妹と婚約者の関係にキレて飛び降りようとしたら、私は悪役令嬢だと思い出しました
編端みどり
第1話
「キャシー、なんて可愛いんだ。ああ、キャシーが僕の婚約者なら良かったのに」
「わたくしも、ルバート様が婚約者なら良かったのに。クロード様は、お仕事がお忙しいの。誕生日にしかプレゼントもくれないし、お会いするのも週に一回、ルバート様のように毎日会っては下さらないし、こんな風にいい事もしてくれないわ。結婚するまで待てって仰るの。ねぇ、お姉さまよりわたくしの方がいいでしょう?」
「もちろんだ。あんな女よりキャシーの方が良いに決まってる」
「そうでしょ、そうでしょ?! やっぱり私がヒロインなのよ! ねぇ、お父様のところへ婚約者を変えて貰うよう頼みに行きましょう」
なんで妹と婚約者のラブシーンなんか見なきゃいけないのよ。キャシーがまたわたくしのアクセサリーを勝手に持って行ったから、クローゼットの中を探していたら声がして、出て行こうとしたらリップ音が聞こえて、出るに出れなくなった。どこまでしてるのか分かんないけど、これ完全に浮気よね? 確かに私よりキャシーの方が可愛いわよ! わたくしは愛嬌もないし、冷たい印象と言われる。何もしてないのに下級生から謝られた事もあるわ。何故かわたくしを怒らせたせいでみんなから無視されると言われたわ。結局誤解だったけど、分かってもらうまで大変だったのよね。
最近、似たような事が増えた。わたくしが悪女だと噂でも流れているのかしら。何もしていないのに。このキツめの顔がいけないのかしら。
キャシーは、義理の妹だから似てなくて当然なのに1人だけ似てないからとわたくしは家族からも放置されている。なんだかお父様も最近冷たいのよね。キャシーをいじめるなって怒られるようになったし。
どちらかと言うと、いじめられてるのはわたくしではなくて?!
わたくしには小さな頃からの婚約者、ルバートが居る。この国の第二王子で、わたくしと結婚して我が家を継ぐ予定だ。うちは公爵家。王家の方を受け入れる土台はある。けど、ルバートは女好きで娼館に通ったり令嬢に手を出そうとしたり。お父様も頭を抱えていた。それでも婚約者の義務としての茶会やプレゼント、夜会のエスコートはしてくれていた。
でも、今はプレゼントを渡すのもエスコートするのもキャシーだ。もちろん、抗議した。けどお父様もにもルバートにも冷たい女だと罵られただけだった。
けど、先日キャシーは婚約した。相手はわたくしもよく知ってる。しっかりした人で、常識もある。今までは婚約者の妹と仲良くなる為だと言い訳出来たけど、婚約者が出来たら話は別だ。エスコートは婚約者がする。
これからルバートとの仲を修復すれば良いと思っていた。けど……けどっ! こんなラブシーンを見るなんて、もう嫌。
「もういいわ、どうせお父様もキャシーの味方だもの。キャシーがルバートと家を継いでわたくしは追い出されるんだわ。それなら、邪魔者は消えてあげるわ」
なぜこんな思考になったのかはわからない。だけど、すぐ消えてしまいたいと思い、せめてキャシーの部屋から飛び降りてやると、ベランダの柵に手を掛けたら……。
「カトリーヌお嬢様、いけません!」
執事のセバスチャンが、飛び降りようとするわたくしに抱きつき、その拍子に頭を打ってしまった。目の前にセバスチャンの顔が見える。あら、セバスチャンってこんなにかっこよかったかしら?
セバスチャンって執事の典型的な名前よねぇ。漫画とかアニメに、セバスチャンって名前の執事が何人いるのかしら?
……おかしいわ、漫画って何? アニメって、何よ?
頭の中に今までにない知識が飛び込む。そうだ、私は……乙女ゲームの悪役令嬢だ。
倒れた私を、セバスチャンは部屋に運んでくれたらしい。ちょうどみんな忙しい時間らしく、誰にも見られてないそうだ。キャシーの部屋とわたくしの部屋は隣だしね。
「セバスチャン、本当にありがとう。馬鹿な事しようとしてごめんなさい」
「とんでもありません。お嬢様がご無事で良かったです。ですが、本当に旦那様にご報告しなくて宜しいのですか? カトリーヌお嬢様が、ここまで追い詰められていると分かれば、旦那様もキャシーお嬢様ばかりを優遇せずにカトリーヌお嬢様を大事にして下さる筈です」
「良いのよ。お願いセバスチャン、誰にも言わないで!」
ここは、重大な分かれ目なのだ。カトリーヌの自殺騒ぎは、ルバートも巻き込んで大騒ぎになる。だけど、ルバートもお父様も、悲劇のヒロインぶる私に辟易して、してもいないケガを理由に婚約破棄をし、ルバートとキャシーの婚約が成立するのだ。キャシーの婚約はまだ成立したばかりだったし解消はすんなり行われる。でも、キャシーの婚約者のクロードは、婚約が解消されてから急にキャシーに執着しだして、ドロドロした三角関係になるのよね。ここに他の攻略対象も混ざるから、ややこしいのよ。
でも、まだストーリーは序盤だ。ここで騒がなければ、わたくしは助かるかもしれない。心配そうなセバスチャンは今にもお父様に報告に行ってしまいそうだ。
「お嬢様、やはり顔色がよろしくありません。旦那様にご報告し、医者を手配します」
やめて、それだけは!
「お願い、やめて! なんでもするから! 悪役令嬢になって破滅するのは嫌なの!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます