第17話
今日は、卒業パーティーだ。私とローザは控室に隠れている。控室は2部屋あり、隣の部屋ではキャシーがヨハン、ルバート、クロード、ルシアンといちゃついている。
「ねぇ、ヨハン、わたくしを帝国に連れて行ってくれるわよね? みんなもついてきてくれるでしょ?」
「公爵家を放っておくわけにはいかないだろ。オレは今までどおりセバスチャンとして、生涯キャシーに仕えるよ」
「えっ……ラブエンド?! まぁいいか。じゃあ、わたくしはルバートと結婚して公爵家を継ぐのね」
「……キャシー……、僕なんかと結婚してくれるのかい?」
「もちろんよ! ルバートも大好きだもの!」
「じゃあ、僕は生涯独身を貫こうかなぁ。ねぇ、たまには遊びに行って良いよね?」
「ええ、ずっと仲良くしましょうね!」
「オレモ、キャシーヲマモルヨ」
ちょ、ルシアン! カタコト過ぎるわよ! ローザはクスクス笑ってるし!
「ルシアンってば、帰ってきたらわたくしから離れないのよ」
ローザが小声でクスリと笑う。良かった、いつものローザだわ。
先ほどローザは泣きながら謝ってくれた。ローザが悪い訳ではないから、気にしないでと言って、以前のような関係に戻れた。嬉しくて、泣いたわ。
ローザとルシアンは、セバスチャンがヨハンだと知っていた。最近知らされて、紅茶の代金として協力しろと言われたらしい。
クロードにバレたからもう良いと開き直って味方を集めたそうだ。ルシアンはローザを助けた恩があるから、協力を得るのは簡単だったと笑ってたわ。
ルバートだけはセバスチャンの正体を知らないらしいけど、そのままキャシーと結婚すれば望み通りだから問題ないわよね。でも、さっきから聞こえるルバートの声、なんだか様子がおかしくないかしら?
「卒業パーティーが始まるよ。婚約者同士で行っておいで。僕たちも後から行くから。主役が遅刻はまずいでしょ?」
「そうね! ルバート、行きましょう」
「……ああ、キャシーをエスコート出来るのは私だけだものね……」
バタン……。
「おふたりが会場に入られました」
「よし、隣の部屋に行くぞ」
…………
「ローザ……! 会いたかった!」
「ルシアン、毎日会っているでしょう?」
「ちょっと、いちゃつくなら後にしてよ。ヨハン王子、これからの流れは予定通りですか?」
「ああ、まずはルシアンとローザが入場する。ローザはずっと姿を見せてなかったからな。注目されるだろう。その騒ぎに乗じて、カトリーヌが入場してキャシーに近づく。ルバートがカトリーヌに危害を加えたりしないように、オレ達は2人のすぐ近くに居るようにするぞ。ルバートが何も反応しなければ、キャシーやルバートをけしかけてカトリーヌに国外追放を宣言させる仕事もあるからな。頼むぞ」
「お任せ下さい。今のルバートはキャシーを取られないか不安で仕方ありませんからね。カトリーヌが現れたら自分達が公爵家を継げない事くらい分かってます。そこを突けば、簡単ですよ」
クロードの笑みが黒い。
「クロードが味方で良かったな」
「その言葉、そっくりお返ししますよ」
こうして、卒業パーティーが始まった。
「キャシー……キャシーは私とずっと一緒にいてくれるよね……」
すっかりおかしな様子の第二王子を、みんな遠巻きに見ている。
「ええ、わたくしはルバートと結婚するでしょ?」
「そうだよね。キャシーは私と結婚して公爵家を継ぐんだよね」
「ええ! みんなで仲良く過ごしましょうね!」
「……みんな?……」
更にルバートの様子がおかしくなってるけど、キャシーは全く気が付いていない。これ、大丈夫かしら?
ルバートに見つかった途端、処刑だ!
とか言われないわよね?
「おい! ローザ様とルシアン様だ!」
「ローザ様! お久しぶりですわ!」
「相変わらず仲がよろしいな。羨ましい」
ローザとルシアンが入場して、注目を集めてくれた。
その間にキャシー達の近くまで行く。場合によっては、悪役令嬢のフリをしなきゃいけないのよね。頑張らなきゃ。
「ローザ……生きてた……、じゃあ、まさか……」
キャシーは、驚き過ぎてるのか私に気がついてない。今のうちに近づこう。
あ、セバスチャンもクロードも居る。大丈夫そうね。
「カトリーヌ、今更キャシーに何の用だ」
おっと、ルバートに先に見つかってしまったわ。
「仲が良さそうでよろしいわね。わたくしだって卒業パーティーくらい出るわよ。何か問題でもあって?」
「キャシーをまた虐めるつもりか」
「わたくし、そんな卑怯な真似しないわ。キャシーがわたくしを虐めているのでしょう?」
「キャシーがそんな事する訳ない」
「酷いわ。婚約者だったわたくしの言葉を信じて下さらないの? 貴方はずっとそう。まぁいいわ。卒業したら、王家からも出ないといけないし、公爵家の跡継ぎはわたくし。キャシーと仲良く暮らしていけばいいわ。平民としてね」
「お姉様酷いわ! 公爵家を継ぐのは王子のルバートよ!」
「どうしてよ?」
「だってわたくしとルバートが結婚するのだもの!」
「でも、公爵家は継げないわ。だって貴方は養女でしょう?」
「酷いわ! そう言っていつもわたくしを虐めて! 怖いわ! ルバート!」
「……キャシー……私達は結婚するんだよね?」
「そうよ! わたくしとルバートが結婚して公爵家を継ぐのよ! ずっとお姉様に縛られていたセバスチャンもわたくしを助けてくれるわ! クロードもね!」
「ルバート王子、正式な公爵家の跡取りはカトリーヌですよ」
「……クロード、どういう事だ」
「カトリーヌがいる限り、キャシーは公爵家を継げません」
クロードが、小声でルバートに囁く。悪い顔してるわぁ。
「なら、どうすれば……」
「貴方は今はまだ王家のお方だ。カトリーヌよりも立場は上です。堂々と排除してしまえばいい。国外追放などいかがですか?」
「そうよ! お姉様なんて国外追放よ!」
キャシーが大声で叫ぶ。嘘でしょ?! みんなびっくりしてるじゃない! クロードが小声で話した意味はあったの?!
「……そうか、キャシーが望むならそれもいいな。処刑するには面倒な罪状がいるしな……」
国外追放だっているわよ! ルバートってば、どうしたのよ!?
「ルバート・ド・クレマンの名において命じる。カトリーヌ、貴様は国外追放だ。今すぐにこの国を出て行け」
「そんな……どうして……」
予定通り。あとでルバートは国王陛下に叱られるだろうけど、名において命じたものは、取り消せない。これだけ証人がいれば尚更だ。
さよなら、ルバート。貴方が誠実なら、違う未来もあったかもね。
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