第18話
私は、着の身着のまま馬車に乗せられ、国境で捨てられた。セバスチャンも一緒だ。
「さ、もう馬車は用意してあるから行くぞ。カトリーヌ、その服は脱いでくれ。ボロボロにして、森に捨てておく。キャシーはオレがカトリーヌにトドメを刺して戻ってくると思い込んでるから、数日稼げる。明日はルバートとキャシーの結婚式だ。クロード達が出るから、詳細は後日報告してもらう予定だ。ここからはもうゲームじゃない。カトリーヌ、絶対幸せにするからオレと一緒に来てくれ」
「もちろん! 私もヨハン王子を幸せにするわ!」
「……嬉しいな。ありがとうカトリーヌ。それから、オレのことはヨハンと呼んでくれ。たまには、セバスチャンも良いな」
「わかったわ! ヨハン、セバスチャン、これからもよろしくね!」
「さ、お嬢様のお着替えはこちらでしますので、殿方は出て行って下さいな。いくらご結婚されるとは言え、お嬢様の着替えを覗く程無粋ではありませんわよね。ヨハン王子」
「メアリー! メアリーがいてくれて心強いわ!」
「ちっ……、カトリーヌを頼む」
「もちろんでございます」
「メアリー……わたくし幸せだわ」
「お嬢様が幸せで、わたくしも嬉しいですわ。さぁ、また着飾りましょうね。王子ったら、この隠れ家に大量のドレスやアクセサリーを運ばせたんですよ。たくさん着飾って、王子を狙う皆様を牽制しなくては。お嬢様に勝てる訳ないと思わせましょうね」
帝国一の天才と呼ばれたヨハン王子は、表舞台から姿を消していたが、このたび美しい令嬢を連れて帰国された。事故で記憶を失っていた王子を献身的に介抱していた隣国の公爵令嬢は、婚約者に裏切られて自殺しようとしたところを王子に救われ、王子の愛に気がつく。公爵令嬢を、着の身着のまま追放する非道を犯した隣国の王子は、正当な後継者ではない者と結婚して、強引に公爵家を乗っ取った。
この度、王子は助けた令嬢とご結婚なさる。我々は、隣国へ制裁をと叫んだが、令嬢は天使のようなお方で、この国に来てからは幸せしかないから、何もしなくても良いと言う。王子も、令嬢の意思を尊重し、我々に浅慮な事はせず今後この国で過ごす日々を見守って欲しいと仰った。
なんとお優しいお方だ。以前はいつもピリピリされていた王子も、幸せそうな顔をなさっている。そうだ。復讐や制裁など必要ない。我々も王子達を見習い周りに優しく過ごしていこう。
非道な者達は、我々が何もせずとも、いずれ裁きを受けるだろう。
「なんの茶番だよコレ」
「なんだ? 文句あるのかクロード。オレ達の結婚を報じた新聞記事だぞ」
「それはそれは、ご結婚おめでとうございます。お祝い申し上げます。カトリーヌは死んだと思ってた我が国は大騒ぎですよ。特に、キャシーのクッキーのせいで酷い態度をとったものは、ビクビクしています。念のため確認ですけど、この記事にある、非道な者達に俺は入ってませんよね?」
「クロードとルシアンは、ギリギリ入ってないな」
「ギリギリなんですか?!」
「クロードは、カトリーヌと婚約しようとしただろ? ルシアンも、もうちょっとローザの手綱を握ってたらカトリーヌが無駄に傷つく事はなかった」
「有罪の基準低くないですか?!」
「そうか? オレは寛大な男だぞ。アイツらは結局放置してあるからな」
「キャシーは結婚式以来姿を見ませんけどね」
「多分、ルバートに監禁されたな」
「分かってましたよね? 無駄にルバート煽ってたし、紅茶も飲ませてましたし。当主気取りのカトリーヌの父親を潰したのは貴方じゃないんですか?」
「何故かキャシー達の結婚式が終わったらクッキーから惚れ薬の成分が検出できてな、ローザを襲った男がクッキーを食べて依存してたから、ルシアンに伝えて訴えさせた。男もキャシーから依頼されたと吐いたから、もうすぐ公爵家も終わるだろ。危険を感じて逃げようとしたところを、当主を偽って大量の買い物のツケが溜まっていたと商人から訴えられて捕まったらしいぞ。あの女は娼館に逆戻りだが、負債が多すぎるから、どれだけ働けば良いんだろうなぁ? 前みたいに高級娼館なんて無理だろうしな」
「……そのツケのアイデア、貴方の仕込みでしょう?」
「ふん、カンがいいな。金を使い込むとカトリーヌが泣いていたから公爵家の当主ならツケも可能ですと言っただけだ。当主じゃねぇのに勘違いしやがって。自分達の買い物の料金なんだ。自業自得だろ」
「自滅しただけですしね。ルバートも、日に日に目つきがおかしくなってますけど、なんか変なもの与えたりしてないですよね」
「ルバートには何もしてないぞ、カトリーヌを自ら手放してくれたんだ。感謝している」
「……感謝、ねぇ」
「なんだ? クロードにも感謝してるぞ? カトリーヌを使い捨てようとした王家に対する怒りはあるが、クロードが宰相になるのなら我慢してやるかと思うくらいには感謝してるぞ?」
「それは、光栄ですね」
「これで、借りは返せた事にならないか?」
「なりませんね。これから俺はあの無能どもを調教しないといけないんです。王子のお力は、きっと必要になりますからね」
「おやおや、ダラス国の時期宰相様は怖いな」
「ヨハン王子には、負けますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます