第2話

「……なんでも、ですか? では、お嬢様が怯えている理由を包み隠さずお話し下さい。悪役令嬢とは、なんですか? お嬢様が破滅するとは? ご安心下さい。私はお嬢様が小さな頃からお仕えしておりますから、お嬢様の最大の味方ですよ」


セバスチャンが優しく目を見て話しかけてくれる。小さな頃から悪戯をしたらいつもこうやって叱られていたわ。でも今は、叱ると言うより、心配してくれてる? 話して良いのかも。セバスチャンはゲームではカトリーヌを助けてた。それなら……味方になって貰えるんじゃないかしら。


「私は悪役で、キャシーの引き立て役なの。この騒ぎにお父様もルバートもイライラして、私とルバートの婚約は破棄されるわ」


「お嬢様とルバート王子の婚約は王命ですよ。破棄などありえません」


「同じ家のキャシーなら良いでしょって事じゃないかしら」


「ありえません。キャシー様は奥様の連れ子で公爵家の血を引いていないではないですか」


「……ホントだわ。どうして気が付かなかったのかしら」


「お嬢様が急に飛び降りようとなさったのもおかしいですね。私がお育てしたお嬢様はいくらショックな事があっても飛び降りはあり得ません。お嬢様は、高所恐怖症ですから」


「本当だわ!!!」


やはり、色々おかしいわ。セバスチャンと話していると色々整理されてきた。


「セバスチャン、全部話すわ。だから、誰にも言わないで。お願い」


「もちろんですよ。誰にも言いませんから、安心して下さい」


わたくしは、セバスチャンに思い出した事を全部話した。前世だとか、この世界がゲームかもしれないとか、躊躇する事も多いのに……セバスチャンに優しく促されると全て話してしまう。


粗方説明を終えると、部屋のドアを乱暴に叩く音がした。


「カトリーヌ! カトリーヌは部屋にいるか?!」


「ど、どうしようセバスチャン!! 部屋に2人でいるところを見られたらお叱りを受けるわ!」


「ご安心下さいお嬢様。私は隠し扉から出ます。夜皆が寝た後に部屋に伺いますね」


「わ、わかったわ!」


隠し扉なんてあったのね。知らなかったわ。


「お父様、お待たせ致しましわ。クローゼットにおりましたので遅くなりましたの。またわたくしのアクセサリーがなくて……」


結局、アクセサリーは回収できなかったから言い訳にして良いわよね。


「ふん! そんな事どうでもいい」


娘の持ち物がない事を心配もしないのね。お父様も変わってしまったわ。


「そうですわね。お父様には関係ありませんわ」


「相変わらず可愛げのない。いいか! お前とルバート王子の婚約は、破棄だ! いま王城に使いを出している! ルバート王子とキャシーが婚約して公爵家を継ぐからな。お前は近日中に、学園の寮に戻れ。最後の情けで学園だけは卒業させてやるから、卒業まであと3ヶ月のうちに身の振り方を決めろ! いいな!」


「……そんな」


「ふん、泣きもしないとは可愛げのない! 早く荷物を纏めておけ!」


そのままお父様は乱暴にドアを閉めて出て行った。


「ストーリー通りなんて……どうしてよ……」


………………………………


「愛の果てに」


三角関係がテーマの乙女ゲームで、やたらと三角関係になる。場合によってはそれ以上もある。主人公のキャシーは、母親の再婚で公爵家に入った元平民。母親は父親の愛人だった元娼婦。カトリーヌの母が死んで、娘のキャシーが居るからと公爵家に受け入れられる。


姉のカトリーヌにいびられながらも、努力を重ねて立派な公爵令嬢になったキャシー。助けてくれたルバートと恋仲になり、カトリーヌの所業に怒ったルバートが、婚約破棄をするとキャシーがルバートの婚約者になる。


元々婚約が決まっていたクロードとは、まだ婚約を結んでわずかな期間しか経っていないからと穏便に解消された筈が、クロードが毎日学園で話しかけて来るようになる。


ルバートは嫉妬して、クロードは婚約者の時より近づいてくるようになり、更にルバートの護衛であるルシアンもキャシーに興味を持ちだす。


ドロドロがテーマなだけあるわよね。


そこにずっと邪魔者として現れるのが、私、カトリーヌだ。


わたくしは婚約が破棄されても婚約者ヅラをしてルバートにまとわりつき、幼馴染のクロードとベタベタして、ルシアンと剣の稽古をする。


キャシーが攻略対象の3人と過ごそうとすると、カトリーヌが邪魔をしに来る。ゲームをしていると、うざったく思っていた。大抵、攻略が進むと事故で死んだり、酷い時は攻略対象に殺されたりする。


特に、宰相の息子のクロードは密かに毒を盛ったり、事故に見せかけて殺したりするから、要注意人物だ。


ルシアンは正義感が強いからさほど酷いことにはならないんだけど、バッドエンドだとキャシーを守ろうとしたルシアンに剣で殺されるのよね。あれは痛そうだから勘弁してほしい。


ルバートは、どのルートでも最初から好感度が高くてすぐ攻略できる。王子の権力ですぐにカトリーヌを国外追放してくるのよね。しかも準備期間なんて与えられずに国境に捨てられる。ドレス姿で。死ねって事よね。


「セバスチャン、もう無理! いきなり婚約破棄だなんて! 私は、毒を盛られるか、剣で切られるか、事故死か、国外で野垂れ死ぬわ! 死ぬしか私の未来はないの?! 前世も早世したんだから、今世はおばあちゃんまで生きたいわ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る