第14話

結局、私は寮から出ない事になった。引きこもり生活は既に1か月経過してだいぶヒマだ。外に出たい。でも、出れない。卒業まであとちょっとなんだけどなぁ。まぁ、行ってもキャシーの味方しかいないから居心地悪いし良いけど。でも、出たい。だけど……。


「いいか、絶対なんとかするから今はおとなしく寮に居ろ! 絶対出るな!」


セバスチャンに、そう言われた。

メアリーもセバスチャンもお仕事があるから、ずっと相手してくれないし、寂しいけど、あの顔のセバスチャンに逆らう勇気はない。


そういえば、セバスチャンにハーレムルートとは何かと聞かれたわ。キャシーが言ってたらしい。やっぱりキャシーも記憶あるのね。でも、愛の果てにはハーレムルートはなかったと思ったけど……。


今回は分からないけど、一般的なハーレムルートは全部の攻略対象と恋仲になるって説明しておいた。


私を訪ねる人は居ないし寮で孤独な日々だと思ってたのに、なぜか毎日のようにクロードが訪ねて来る。


「カトリーヌ、まだ学園来ないの? カトリーヌが来ないと暇なんだけど」


「クロード、どうして毎日訪ねてくるのよ……」


「だって、今の学園めんどくさいんだよ! 帝国の王子が短期留学してきてさ、みーんな彼に夢中。キャシーなんて、追っかけみたいになってる。ルバートほったらかしだよ」


「帝国の王子?」


「そ、ナールス帝国のヨハン王子。あまり表に出てはいなかったけど、かなり優秀だよ。留学してすぐのテストで、全教科満点。俺、一位じゃなかったの初めてだよ」


「クロードより頭良いの?」


「あれは、別格だね。競う気にもならない。金髪で、目もキラキラしてて、女子生徒は夢中だよ。まさに王子様」


……それって、隠しキャラじゃないかしら? キラキラってのも、あってるような?


「クロード様、なぜこちらにいらっしゃるのですか?」


「セバスチャン! おかえりなさい。お仕事終わったの?」


「ただいま戻りました。カトリーヌお嬢様。クロード様と何を語らっておられたのですか?」


「愛を語らってたんだよ」


空気が凍った。なんでよ、私悪くないわよ! クロードも変な嘘つかないでよね!


「……それはそれは、楽しそうでようございました」


全然良かったって顔してない、セバスチャン、怖いってば!


「語らってないから! クロードも変な嘘つかないでよ」


「学園もつまらないしね。今はみんな王子に夢中だから」


「ああ、さっき言ってたヨハン王子?」


「そうそう、すっごく優秀なんだよ。セバスチャンみたいにね」


「セバスチャンは優秀だもの!」


「王子も凄いけどね。頭良いし、運動も出来るしね」


「すごい人みたいね。セバスチャンはヨハン王子を知ってる?」


「いえ、私は使用人ですしお嬢様が居ない学園には行きませんから。クロード様、何が仰りたいんですか?」


「別に。主人を放っておいてセバスチャンこそ何してるの?」


なんなの? 2人の間に火花が散ってる。


「ルシアンも最近変なんだよね。ローザは登校しないし、ルシアンはキャシーと一緒にいる事が増えたし。セバスチャンこそ、僕に頼みがあるんじゃない? ちょうどいいから言ってみなよ」


「ちっ……」


セバスチャン、舌打ちした?!


「お嬢様のお好きなケーキをお持ちしました。メアリーに紅茶を入れて貰いましょう。クロード様もご一緒にいかがですか? お嬢様、せっかくですから着替えましょう。メアリー、お嬢様をお部屋へ」


「かしこまりました、さ、お嬢様参りましょう」


「わかったわ」


…………


「ねぇ、メアリー。なんだか追い出された気がするんだけど」


「内緒話をしたいんでしょう。あの顔のセバスチャンに逆らう勇気、ございますか?」


「ないわ」


「さ、せっかくですからとびきり美しくしましょうね」


「あまり時間がかかるのは良くないんじゃないの?」


「美しいお嬢様を見れば、待ち時間なんて忘れてしまいますわ」


そうなのかしら? でも着飾るのはウキウキするわ。メアリーのヘアメイクは、早くて美しいの。久しぶりに楽しみだわ!


…………


「さて、そんな睨まないで下さいよ。ヨハン王子」


「いつ気がついた?」


「キャシーが言ってました。内緒だけど、僕には教えてあげるってね。半信半疑でしたけど、カトリーヌにべったりのセバスチャンが居ない事が多いから、本当なのかなって思いまして。見た目違いすぎますよ。同じ人と思えません。キャシーは貴方のこと色々話してくれましたよ。クッキー食べるフリしたら、嬉しそうにね。ま、実際は食べてないですけど」


「今はキャシーのクッキーを食べても問題ないぞ。全て安全なものにすり替えてあるからな」


「今は、ですか。やっぱりキャシーのクッキーは何かあったんですね。キャシーばかり優先していた生徒たちが正常に戻っているのも、貴方の仕業ですか? キャシーは、貴方に夢中で気がついていませんが、だいぶキャシーの信奉者は減りましたからね」


「クッキーはキャシーに好意的になる成分が入っていると思われる。だが、成分を調べても何も出ない。出ればこんなまどろっこしい事する訳ないだろ。あのクッキーを食べなかったのはお前くらいだ。ルシアンすら一度食べて、面倒な事になった」


「クッキーをひたすら勧めるから怪しくて、試しにメイドに与えたらメイドがおかしくなってましたしね。食べませんよ。あんなの」


「お前のせいでカトリーヌはメイドに嫌われたと落ち込んでいたんだぞ。要らないなら捨てろ」


「だって、クッキーを食べたら仲良くなれるわ! なんてお花畑な事言うんですよ。どうなるか実験したくなりません?」


「ならねぇよ、ふざけんな」


「怖い怖い。ねぇ、ヨハン王子、キャシーは俺も狙ってますよね? 俺の協力、いりませんか?」


「何が欲しい?」


「帝国の優秀な王子に恩が売れる。最高じゃないですか。欲しいものは今はありません。だから、俺が困ったら助けて下さいね?」


「……ちっ。1回限りだぞ」


「嬉しいですね。では、カトリーヌを下さいと言ったら?」


「潰されたいのか?」


「やはり、貴方の狙いはカトリーヌですか。婚約破棄の時点でおかしかったですしね。キャシーをけしかけたのも貴方ですか?」


「オレは何もしてない。学校を卒業したらルバートにご退場いただく予定だったんだが、キャシーと仲良くいちゃついてたから、ルバートがカトリーヌとの婚約を破棄してキャシーと婚約したいと申し出があったら必ず受理してくれと国王陛下にお願いしただけだ。父親は止めないとは思ってたがあそこまでカトリーヌを馬鹿にするとはな……」


「お願い、ねぇ。国力の違いを考えればほぼ命令ですけどね。父親は当主気取りで夜会に娼婦連れてきてますし、今は公爵家が当主不在ってわかってないんじゃないですか? 婚約者決める決定権もないんですけどね。少なくとも、俺はカトリーヌを狙ったりしませんからご安心下さい。命が惜しいんで」

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