん。私に嘘なんかつかないって思ってたのに」


俺にはどうやら味方がいないらしい。完全に四面楚歌である。


「これにはマリアナ海溝よりも深い訳があって…」


「海くん?」


「は、はい!」


「私のこと嫌い?」


「そんなわけないだろ!!」


「へっ?」


「っ!」


「あっ…」


終った…




それは突然紡がれる。

終わりの始まりの言葉だった。

いつだって物語は思うようには進まない――


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