第7話 天使、時々小悪魔
それは学園の天使、癒しの風を纏いし天使、小悪魔系天使…などなど、数々の名を冠する少女。当然のことながら胡桃沢琥珀という少女、この名達に負けない美少女である。あの橘抹白というわがままお嬢様に張り合うレベルの。美少女だから天使などと言われるのだが、それは所詮『鶏が先か卵が先か』と似たようなものである。個人的に鶏が先だと思っている。関係なかった。
亜麻色の髪。クルっとした大きな琥珀色の瞳は全てを見通すような――けど心を洗い清めてくれる気さえする。そして穢れを知らない雪のような白い肌。(変な意味じゃないからな!?)
街中に一足出るだけでアイドルグループやら読モなどにスカウトされるとか…。
そんな逸話すら存在する美少女。
俺もこの目で見るまでは、このレベルの美少女はラノベとかアニメとかラブコメにしか存在しないものと思っていた。いや存在しないな。胸を張って断言できる。
橘抹白をラノベ風に例えると侯爵令嬢だろうか。
金持ちだし、わがままだし、金髪だし。
的は射ているだろう?
一方胡桃沢琥珀、こちらをラノベ風に例えるなら勇者パーティーの聖女さまだろうか?近くにいるだけで癒してくれそうな気がする。そういうユルフワな雰囲気が出ている。(癒しの風を纏いし天使と言う名の所以はここにある。)
と、名も知らない誰かに胡桃沢琥珀の紹介をしたところで本編に移ろう。
ゴホンッ、ゴホンッ。
あ~、やっぱり堅っくるしいしゃべり方は俺にはあわねぇな。
読んでてイライラするくねぇか?
胡桃沢の紹介をしたところで現実にもどろうや。
脳内で説明するのもいいんだけどさー…なんか、ね?
ということで!
「
橘が謎に駆けて行ったその数秒後、俺は胡桃沢琥珀に背後から声を掛けられていた。にしても「
語り部キラーである。
振り返ると後ろからトコトコとローファーを鳴らして近づてくる胡桃沢。
亜麻色の髪をワサワサと揺らしながら天使のような笑顔で駆け寄って来る姿に俺は心をいともたやすく奪われてしまった。
まったくもってチョロインである。
「海くん!一緒に登校するって言ってたのに!私、海くんが来るの駅で待ってたのに~!」
なんと!完全に忘れていた!朝色々ありすぎてすっかりと抜け落ちてしまっていた…こんな美少女を駅で待たせるとはぁ、いい度胸じゃねぇか天音海翔くんよぉ?しかもその胡桃沢の様子だといつも一緒に登校してるみたいじゃねぇか?
そうだよ!いつも一緒に登校させていただいてますよ!すみませんね!!
と、いつものように俺と俺の頭の中に存在するもう一人の俺とで芝居と洒落込んでいると、胡桃沢が頬をぷっくりと膨らませていた。
やだ、可愛すぎるよこの子。橘とはまた別ベクトルで可愛いなぁ。
「も~~~!」
可愛い声まで上げてらっしゃる。
あなたが天使でしたか!僕をお空に連れてって!
しかしまぁ、悪いのは100パー俺である。
異論は認めん。
連絡を途中からでも入れるべきだった。
「ごめん胡桃沢!朝色々あって忘れてたんだ!」
「色々って何かあったの?」
全く持って当然の疑問である。遅れてきた友人に「なんで遅れてきたの?」と聞かれて「ん?寝坊した。」「え、嘘、寝坊!?ありえない!」と、このくらい至極当然の反応である。
しかしまぁ、色々ってなぁ…。
バカ正直に橘が家に襲来してきて一緒に車に乗って登校したなんて気になってる女子に言えるわけがなくて…。いずれバレるって?
そんときゃ、そんときよ。俺は刹那的なんだ。
しかし幸いなことに橘とあんなことやこんなことをしていたのはバレていない――はず…。
ここは誤魔化す一択!
「実はちょっと弁当作るのに時間かかって
さ~ははは!」
ペテン師もびっくりの言い訳。しかしこの言い訳、こと俺に関していえば説得力が抜群なのだ。なにせ俺はいつも日ごろから弁当を作っているからな!ラブコメの主人公を目指すものとして、料理は基本中の基本であろう?
上手く誤魔化せたな。確かな確信が俺の頬を緩ませる。
と、勝利に酔いしれるのもつかの間。
胡桃沢の目がスーッとなっていき、きれいな琥珀色の瞳から光が消えた。瞳のハイライトが消えたのだ。先ほどまでの天使のような笑顔も顔から消えてしまっている。
あれ?ちょっと怖いね?そんな顔君には似合わないっすよ!
「海くん、私に嘘つくの?」
そう言って俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「嘘なんかつかないって」
「本当のこと言って、海くん。海くんってば嘘をつくとき目合わせてくれないんだよ?右の眉もピクピクしてたよ?海くんが嘘をつくときはいっつもそう。ねぇ、どうして私に嘘なんかつくの?私のこと嫌いなの?」
「あはは…」
やばいだろw
苦笑いしかでてこねぇ。
さっきまでめちゃくちゃ可愛かったのに、今は夫の浮気を問い質す妻みたいになってるって!
しかもなんだよ眉がピクピクしてるって!
おれ嘘つくときそんな癖あんのかよ!なんで俺が知らないこと知ってるんだよ!
「海くん、海くんの癖。私が知らないわけないじゃん。私、海くんのことなんでも知ってるよ?」
さらに目をスーッと細める胡桃沢。
ちなみに言っておくが、俺と橘は高校から出会った。
当り前だろう?こんな美少女知ってたらラブコメなんかに逃げてない。
あぁ…また俺は死にそうになっているのか…。
どうして神は私に試練をお与えになるのですか…。
悟りを開き始めた。
「ごめん胡桃沢。これには深い訳があるんだ…。けど、胡桃沢に伝えるわけにはいけないんだ…。」
「ねぇ、どうしてなの?どうして私には言えないの?」
「そんなの…胡桃沢に嫌われたくないからに決まっているだろうッ!」
「私が海くんのこと嫌いになることなんかないよ?海くんのことなら私、なんでも愛せるもん…」
「えぇ…?。じ、実はさ寝坊しちゃって…。今度の土曜胡桃沢と遊ぶって約束したじゃんか?それがなんだかデートみたいだなぁって、それが楽しみで考えこんじゃって寝られなかったんだ…女々しい男だよな…」
一瞬胡桃沢の謎の発言に気を失いそうになったが、きちんと言えた。
「え?」
すると少し胡桃沢の目が開かれる。
「そんなに楽しみにしてるって知られたらちょっと恥ずかしいじゃんか?だから言えなかったんだ…」
「そ、そうなんだ…」
俺は頭を下げる。
これは本当のことなので嘘はついていない。よって眉もピクピクしてないとおもう。だから本当にそう思ってくれていると、胡桃沢は受け取ってくれただろうか。
少し恥ずかしい気持ちで頬に少し熱がこもっていくのがわかる。
「そ、そんなことなら全然いいよ!むしろ大歓迎!よかった~。てっきり他の女の人と一緒に登校してきたのかと思ってたから!」
ははは…。苦笑いする俺氏。
橘と一緒に登校してきたのはたくさんの人に見られた。
つまり寝坊をしていたという嘘がバレる。死んだな。
精々残り数時間を有意義に過ごそう…
俺は残された時間をかみしめるように、
ゆっくりと胡桃沢と一緒に教室へと入っていった――。
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