6.弟君
美玲さんのマンションに到着して、二人して部屋に入る。俺は美玲さんに案内され、お風呂場について行った。
「じゃ、たのむわね。お茶を入れるから、終わったらリビングに来てね」
「はい」
俺は電球を交換する為に浴室に入っていき、照明のカバーを外した後、電球をくるくる回せば簡単に交換できた。
それにしても、ここで美玲さんがシャワー浴びたりしてるのか。
……つい妄想して呆けていると、美玲さんが来た。
「もう終わった?」
声を掛けられハッとして振り返る。
「どうしたの? ぼーっとして。変な事でも考えてたんじゃないでしょうね?」
ニヤリと笑う美玲さん。俺をからかっているときの顔だな。
「はい、好きな人がここで裸になっているかと思うとちょっとドキドキしました」
「ばかなこと言ってないで、はやくリビングに行こ」
美玲さんは俺が好きというと視線を外して下を見るよな。
二人でリビングに行き、並んでソファに座る。俺がお茶を一口すすると、美玲さんは何やらモジモジしている。
「あの、さ……」
「はい?」
「私は今27で、すぐ30になっちゃうよ。それでもいいの?」
「全く問題ありません。美玲さんはすごく綺麗です。俺の好みのど真ん中です。ちょっと小悪魔な性格も、実は面倒見が良くて優しい所も大好きです」
「っ……。でも、あの子みたいに若くて可愛い子の方がいいんじゃない?」
「朱莉は確かに可愛いけど、俺が恋愛感情を持っているのは美玲さんだけです!」
「恋愛感情も無いのにヤってるんだ。なんかひどく無い?」
「それは朱莉も納得しています。美玲さんときちんと付き合う事になったら、もう迫らないって言ってくれています」
「あんなに可愛い子が迫ってくれるのに私を選ぶの? そんなに私がいい?」
「はい!」
「私、きっと重い女だよ?」
「望むところです!」
「信じちゃうよ……?」
美玲さんは俺の袖を少しつまんで軽く引っ張る。俺がその手を握ると、美玲さんは頬を染めて目を閉じ、俺に顔を近づけだした。
ピンポーン! インターホンが鳴る。美玲さんはパチッと目を開けて一旦動きを止める。一瞬の間の後、無視して続けようとしたが……。
ピンポン連打の後に玄関のドアをノックする音。さらには男の声で「姉さんいるんだろー」と聞こえる。
「一維か……、いいところだったのに」
美玲さんはやれやれといった様子で立ち上がり玄関に向かう。美玲さんに続いてリビングに来たのは整った顔立ちの長身の男だった。美玲さんはその男を俺に紹介する。
「私の弟の
「荒川亮です」
俺が名乗ると、弟君はさわやか笑顔で頭を下げる。
「いつも姉がお世話になっています」
さすが美玲さんの弟だ、いい感じの青年だな。
「姉さん、今日は俺と約束あったのにー。夜も泊めてくれるんだよね?」
「分かってるよ! ちょっと気になることがあったから忘れてたけど……」
美玲さんは申し訳なさそうに俺の方を見る。
「亮、ゴメン。今日は一維と約束があったの忘れてた……」
「あっ、気にしないでください。俺、帰りますね」
俺が二人に見送られながら玄関から出ると、なぜか弟君が玄関の外まで出て来た。バタンと玄関のドアが閉まると同時に、小声で凄んできた。
「美玲は俺の物だ。近づくな」
何コイツ、態度変わりすぎじゃない? と、若干引きつつも俺は笑顔で返す。
「……大事なお姉さんだもんね」
「俺達は再婚した親の連れ子同士だ。血が繋がっているわけじゃ無い。俺は美玲の事を姉としてじゃなく女性として好きなんだ」
驚きのあまり俺は口をポカンと開けて「な……」と言葉にならない声を漏らす。
「分かったな?」
弟君の迫力に押されて、俺はマンションから出て行った。
くそ、途中まではいい雰囲気だったのに……。俺はがっくりと肩を落として帰路についたのだった。
* * *
部屋に帰ると朱莉が出迎えてくれた。
「亮君、お帰り」
「朱莉ー! 美玲さんといい感じになったのに、弟君が乱入して来て台無しになったよー」
俺が情けなく朱莉に泣きつくと、優しく抱いて背中をさすってくれた。
「うん、全部聞いてたから知ってるよ」
「あんなイケメンの弟君が美玲さんの事を狙っていたら勝ち目無いよ……」
「まだ振られたわけでもないし、諦めるのは早すぎるよ。一維さんは美玲さんの事を女性として好意を寄せているけど、美玲さんは一維さんの事を弟と見ていて、男性として意識してないよ」
「でも、今夜は美玲さんと同じ屋根の下で過ごすし……」
「心配なの? でも一維さんが美玲さんを無理やりに襲う可能性はかなり低いし、美玲さんの方が迫ることもあり得ないから大丈夫だよ」
俺の頭を撫でながら優しく微笑む朱莉。
「でも……」
煮え切らない態度の俺に、朱莉が俺にねっとりと唇を合せてきた。密着する唇をこじ開け熱い吐息が俺の中に入り込んで頭の中を蕩けさせる。
「こんな時は良くない方へと考えてしまうよね。イイコトして頭の中もすっきりしよ?」
またそんなことを言って……。俺はそんなにチョロい男じゃないんだよ。朱莉の肩に両手を置いて離そうとするも……。
「ふふっ、亮君の、元気いっぱいだね。早く欲しいなぁ」
色っぽく微笑む朱莉に、俺が抗うことなど出来るはずもなかった。
「朱莉ー!!」
予想外のライバルの出現に落ち込んだ俺は、朱莉にたっぷりと慰めてもらうのだった。
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