第13話

「兄貴! この忙しい時に呼び出すな!!!」


「お嬢様の前でその口の利き方は何だ?」


「……カトリーヌお嬢様?! ここ使用人部屋ですよ?!」


セバスチャンが、ここなら情報が漏れないからと連れてきたので、私も入るのは初めて。本がいっぱいで、普段から勉強してるのがわかる。やっぱりセバスチャンは凄いわ。


「ごめんなさい、セバスチャンと大事な話があったの」


攻略ルートの説明という、大事な話がね。


「そうですか、お見苦しいところをお見せして失礼致しました。セバスチャンに呼ばれて、仕事の話があるとの事ですが、お嬢様もご一緒ですか?」


「……いや、お嬢様はお部屋にお戻り下さい。予知の件は、わたしから話しておきます」


「わかったわ! ありがとうセバスチャン!」


「……予知?」


「すぐ説明する。お嬢様、また後で」


なんだか追い出された感じがするけど、まぁ良いわ。他に思い出せる事がないか、記憶を絞り出してみましょう。


「お嬢様は部屋に戻られたな。兄貴、さっきの予知発言を聞いたら呼ばれた理由も分かったけど、手短に説明してくれ。キャシーお嬢様を放っておくと、まずいんだ」


「最初に聞く、お前、キャシーお嬢様からクッキー貰ったか?」


「ん? ああ、よくメイドが貰ってるな。主人から下賜されたもんだし問題はないんだろうが、俺は貰ってないぞ。キャシーお嬢様と奥様で大事に作られた物だし、俺に渡すよりもっと渡したい方がいるだろうしな。勧められた事もあるけど、そう言って断ったらご納得頂けたぞ。よほど美味いのかメイドがお嬢様に強請ってたのを見た時は嗜めたけどな」


「クッキーの制作過程、見た事あんのか?!」


「あるけど普通のクッキーだぜ。仕上げは親子2人でするからって追い出されるから、仕上げは見た事ねぇけど」


「そうか、仕上げは2人でか……」


「兄貴、その悪い顔やめろよな。あのクッキー、なんかあんのか? 最近メアリーが出入りしてんのも関係あるだろ。メアリーがやたらみんなに振る舞う紅茶、あれ普通の紅茶じゃねぇよな? 俺も何回か飲んだけど、上等すぎる。商人に試飲を頼まれてるなんて無理のある言い訳してやがったけど、公爵家の使用人が個人的に商人と繋がってるなんて、倫理に反する。他の使用人ならよくある事だが、メアリーに限ってはありえない」


「何故、そう思う」


「兄貴の使用人教育を受けて、あんな事できる訳ねぇ」


「気がついてくれて安心した。メアリーの紅茶はオレの仕込みだ。毒素を抜く。単刀直入に言うと、キャシーお嬢様のクッキーは危険物だ」


「はぁ?! 本気で言ってんのか? 単なるクッキーだし、メイドもよく食べてたぜ」


「ああ、その通り。だけど、メイドはやたらキャシーお嬢様贔屓にならなかったか?」


「……なってるな。最近は落ち着いてきたけど、一時期は異常で、毎日メイドに注意したり、対策立てたりしてた。だから定期連絡遅れがちだった。すまん」


「困ったら連絡しろと言っただろ」


「キャシーお嬢様は、カトリーヌお嬢様を目の敵にしてるからな。俺も兄貴に会うのが、怖くてだな……」


「なんだ? スチュアートもカトリーヌお嬢様が、キャシーお嬢様を虐めていたなんて戯言、信じるのか?」


「信じる訳ねぇだろ! だから、その顔やめてくれ! こうなるから会いたくなかったんだ!!!」


「職務怠慢だな」


「結局怒られるのな! 悪かったよ! とにかくさっきの予知の話聞かせてくれ! 最近キャシーお嬢様も、予知っぽい事言うんだよ! ローザ様と、カトリーヌお嬢様が死ぬなんて不吉過ぎるし、今のところ聞いたのはメイドと俺だけだから、広げないよう止めてるけど、キャシーお嬢様も予知の力があんのか? あの2人、俺らと同じで血は繋がってないはずだろ」


