第九話

 フォルダの中には復元されたメールや、掲示板のスクリーンショットが大量に入っていた。一応、相山が時系列順にまとめてくれてはいるが。とりあえず明善は目についたものから、片っ端に目を通す。

 どうやら、最初にアルミトスの人間と接触を持ったきっかけは、誤送信を装ったメールのようだ。三ヶ月前、ちょうどゴールデンウイークの時、一通のメールが我妻の元に届いた。そのメールはとあるコミュニティのメンバーに向けた体のものであり、我妻は律儀に誤送信を連絡した。すると、メールの送り主はお詫びとして、香水やコスメをプレゼント。さらに会員限定の掲示板に招待。そこからやりとりが始まったようだ。

 明善が最初に抱いた感想は、ずいぶんと悠長にやりとりをしていたんだな、というもの。大抵の場合、異世界人はこちらの人間と接触して、そう間を置かず向こうに連れて行く。もちろん、誰でも良いというわけではない。人格に問題がある人間を連れて行ってしまうと、反乱などを起こされる。逆に頭が良すぎたり、融通が効かない人間でも扱いづらい。だから、そこそこ思考力があり、そこそこ素直な人間、要は操るのが簡単な人間を連れて行く。そのような人間であるかどうか見極めるため、ある程度やりとりをする。だが、やりとりの期間が長いと、周りの人間や異犯対に気取られるため、長い時間はかけられない。多くの場合は一ヶ月ほどのやりとりで連れて行く。一人の人間に三ヶ月もかけるというのは、明善も聞いたことがない。

 それに気になることがある。我妻に送られたお詫びの品だ。我妻からメールを返信された時、メールの送り主は我妻のことは知らないはず。なのに、年頃の少女が喜ぶような品を送ってきた。

 まるでのではないかと、勘繰ってしまう。

 明善はそんな疑問を持ちながら、資料を読み込んでいく。当初は掲示板上でのやりとりだったが、途中から我妻だけに特別な話があると、メールでのやりとりに戻っている。

「……想起の花?」

 ちょうど一ヶ月前のメールで、送り主は自分が異世界アルミトスの人間であることを明かしている。そのメールには、アルミトスに想起の花というものがあると書かれている。

「えーと、なになに。人間の記憶を鮮明な映像とし見せることができると。他者に見せることも可能であり、記憶喪失の人間に記憶を思い起こさせたり、崩壊していた家族の関係も修復したことがあると。崩壊した家庭の修復……」

 そのメールの後、我妻は想起の花について何度も聞いており、どうやったら手に入れることができるかと、非常に強い関心を持っていた。

「ああ、なるほど。そういうことか」

 ようやく、我妻がアルミトスに向かう決意をしたのか、腑に落ちた。

 彼女は家族を取り戻そうとしたのだ。想起の花を使い、家族がまだ笑って楽しく過ごしていた頃を両親に思い出して欲しかった。日記では両親に対し不満、恨みつらみをこれでもかと綴っていたが、その一方で両親を深く愛していたのだろう。

 そこを異世界人にまんまとつけこまれたのだ。

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