第15話

「お待たせ! ごめんなさい遅くなって」


久しぶりに着飾ったけど、大丈夫かしら? 鏡を見たかったのに、メアリーに止められたからうまくいってるか分からない。


「「……」」


え? 二人とも無言?! なんで?


「セバスチャン! わたくしどこか変かしら?」


あれ? セバスチャンの顔真っ赤なんだけど? クロードも、固まってるし。どうしたのかしら?


「クロード! セバスチャンが変よ?!」


「カトリーヌ、俺に話しかけないで。近寄らないで。俺まだ死にたくないから」


「なんでわたくしと話したら死ぬのよ」


「言えない。そうだ、俺用事思い出した。すぐ行かないといけないから、セバスチャンと2人でお茶して。カトリーヌ、セバスチャン、またね」


クロードは、逃げるように出て行った。なんなのよ……。


「セバスチャンはお嬢様に見惚れておられますよ。さ、わたくしも仕事があるので失礼しますね。セバスチャンなら2人きりでも問題ないでしょうし」


メアリーも出て行って、固まってるセバスチャンだけが残ったんだけど……セバスチャン、まだ顔が赤いわね。もしかして風邪?!


「なっ……何してるカトリーヌ!」


熱がないかと思って額を触ったんだけど、なんだかあったかい気がする。


「セバスチャン! 熱があるわ! だからこんなに顔が赤いのね。早く休みましょう」


「違う、何もない!」


「うそ、熱いわよ」


「大丈夫だから、ほら座って」


「わかったわ。ねぇ、本当に大丈夫?」


「ああ、問題ない。カトリーヌがあまりに美しくて見惚れただけだ」


……どうしよう、最近セバスチャンはまるで恋人みたいな事言うのよね。ルバートにも、こんな事言われた事ないわ。なんだか私まで顔が熱くなってきた、どうしましょう。


「なんだ? カトリーヌの顔も赤いぞ?」


「……気のせいよ」


「気のせいじゃねぇな」


ひぇえ! セバスチャンと私のおでこがくっついた! 近い、近い。セバスチャンの顔が近いって!!!


「セバスチャン、近いわ」


「カトリーヌに熱がねぇか心配しただけだ」


「……ありがと、熱はないわ」


「ケーキ、食べようぜ」


「ええ、ありがとう」


セバスチャンのケーキは、相変わらず美味しいわ。


「カトリーヌ、クロード様を呼ぶくらい寂しいか?」


「え? クロードは勝手に来てるのよ。まぁ、話相手がいるのは嬉しいけど、別に私が呼んだわけじゃないわ」


「……あのヤロウ」


「ん? 声が小さくて聞こえなかったわ」


「何も言ってねぇよ。それよりケーキ食べようぜ」


「うん!」


「食べさせてやるよ」


へ?! それは恥ずかしい。淑女としてもどうなの?! セバスチャンが絶対怒るやつじゃない!


「セバスチャン、それは……はしたないんじゃないかしら。いつもセバスチャンに叱られるやつよね」


「オレが叱らないんだから良いだろ?」


セバスチャンもそう言うし、今は婚約者とかも居ないし、そもそももうすぐ公爵令嬢でもなくなるなら、これくらいなら良いかしら。


前世と今世の貞操観念が混ざっているからか、あまり大した事ない気がしてしまう。何より、セバスチャンの満面の笑顔を見てると思わず口を開けてしまう。


「やっぱり恥ずかしいわ」


「じゃ、やめるか?」


「……問題ないなら、やめないで欲しいわ。ねぇ、もうすぐ卒業だけど、私はこれからどうなるのかな? 帰ってくるなってお父様に言われたし、クロードが言うように学園での評判は最悪だし……いっそクロードと婚約しちゃえば良いかしら」


さっきも冗談かもしれないけど婚約するって聞かれたしね。公爵家にはもう帰れないわよね。ホントは私が継ぐ筈だったのに。


「カトリーヌ!!!」


ん? セバスチャンの顔が青いわね。どうしたのかしら?


「どうしたの?」


「クロード様と婚約したいのか?」


「いや、別に。他に方法あるならそっちのが良いわ。でもお友達もみんなキャシーの味方で頼れないし、ローザだってあんなに私を嫌ってたでしょ? 私とまともに話してくれるのは、学園ではクロードくらいなのよね」


「カトリーヌは、公爵家を継ぎたいのか?」


「もともと継ぐつもりだったわ。その為に勉強も頑張ってたし。でも、前世の記憶が蘇るとバカバカしくなってきて。なんで私が浮気者のルバートと結婚してまで公爵家に拘ってたか分からなくなってきたの。だってお父様は何もしないのに当主気取りだし、領民だってお父様には媚を売るけど私には不満タラタラ言うし。税を下げろとか、キャシーが言うようにもっと領民を大事にしろとか。キャシーが言ってた病院の支払いの負担を減らすってのあったでしょ? あれ、私の前世であったの。健康保健って言うんだけどね。安くなる分、病院に行っても行かなくても毎月お金がかかっていたのよ。国民全員加入してて、それでようやくお金を賄えるようになるの。キャシーはなんにも説明しなくて甘い事だけ言って。病院が高すぎるわって言うの。その頃は前世の記憶がなかったから、税を上げないと無理としか思えなくて領民に説明会をしたら、キャシーと違ってなんてがめつい姉だって罵られたわ。キャシーが領民にまでクッキーを配ってるわけないから、アレは領民の本心よね。そんな人たちを守ろうと必死になってたのもなんだか悲しくて。もしあの時記憶が戻っていたら、税じゃない、別に保険料を取るんだって説明できたかもしれないけど」


「納得するかはわかんねぇか」


「そうね。結局わたくしが悪いって事になるんじゃないかしら。お母様の血を引くのはわたくしだけだから、頑張らないとってずっと思ってたけど、もうわたくしの手には負えないわ。領民だって大嫌いなわたくしに統治されるより、キャシーの方が良いでしょうよ」


今世の私が、もう良いって叫ぶ。それだけ蔑ろにされてきた。領地の仕事もやって、学園にも通う。カトリーヌに自由は無かった。セバスチャンが居て助けてくれたからなんとかなっていたが、お父様は当主じゃないからって仕事はしないくせに、社交は当主ぶってお義母様を連れて行く。必死で公爵家の評判とお金を守ってるのに、お義母様とキャシーは高いドレスをすぐに買う。領民は、それをわたくしの無駄遣いと言う。


前世の記憶が蘇ったら、何してんの私って思うわ。


「カトリーヌはこの国に未練はねぇのか?」


「ないわね。むしろ、出て行きたいわ。領民にも、お父様にも、お義母様にも、キャシーにも2度と会いたくないわ」


でも、公爵家にはセバスチャンが居る。


「……だけど、セバスチャンと離れるのは嫌だわ」


「オレはカトリーヌからは離れねぇよ。言ったろ? 国外追放されてもついて行くってな」

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