「カトリーヌお嬢様も、死ぬ……? キャシーお嬢様の発言を、全部教えろ。確認だが、スチュアートの雇い主は誰だ?」


「そりゃ、カトリーヌお嬢様だろ。俺はキャシーお嬢様付きだからキャシーお嬢様をサポートするが、優先するのはあくまでカトリーヌお嬢様だ」


「なら、ここからの話は極秘だ。旦那様にも、奥様にも、キャシーお嬢様にも言うな。いいな」


「かしこまりました」


「カトリーヌお嬢様は、予知の力をお持ちだ。だが、なかなかにポンコツでな、滅多に当たらない上に、未来が複数視えるそうだ」


「複数……?」


「ああ、何故かキャシーお嬢様が中心に視えるらしく、キャシーお嬢様が王妃になったり、公爵家を継いだり、クロード様に監禁されたり、ルシアン様と結ばれたりするらしい」


「どれもありえねぇ! 可能性あるの、クロード様に監禁されるぐらいか?! 王妃はあり得ないし、公爵家も継げる訳ない……いや、兄貴が関わればあり得るのか? でも血縁じゃねぇし、カトリーヌ様以外が継ぐとしたら従姉妹のジョン様とかだろ。ルシアン様もローザ様一筋だから恋仲なんてありえない」


「その通りだ。だが、ローザ様は本日亡くなる危険があった。カトリーヌお嬢様の予知と、ルシアン様のご活躍で事なきを得たが、ローザ様は助けたはずのカトリーヌお嬢様を目の敵にするし、キャシーお嬢様のクッキーに執着していてクッキーを食べるなと言ったルシアン様に敵意を向けられていた」


「ローザ様がルシアン様に敵意なんて、想像できないんだが。痴話喧嘩とかじゃなくてか?」


「そんな可愛らしいもんじゃない。クッキー食べるなって言っただけで、キャシーの敵なのって睨みつけておられたんだぞ。間違いなくキャシーお嬢様のクッキーには何かある。キャシーお嬢様に好意的になるし、奥様の事もあるから、娼婦の呪いかと思い調べたが何も出なかった。だが、オレはクッキーが原因だと思っている。メアリーがクッキーをすり替えて、毒素を抜く紅茶を摂取した事でメイドの様子も変わっただろ?」


「ああ、最近はマシになってきた。一時期は、それこそキャシーお嬢様の言う事はなんでも聞いてたぜ。白を黒って言われても喜んで従うレベルで、キャシーお嬢様の方が立場が上だし、俺が指導しても聞かなくて困ってた」


「今後もクッキーは絶対に食べるな。場合によっては似たものを隠し持っておき、すり替えて食べろ」


「わかった。メイドはもう大丈夫なのか?」


「メアリーの報告を聞くと、何人か危険だったようだが、紅茶が思いのほか効くらしい。渡しておくから、もし危険だと思う者がいたら飲ませろ。キャシーお嬢様のクッキーを食べているところを見かけたら、この紅茶を出せ。クッキーを大量に摂取するとキャシーお嬢様に従うようになるが、紅茶を飲むと落ち着くようだ。ローザ様にも効いたし、自分からクッキーを求めなくなれば大丈夫だろう。メアリーにも伝えておいてくれ。それから、キャシーお嬢様の予知について聞かせてくれ」


「頼むから怒らないでくれよ……キャシーお嬢様は、ローザ様とカトリーヌお嬢様が死んで、自分とルシアン様が恋仲になるとか、クロード様が自分に執着してるとか言ってた。王子の婚約者のくせに意味が分からん。ルバート様がいるでしょうと言ったら、ハーレムルートだし問題ないって訳わからない事を言うし。兄貴も狙われてるぞ。やたら兄貴のこと聞きたがるし、明言しないが兄貴の秘密を多分知ってる。カトリーヌお嬢様も知らないのに兄貴が言うわけないし、マジで予知できんのかと思ってたとこだ」


「そんな重要なことはさっさと報告しに来い!」


「ごめん! 言い出したのは最近なんだ。帝国の王子が留学してきて、キャシーお嬢様と恋人になるそうだぞ」


「せっかく婚約破棄させたしじっくりとカトリーヌを捕まえる予定だったのに! どんどん予定を狂わせやがって! そんなにお望みならあのお花畑の恋人になってさっさと話を進めてやる!」


「キャシーお嬢様を絶望に突き落とすつもりか? 頼むから待ってくれよ、どうしようもなくても俺の主人なんだからさ」


「スチュアートの主人はカトリーヌだ」


「……そうでしたね、私は今後どうすればよろしいですか?」


「キャシーお嬢様の予知の内容を詳細に聞き出して報告しろ。隠し事は許さん。意味が分からないと思ってもすべて報告しろ。オレが、どんな態度をとるのかを中心に聞き出せ。お望み通りの王子様になってやるよ」

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