第3話 わがままお嬢様、襲来。

結局あの後、そのまま二人で駅まで行って別れた。

あの謎の告白から翌日。またしても俺は憂鬱な気分で学校に向かおうとする。

果たして、クラスメイトにはどうやって説明したものか。

本当に行きたくない。絶対面倒なことになる…

しかし、玄関を開けないことには学校に行けない。

俺は玄関を開け、モンスターの蔓延る学校へ!

いざ冒険の彼方かなたへいざ行かん!



―――そうして俺は一度玄関を閉めた。

きっと今のは見間違いだろう!

さぁもう一度!

いざ冒険の彼方かなたへいざ行かん!


―――俺はもう一度大きな音を立てながら玄関を閉じた。


「なんか黒塗りの高級車が家の前に止まってるんだが!?ははは、きっと見間違えだよ天音海翔!きっと学校へ行くのが嫌すぎて幻覚が見えているんだよな!」


俺は夢かどうかを確認するため頬を抓ってみる。痛い!

即落ち二コマとはこのことなのだろうか?

しかし同時に悟る。己の運命を。


きっと自分はここで死ぬんだと。

思い当たる節はあると言えばあるし、ないと言えばないともいえる。


けれども黒塗りの高級車が絡みそうな出来事フラグに関しては踏んでいなかったと思うのだが。


一体俺は何をしたんだというんだ。

ちょっとラブコメを読みすぎて学園青春物に憧れて、中学までの根暗な自分を心機一転させ高校デビューを無事成功させただけだろう。

努力だってもちろんした。

そして気になる人(もちろん橘じゃないが)ができたと思ったらちょっと外国人みたいなバカみたいに可愛い奴が転校してきてそれから…まぁ、うん。


橘はそこらのモデルですらかすんでしまうような外見をしていた。

学校には不幸か幸か、カーストというものが確かに存在する。

俺は高校デビューを無事に成功させたとはいえ、元をたどれば根暗陰キャだ。

生来の生粋の陰キャにはどうしても勝てない。だから別に橘が転校してきたときはたいして気にしてなかったんだ。あれはカースト最上位の人間だ。俺が関わることは万に一つもないと。

それがあんな風になるなんて…自分から関わっておいてだがあんまりだ。


場面を戻そうと思う。

必死に現実から目を背けようとしたが無理でした。はい。


玄関の先にあるのは黒塗りの高級車。

今何時なのかとスマホで確認しようとすると――『ピロン♪』と

一件の連絡が送られてきたことを知らせる電子音が鳴った。


なにかなと送り主の名前を見て軽く絶望するとともに、ようやくこの状況が腑に落ちた。


送り主の名前は『抹白』だった。

なんとも素っ気ない。していう俺も『海翔』と登録してあるのだが。

パリピみたいな『KAITO』的なノリの名前は無理です。

あと「この出会いのすべてに感謝を!(ドン!)」みたいなステメもしていない。あのノリが許されるのは中学生までだ。


昨日橘と連絡を交換していたんだった。完全に忘れていた。

ラブコメとしてそこの場面を描写しないのは些かどうかと思うが、それはそれである。


メッセージを確認すると『待っているわよ。』と一言。


スタンプの一つもありはしない。これが初めてのカップル(もちろん偽の)がする初めての会話なのか?いや、会話というのかすら怪しいけれども。

ちょっとだけ偽物説も疑っていたのだがこのメッセージを見る限り十中八九本物だろう。こんな無機質なメッセージを送るのは橘くらいだろう。

最後の句読点がなんとも言えない良い味を出している。


クソが!!

俺は内心で力の限りで舌打ちをする。


俺は意を決して玄関を開ける。もうどうにでもなれ!と半ばヤケクソに。

最初に飛び込んできたのは黒塗りの高級車


―——ではなく、金色の美しい髪の毛先を指で少し遊ばせながら待つ橘だった。は?


「なぜそこにいる!?」


思わず口から言葉がでた。本当になぜ玄関前に橘がいるんだ!?

意味が分からない、それにそもそもなぜ俺の家を知っているんだ!?

きっと忘れているうちに教えていたんだな。

そうだよ、そうに決まっている!!


「あぁ、家を知っているのは当然でしょう?調べたから知っているに決まっているじゃない。」


調べた!?当然!?さっきから『!?』が大渋滞だよ!

しかし本当に橘が俺のストーカーだったとは…伏線回収っと。


「殺されたいのかしら?」


無表情でそう言う橘。

天使のような雰囲気から繰り出される物騒すぎる一言。

笑ってすらいないのになぜ天使と錯覚してしまったんだ!?

