№_3 あたしを騙すなんて十年早いわさ

 ー いやーっ、流石さすがですね、お母さん。突然の電話にこんなに冷静に対応できる人って、なかなかいませんよ。お見事です。

 「ほら、隣の町で、6月に詐欺事件あったねかね。村のしょう(人たち)でおっかねーなーってってたんだわ。だから今日の電話、怪しいそ思って、咄嗟とっさに息子の生年月日と名前の漢字聞いてみたんだわ。生年月日と干支が合ってたから一瞬本人かそ思ったけど、名前の漢字が違ってたんだわ。だすけ、これはおらの息子じゃねえ、偽者にせものそ思っただけだわね」


 自宅に、N県警J署の刑事が2人来ていた。さっきからあたしの携帯に何か器具を付けている。2回目の電話が来たら、刑事のOKサインが出てから通話をするよう、繰り返し言われた。

 実は2回目の電話はもう来ていた。1回目の電話と同じ内容だった。何で同じことを2回電話するのか不思議に思ったが、1回目の電話と同じ対応をした。


 『ハアー…佐渡さどへ… 佐渡へーとぉ、草木もなびくヨ…』

 着信音に設定している「佐渡おけさ」とともにあたしの携帯が震えた。

 刑事の顔を見る…まだダメ…もう少し…はいOK!


「もしもし。なーしたね?」

 ー あ、母さん。上司に報告したらこっぴどく叱られたけど、ひとまず今日は現金200万円を何とか工面して、15時までに取引先に支払うよう、指示を受けたんだ。そこで…母さん、今すぐ200万円用意できる?


 イヤホンを耳につけた刑事がメモを見せた。

 『支払いOKで。いつ、どこで、どうやって金を渡すのか、聞いてください』


 「今から農協行って金おろせば、すぐ用意できるわね。いつ、どうやってアンタに渡せば良いんかね?」

 ー そ、それがね、本来はオレが直接受取りに行きたい所だけど、金が届くまで取引先との交渉を長引かせるために、オレはそっちに行けないんだよ。実はもう、オレの部下の「斎藤さいとう」って男が車でそっちに向かってんだわ。悪いけど現金は斎藤君に渡してほしいんだ。良いかな?


 刑事のメモ。『お金を用意して、自宅で待っていると伝えて』

「分かった。そしゃ、これから農協行って金ばおろして、オラで斎藤さん来るのを待ってれば良いんかねや。」


 刑事のメモが再度示される。「斎藤の車と、服装を聞いて」

「その斎藤とかせう(いう)人、どんな格好で、車は何色だね?」

 ー 紺色のスーツ、車はシルバーのアウディ、アウディって言っても分からないだろうね。まあ銀色の車が来たら、斎藤と思って大丈夫」

 刑事がうなずく。私は携帯を切った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る