第8話
「ねぇ、カトリーヌ。キャシーを虐めているって本当?」
「ルシアン?! 虐めてる訳ないでしょ?!」
むしろ虐められてるのは私だと思うんだけど?
「そうだよね。カトリーヌはそんな事しないよな」
……やばい。ルシアンもクッキー食べた? あの後、セバスチャンとメアリーに聞いたら、娼婦の人が使う惚れ薬ってのがあるんだって教えてくれた。
多分それをクッキーに入れてるんじゃないかって。惚れ薬って、口にして最初の人に惚れるとかじゃないの? その場に居ない筈のセバスチャンにも食べさせようとするのはなんでよって言ったら、2人とも苦い顔をしてたけど、とにかくクッキーにはキャシーに好意を持つなにかが入ってるんじゃないかって事らしい。
メアリーが、ちょっとずつ薬が抜けるように頑張るって言って、キャシーの所に通ってくれてる。わたくしの世話もあるのに、メアリーにばかり負担をかけて申し訳ないわ。
セバスチャンと、メアリーは絶対にクッキー食べないからって言われて、とっても安心して2人に抱きついたらまたセバスチャンに叱られた。最近セバスチャンに叱られるとドキドキするから困るのよね。
ルシアンもいつもと変わらないわ。お父様や、お友達は分かりやすく無視されるようになったのに。もしかして、ルシアンも甘いものを食べないのかしら?
「ねぇ、ルシアンって甘いもの好き?」
「ん? 好きだよ。クッキーとかチョコとか」
目の前が、真っ暗になる。どうしよう、剣で斬られるのは痛そうで嫌だわ。
「カトリーヌ?! 顔が真っ青だよ? 大丈夫?」
「ルシアン、キャシーからクッキー貰った?」
「ん? ああ、美味かったよ」
終わった……。どうしよう。ルシアンも私のことを憎むようになるのかしら?
「カトリーヌ? カトリーヌ? どうしたんだよ?」
「どうしてそんな心配そうな顔してるの?」
「そんな真っ青な顔してたら心配するに決まってるでしょ! 医務室に行くぞ!」
「ちょっと! ルシアン、そんなことしなくて良いから!!!」
お姫様抱っこ?!
「カトリーヌが元気がないなんておかしい。僕が運ぶから、じっとしてて!」
「まって、まって! こんな事したら変な噂になっちゃうでしょ! わたくしはもう婚約破棄されて評判が最悪だから良いけど、ルシアンに迷惑がかかるわ! 自分で歩けるから!」
「そんなの気にしてる場合じゃないでしょ?! 僕は騎士なんだから、そんな顔した女性を放って置く訳ないじゃないか。僕はしょっちゅう倒れた生徒を運んでるから目立たないよ。いいからおとなしく運ばれて」
ルシアンが、優しい。クッキー食べたのに優しいなんて、嬉しすぎる。
「ほら、目も真っ赤じゃないか。よほど体調が悪いみたいだね。おとなしく僕の言う事聞いて、ちゃんと休むんだよ」
ルシアンは、ずっと優しかった。医務室に運ぶ間も、優しい言葉をかけてくれた。
医務室に着くと、すぐにルシアンがセバスチャンに連絡をしてくれて15分もしないうちにセバスチャンが医務室に駆け込んで来た。
「お嬢様、大丈夫ですか?!」
「セバスチャン……心配かけてごめんなさい。ルシアンが運んでくれたし、大丈夫よ」
「セバスチャンが来たなら安心だね。カトリーヌは急に顔色が悪くなったんだ。多分、僕が不快な質問をしたせいだと思う。申し訳ない」
ルシアンが、私達に頭を下げる。
「お嬢様に、何を言った?」
「セバスチャン、そんなに睨まなくても大丈夫よ! ルシアンは何も悪くないわ!」
「僕が、キャシーを虐めてるのかなんて聞いたから……」
「お嬢様がそんな事する訳ないだろ!」
「そうだよね。分かってたんだ。でも何故か確認しなきゃと思ってしまって……僕は騎士失格だ。カトリーヌがそんな事する訳ないって分かってたのに」
「セバスチャン! ルシアンは、クッキーを食べたのに私に優しくしてくれたの! ルシアンは悪くないわ!」
「……なんですって?」
「食べたって、言ってたわ! ルシアンはすごいのよ! それなのに、わたくしを心配してくれたの!」