天音海翔、不思議で夜も眠れそうにありません。


しかし、そんな事できるのかと思ったが黒塗りの高級車を用意する時点で察するとは思うが、橘の家はとんでもない大金持ちだとか。お嬢様の2つ名は伊達じゃない。

顔もよくて金もある。おまけに成績も良いときた。

神様さんよぉ、二物以上与えてませんかね?調整ミスってますって!

来世は俺も期待しとく!

それでチャラで!


閑話休題。


「橘、これは一体どういうことなんだよ?」


橘は不思議そうに首を傾げた。いちいちちょっと顔がいいのがむかつくが、不快感はそうでもない。

しかし橘はこっちの気も知らずに、


「私達って付き合っているわよね?」


「まぁ、形式上はそうなってしまったね」


「形式上って…けどまぁ、彼氏彼女が一緒に登校するのは何か変なことがある?」


「ぜんぜん」


「じゃあ問題ないじゃない。」


「問題しかねぇよ!」


危うく橘の口車に乗せられそうになってしまった。

しかし橘の顔を見る限り、本心からそう言っているようだった。

誰か助けて、このお嬢様ポンコツすぎるよ…

どこに黒塗りの高級車で一緒に登校するカップルがいるんだ…


「とりあえず車に乗るわよ。」


「え、ちょっと待てよ!」


「何よ、しつこいわね。早くしないと学校に遅れるわよ。」


オーケー俺。想像しろ。


黒塗りの高級車で橘と一緒に登校してみろ、えらいことになるのは目に見えているだろ?どうにかしてこの出来事イベントを回避しなければ俺の学園ライフが死ぬ!(なお、もう手遅れな模様)

「早く行わよ!」「ちょっと待って!」というくだらない押し問答を続けること数分、それは突然やってきた。


「いつまでやっているんですかな?」


その声はえらくドスが利いていて、びくりとした俺は橘から視線を外すと、橘の背後にピチピチの黒スーツを着て今にもはちきれそうな恰好をしている大男がいた。スキンヘッドに黒のサングラス。怖い、怖すぎる。


すると黒スーツの大男は俺を見つけたのか俺に目を合わせた。

背中から嫌な予感が襲ってきた。


気が付くと俺は橘を腕に抱き、黒スーツの大男から距離を取っていた。


橘の口から「きゃっ!」っと可愛い声がしたが今はそれどころじゃない。


「お前、誰だよ?」


俺は震える足元を必死に隠しながら黒スーツの大男に問う。


「お前、お嬢の彼氏だな?俺の名前は極道龍ごくどうりゅう——」


名前からしてやばそうだ。俺はポケットに入れてあるスマホを取り出し警察の連絡をしようとしていると…


「——お嬢の運転手兼ボディーガードだ。」


「は?」


間抜けな声が出た。橘に視線をやると、何故か頬を赤らめながらこくりとうなずいた。


「なんだよ…心配して損したじゃねぇかよ…ほんとによかったわ…」


俺は安堵の溜め息と共に言葉を零していると、


「安心しているところ悪いが、いつまでお嬢を抱きしめているつもりだ、何様のつもりだよあぁん?」


彼氏様ですが何か?とツッコもうとして――今の自分の状況に気づいた。


俺は念のためというか、そうあってほしくないなーと思い、自分の胸を見るために視線を下げる。

視線が捉えるのは頬を染めながらもどこか嬉しそうにしている橘。


いやーやっぱ橘も女の子なんだな!良い匂いするし、野郎とは違って体も柔らかい、しかもとんでもない美少女ときた!


俺は今の役得ともいえる状況をかみしめるように橘を抱きしめている腕にさらに力を込めようとして――


「おい、あんましふざけんなよ?」


すぐに、開放した。


「なんでお前、照れてすらいねぇんだよ!?しかも今もっと抱きしめようとしてたよなぁ!?」


ふん、舐めてもらっては困るぞ黒スーツの大男改め、極道さんや。

俺はそこらにいる腰抜け系ラブコメの主人公じゃねぇんだよ。

やるときはやる系主人公さ!


「なんとか言えよ!」


「そ、そうよ!」


橘も極道さんに同意するかのように、頬を朱色に染めながら言う。

こんな橘レアだなぁと思いつつ、なんと言おうか?



うーんと刹那の思考を行間に挟めると、


「そうだな強いて言うなら…思ったよりあるのな、橘って。」


「~~~~~っ!!」


顔全体がリンゴのように真っ赤に染まっていく橘。

そして、あっ、やべっ。となる俺。

違うんだ橘!これは誤解なんだと伝えようとしたが――


俺は思いっきり橘に頬ビンタされた。






######

こっからコメディ全開で行きます!

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