第5話

「カトリーヌ、婚約破棄されたんだって? 俺もなんだよ。振られた者同士、婚約を結ばないか?」


私の死亡フラグを運ぶ男、クロードが現れた! や、やばい! なんで私に来るのよ!


確かに学園でちゃんと話せる人が欲しいとは願ったけど、なんでクロードなの!


クロードのルートは怖すぎるのよっ!


「それは世間体が良くないんじゃないかしら……」


「そうかい? 婚約破棄された時点で君の価値は底辺だろ? 俺はそんな事ないけど、他の相手見つけるのも面倒だし俺にしておかないか? 馬鹿は嫌いだから、婚約解消は大歓迎だったしな」


「ああもう! その毒舌を直しなさい!」


「無理だね」


クロードは、幼なじみだ。気安く話す仲ではあるけれど、ゲームだと婚約解消を機にキャシーにベッタリになる筈なのに、なんで私に来るの?


クロードの態度も、いつもと変わりない。ゲームでは、キャシーを虐めた私を嫌って色んな事をしてくるのに。


全てがゲーム通りじゃないのね。そうよね、私もセバスチャンも、クロードも生きてるんだもの。


クロードの態度は変わらないのに、怖がったり疑ったりするなんて失礼だった。


「クロード、わたくしと結婚するのは無しよ。キャシーとの婚約が無くなってわたくしと婚約したら、両家がどうしても繋がりを持たないといけない理由があるんじゃないかって疑われる。お互い、良い事がないわ」


私はともかく、クロードは引く手数多。


キャシーと婚約が無しになっても、すぐ次の婚約が決まると思う。


「えー……そんなの気にしなくて良いじゃん。カトリーヌと結婚してくれる人を探すのは大変でしょ? 俺にしときなよ」


「クロードはお相手に困らないでしょう。わたくしは家を追い出されるんだから、わたくしと結婚するメリットがないわ」


「キャシーは公爵家を継げないでしょ?」


「継がせるつもりみたいよ」


「え、ルソー公爵ってそこまで馬鹿だったっけ?」


馬鹿。確かにそうだ。


あの家を継げるのは私だけ。キャシーじゃ無理だし、ルバートでも厳しいと思う。


けど、クロードみたいにおかしいと思ってる人は少ない。当たり前にキャシーが公爵を継ぐと思ってる。セバスチャン、メアリー、クロード……。優しい人達の共通点は何?


「何か、ある筈」


お父様、使用人、ルバート、お友達、私に冷たくなった人と、セバスチャン達の違いはなんだろう?


「クロード、キャシーとはどんな話をしていたの?」


会話に何か秘密があるのではないかしら。


「カトリーヌに言うのは申し訳ないんだけど、あの子距離が近いんだよね。すぐベタベタしたがるし、話もいつも同じだし。それに気味が悪いんだ。俺と父上に確執があるって思ってるの。そんな時期もあったけど、今は違うって言っても、無理しないで! 私のクッキーを食べてってうるさくて会話が通じない。申し訳ないけど、婚約解消になって良かったよ」


「クッキー……?」


「毎回貰ったよ。俺は甘いものが苦手だから、大抵は屋敷に帰る前にカトリーヌの家のメイド達にあげちゃうんだよね。って……ごめん、失礼だよな。この事内緒にして」


「クロードは……キャシーから貰ったクッキーを食べてないのね?」


クッキー……あれ、なにか引っかかる……。

そういえば、メイドはクッキーをよく食べていた。メアリーは、確か甘いものが苦手だ。


まさか、メアリーはクッキーを食べてなかったとか?


「うん。メイド渡す時には袋は変えてるからキャシーのクッキーとは思ってないと思う。ホントにごめん!」


「そういえば、お父様もよくクッキーを召し上がっていたわ……ルバートも……」


お友達も、キャシーがクッキーをあげていた。私は食べるなって言われたから食べなかったけど、もし、あのクッキーに何かあるなら……。


「カトリーヌ? どうした?」


「なんでもないわ! クロードありがとう! またお話ししましょ」


「じゃ、俺との婚約を受けてくれる?」


それはない。私と結婚してもクロードに利益がない。むしろ、マイナスだ。家を追い出されて貴族ですらなくなってしまう私と、次期宰相のクロード。つり合う訳ない。


「わたくしは貴族でなくなってしまうでしょう。次期宰相のクロード様にはふさわしくありませんわ」


「あーあ、また振られたよ。けど、学園でまた話しても良い? 最近カトリーヌから避けられてる気がしててさぁ」


「もちろんよ。避けてた訳じゃないんだけど、最近みんなに嫌われてるから……話さない方が良いかなって」


学園では、いつも1人だから。


「そんなの気にしなくて良いよ。カトリーヌは頭も良いし、話してて楽しいんだ」


「嬉しい! ならまたお話ししてね」


「ああ。今度ゆっくり茶会でもしよう。お互いフリーなんだから気にしなくて良いしね。もちろん、もう婚約を迫ったりしないよ」


「ふふっ、クロードが婚約を申し込んだって事になればわたくしの価値は上がるものね。ありがとう」


「バレたか。大体、みんなおかしいんだよ。カトリーヌが虐めなんてする訳ない」


クロードは、信じてくれた。


他にもきっと私を信じてくれる人がいる! キャシーのクッキーが原因かは分からないが、すぐにセバスチャンと相談しないと。

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