第19話

「セバスチャン!」


「お嬢様のお好きなケーキをお持ちしました。紅茶もどうぞ」


すっかりヨハン呼びにも慣れたが、たまに執事服を着ている時はセバスチャンと呼ぶようにと頼まれた。わたくしも、楽しくてセバスチャンと呼んでしまう。


「ねぇ、ヨハン」


「今はセバスチャンだろ?」


「そうなんだけど、大事な話があるの。その、わたくし最近身体がおかしくて……」


「なんだと?! 大丈夫なのか? おい! 誰か医師を呼んでくれ!」


ヨハンが、焦っている。まずいわ、このまま飛び出していきそうだ。メアリーが、呆れた様子で止めてくれた。


「奥様、きちんとお話しませんと。旦那様は奥様の事になると見境がないのですから」


「なんだと?! カトリーヌが大事なのは当たり前だろう!」


「まずは、きちんと奥様のお話をお聞きください。あまり騒ぐなら、スチュアートを呼んで強制的に追い出しますわよ」


「……ごめん、カトリーヌ。ちゃんと聞くから教えて?」


「あのね、体調がおかしくてお医者様に見て頂いたら、わたくしのお腹に、赤ちゃんがいるんですって」


「……え?」


ヨハンが、動かない。どうしよう?


「メアリー、ヨハンが動かないわ」


「仕方ありませんね。スチュアートを呼んで参ります」


「ヨハン! ヨハン?!」


「……ごめん、嬉しすぎて固まってた。ほんとに、ここに赤ちゃんいるの?」


「ええ、ヨハンの子よ」


「嬉しい、嬉しすぎるよ……」


ヨハンは泣き出してしまった。そんなに嬉しいのね。わたくしも嬉しくなる。前世の記憶は、今は曖昧だ。こちらに来て、王子に相応しくあろうと努力を重ね、皆に王子の伴侶として相応しいと認めて頂けた。他の王子の婚約者の方と妃教育も受けた。どなたもレベルが高く、勉強になったわ。わたくしが出来る事は称賛して頂けるし、まだまだな部分は、皆が優しく教えて下さった。こんなに学ぶのが楽しかったとは思わなかったわ。今までは、出来ないといけないと強迫観念が付き纏っていたが、今は楽しく学んでいて、とても幸せだ。


ヨハンは、いつも優しくしてくれる。毎日愛の言葉をくれるし、大事にされてるのが分かるからわたくしはどんどん輝いていった。


「旦那様! 大丈夫ですか?」


スチュアートが来たけど、わたくしはヨハンに抱きしめられたままだ。


「入る時はノックしろ」


「申し訳ありません! 何もなければ私は戻ります!」


「問題ない、仕事に戻れ」


「はっ! おい、メアリー! どういう事だ!」


最近、メアリーとスチュアートも仲がいい。メアリーにスチュアートの話をすると、ちょっとだけ顔が赤いのよね。あの2人がくっついたら、最強な気がするわ。


「カトリーヌ、オレ、幸せだよ」


「わたくしも幸せよ。ヨハン、これからもよろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る