「ルシアン様、キャシーお嬢様から頂いたクッキーを召し上がりましたか?」
「さっきから、なんでみんなキャシーのクッキーを気にするの? 食べたよ。1枚だけだけど」
「食べたのは本日が初めてですか?」
「そうだよ」
「カトリーヌお嬢様、たった1枚です。私なら100枚食べてもカトリーヌお嬢様の味方です」
「セバスチャンが万が一にでも冷たくなったら生きていけないから、食べたりしないで……」
「大丈夫、私は一口も食べてませんよ」
「……さっきから、なにかおかしいな。キャシーのクッキーに何があるんだ。カトリーヌが倒れたのも僕がクッキーを食べたと言った後だよね? セバスチャンも、絶対食べないとか食べても味方だとか。セバスチャン、命令だ。キャシーのクッキーに何があるか教えろ」
「私の主人は、カトリーヌお嬢様です」
「お前は使用人だ。僕の方が立場が上なんだから、命令に従え」
「カトリーヌお嬢様のご命令であれば聞きますが、ルシアン様のご命令は聞けません。お嬢様にも危険が及びますから」
セバスチャンと、ルシアンが睨みあう。どちらも譲る気はないわね。セバスチャンが話さないと思ったのか、ルシアンは私にターゲットを変えてきた。
「カトリーヌ、キャシーのクッキーに何があるの? 僕はカトリーヌの味方だから、教えてくれる? 少なくとも、僕は二度とクッキー食べないよ。あれは良くないものなんだろう?」
ルシアンの誠実な説得は、つい聞きたくなるのよね。セバスチャンを見つめると、ため息をついている。
「確証はありませんので、他言無用であればお話致します。ルシアン様にも関わる事ですしね。ただ、確証があるわけではない事はご了承下さい」
「分かってる。話してくれるだけで充分だし、騎士の名にかけて秘密は守る」
「おそらくですが、キャシーお嬢様のクッキーには、キャシーお嬢様に好意的になる成分が入っています」
「だから、僕はキャシーを守ろうとしてカトリーヌに虐めてるのか? 等と聞いたのか。僕は今後は問題ないのか?」
「おそらく大丈夫ですよ。召し上がったのは1枚ですしね。今後は召し上がらない事をおすすめしますよ」
「そんな怪しいもの食べる気はないが、ルバート王子は召し上がっている。止めないとまずいではないか!」
「急に摂取を止めると、クッキーを求めてますますキャシーお嬢様に依存する可能性があり危険です。少しずつ減らすしかありません。現在、キャシーお嬢様がお持ちのクッキーを、少しずつ安全なものにすり替えています。一気にすり替えると王子も危ないのでしばらくは我慢して頂くしかありません。依存が続くと大量のクッキーを求めてしまい、一度に大量摂取すれば命に関わるかもしれません」
「……それは、かなり問題だぞ。すぐにそのクッキーを調べるべきだ」
「既に調べていますよ。ですが何も出ないのです」
「何故だ、セバスチャンが調べて出ないなどあり得るのか」
「どれだけ調べても、普通のクッキーなんです。ですからクッキーが原因といえない。せめて、クッキーを食べた者が分かりやすく変われば状況証拠にできますが、食べている筆頭は元々娘に冷たかった父親と、蔑ろにしていた婚約者ですからね。使用人も、キャシーお嬢様贔屓になってきてはいますが、王子の婚約者を大事にしろとの旦那様のご命令がありますので、クッキーが原因だとは言えません。だから困っています。証拠が出れば、然るべき所に訴えるのですが」
「セバスチャン、クッキーに入ってるの惚れ薬じゃないの? それなら成分は分かってるんじゃ?」
「そう思って調べていたのですが、何も出ないのです。今も調べている最中でした。クッキーが原因か分からないので、今できる事は、安全なものに少しずつすり替えるしかないのです」
何も出ないって、ますます怪しいわ。ゲームの強制力とかあるの?!
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