第44話
夜にも関わらず、オフィスビルや繁華街の明かりで、部屋から見える夜景はキラキラと煌めいていた。まるで暗闇の中に宝石が散りばめられたかのように、眩い光が輝いているのだ。
ギュッと手を握って綺麗な夜景を見下ろしながら、意外と平常心を保つことが出来ていた。
彼女がその気はないと分かっているだけで、期待をしていない分ドギマギせずに済んでいるのだ。
「実は私も予約してたの…だから驚いた」
「そうなの?律もそんなに夜景見たかったんだ」
「え……?」
背伸びをして、頭ひとつ分高い位置にある彼女へと口付けをする。
薄暗い室内だというのに、間接照明のおかげで律の表情がよく分かった。
「先シャワー浴びてくるね。上がったらゆっくり夜景見よう?」
バスルームへ移動して、身に付けていたワンピースのファスナーを外す。備え付けられたシャンプーは普段愛用しているものと違ったが、使い心地は悪くない。
ゆっくりと湯船に浸かってから、ふと下着をどうしようかと悩んでいた。
「……まあ、いっか。1日くらい」
バスローブをそのまま体に巻き付けるが、律に性的な意図はないだろうから問題ないはずだ。
ドライヤーでロングヘアを乾かせば、自慢の巻き髪はストレートヘアへ変身する。
メイクもしていないため、普段よりどこか幼くなってしまうのだ。
室内へと戻ってから、ソファにて寛いでいる彼女と入れ替わる。
「……すぐ戻るから」
「ゆっくり浸かってきていいよ?」
笑みを浮かべながら返事をすれば、優しく髪の毛に触れられる。
「……こういう時は髪の毛は洗わなくて良いんだよ?」
去り際に残された言葉が、やけに耳に引っ掛かっていた。一体どういう意味なのか理解できずに、小首を傾げてしまう。
「どういうこと……?」
彼女は当然バスルームへ移動してしまったため、溢された声に対する返事はない。
そんなに早く夜景を見たいのだろうかと、子供じみた結論を導くことしか出来なかった。
一足先に、眩い夜景をガラス越しに見つめていた。最上階にあるため、都内の夜景が一望できてとても綺麗なのだ。
美しさに心を奪われていれば、20分もしない内にガチャリと扉の開く音が聞こえてくる。
「おかえり、やっぱりすごく綺麗だよ」
返事に代わりに頬に手を添えられて、そのまま彼女の方へと向かされる。頬に触れた柔らかさは、何度も味わったことがある彼女の唇だった。
「……え」
続いて角度を変えながら唇にキスを落とされて、戸惑っている間にベッドへと押し倒される。
柔らかいスプリングに背中を預けながら、見下ろしてくる恋人の熱を宿した瞳をジッと見つめていた。
「え……?律……?」
名前を呼ぶのと同時に、再び唇を奪われていた。今度は触れるだけの可愛いものではなくて、半開きになっていた口内にあっさりと柔らかいものを侵入されてしまう。
煽るような舌付きは酷くいやらしく、あえて水音が鳴るような激しい動き。
敏感な唇の裏側をチロチロとなぞられれば、擽ったさともどかしさでくぐもった声を上げてしまう。
「んっ…ンッ、あッ……」
キスをされながら彼女の指は蘭子の太ももを撫でていて、バスローブ越しだというのに微々たる快感が込み上げてくる。
咄嗟に太ももを擦り合わせながら、快感を逃がそうと腰を浮かせていた。
「……っ、律ぅ」
散々口の中を掻き乱されて、息を乱しながら彼女の名前を呼ぶ。
「なんで……」
「どうかした…?」
「今日、シないかと思ってたから…」
あまりにも蘭子の言葉が予想外だったのか、驚いたように大きく目を見開いている。
こちらだって、本当はシたくて堪らないのを必死に理由付けて抑え込んでいたのだ。
「本当に夜景が見たかっただけなの!?」
「だってジェルネイルしてたから!」
勢いよく言い返せば、細くて長い指をこちらに見せつけてくる。先端に施されていた綺麗な装飾はなくなっていて、短く切り揃えられた自爪へと変わっていた。
きちんとヤスリまで掛けているのか、表面は艶々としていて綺麗に丸くなっている。
「え……」
「あれ、ネイルチップだから」
お風呂に入っている間に外してしまったらしく、最初からジェルネイルなんてしていなかったのだ。
全てを理解して、一気に頬に熱が溜まっていく。勝手に自己完結して、1人で寂しがって。
「……ッ」
「……あんな約束したんだから、シないわけないでしょ」
「だって……紛らわしいよ、律はそんなつもりなかったのかなって寂しかったのに」
拗ねるように言葉を漏らせば、チュッとリップ音をさせながら優しいキスを落とされる。
背中に腕を回してギュッと抱き付けば、彼女の体の柔らかさが伝わってくる。
きっと蘭子が下着を身につけていない事を、彼女だって気づいているはずだ。
「……ンッ、ん」
舌を出してから、唇の表面を舐められる。あえて口内には挿入せずに、もどかしさと羞恥心に耐えるこちらの反応を楽しんでいるようだった。
「……ッ」
耐えきれずに舌を出せば、待ち構えていたかのように絡め取られる。
唇はくっ付けずに、舌だけを絡め合う姿は酷く卑猥だった。もどかしさに腰をくねらせれば、そっとバスローブの紐を解かれてしまう。
合わせを掻き分けられれば、蘭子の白い肌は彼女の前で露わになってしまっていた。
あまりの恥ずかしさに全身を赤く染め上げていればまた、耳元にキスをされる。
唇をピタリとくっ付けられてから、軽く歯を立てて甘噛みされていた。
「ん…っ、あ、ァッ…」
「……可愛い」
律はいつも蘭子を可愛いというけれど、蘭子だって愛おしい恋人を心の底から可愛いと思っているのだ。
何があっても守ってやりたいと胸に誓っていて、そのためだったら大半のことは犠牲に出来るだろう。
「……律」
「どうした?」
「……好き、だいすき」
改めて想いを伝えれば、嬉しそうに彼女の口角が上がった。お返しをするように、露わになっていた胸元へと彼女の手が触れる。
小さな突起ごと手のひらに包み込まれて、羞恥心からギュッと目を瞑っていた。
「……私の方がずっとすき」
「律……あ、ぁッ!…ンッ」
もう片方の手は脇腹を何度も撫で上げていて、彼女の手の動きに合わせて無意識に甘い声を溢れ落としていた。
恥ずかしくて聞かれたくないというのに、抑えることが出来ずに溢れ出てしまう。
人差し指で突起をピンと弾かれれば、首を左右に振りながら甘えた声を漏らしてしまう。
同じように律のバスローブの紐を解けば、大人っぽい黒色の下着を身につけた彼女の体が露わになる。
体を擦り付けてお互いの体温を伝え合いながら、甘えるように律にしがみつく。
初めて触れられる箇所を可愛がられる感覚も、あらぬ所を舐められる快感も。
恥ずかしくて堪らないというのに、同時に心地良くて仕方ない。好きな人の熱を感じられる喜びに胸を震わせながら、蘭子は愛おしい恋人に身を委ねていた。
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